第66話 予兆③
連れてこられた少年は、長袖の白いシャツにジーンズという軽装で、九州から直接ここに来たという割には、特に荷物を持っている風でもなかった。坊主頭に、うっすらとにきびの跡が見える。少年は、真奈美の言った通りまだ中学生くらいだろう。最近の東京では見かけなくなったその坊主頭のいでたちに、僕は懐かしさを感じていた。
「掛けなさい。」
緊張で顔をこわばらせながらも、少年はていねいに頭を下げると、消え入りそうな声で
「失礼します。」
と部屋に入ってきた。
真由美は、彼がソファーに腰を下ろしたのを見届けると、ほんの少しだけドアを開けたまま部屋を後にした。
「さて、こんな早くにはるばる九州から、僕に一体どんな用件かな?。」
彼の緊張をほぐそうと笑いながら話しかけたが、彼はただ、何かを考え込んでいる様にうつむいている。
「どうした?はるばる九州からやってきたんじゃないか。言いたい事があったら言ってみるといい。」
同郷のよしみか、既に彼に対して好感を覚えていた僕は、まるで小さな子供を励ます様に話しかけた。
「吉澤達夫といいます。僕は…」
彼は、暫くソファーに座った自分の足元を見ていたが、おもむろに顔を上げ僕の目をしっかりと見据えるとこう言った。
「僕は…。僕は、先生の親友の吉村とおるさんを殺した、吉澤幹夫の息子です。」
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