第58話 仲人⑰

同じくその砂鉄の一粒である真奈美と、ふと、目が合った。僕は軽く手を上げた。

 そういえば例の事件の後、僕達は真奈美を呼んで、「会長がエイトナインの個人的なスポンサーになって下さる事になった」と話した。真奈美は、例によって、

 「何となく、そんな気もしていました。会長とは、これから長いお付き合いをさせて頂けそうな気がしていましたから。」

 と答えた。そして、

 「先生、社長。流石ですね。おめでとうございます。」

 と本当に嬉しそうに頭を下げた。

 スポンサー契約は、僕達の手柄でも何でもない。ただ、真奈美の真奈美たるがゆえんがそうさせた事であり、又、エイトナインを「自分の居場所だ」と言い切った真奈美のおかげである事を、菅ちゃんは当然真奈美に話すだろうと思っていた。しかし、何故か菅ちゃんは、それをしなかった。

ふと、会長から話を聞いて涙ぐむ菅ちゃんの姿が目に浮かんだ。その涙の訳を、その時僕は、知る由もなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る