第57話 仲人⑯
「会長が誰かの個人的なスポンサーになる」そんな事は、天地がひっくり返っても、まずありえない事だったからだ。
「菅原君。僕は常々思っていたが、君のまわりには、とても素晴らしい人達が集まっているね。私が言うまでもないだろうが、その「縁」と、それから、君の「徳」とに感謝しなければならない。」
会長はそう言うと、黙って右手を差し出した。
「いやぁ、今日は実に楽しい結婚記念日だ。天気もいいし、これから私は家内と出かける事にするよ。」
僕と菅ちゃんはそれぞれ会長と握手を交わし、会長室を立ち去ろうとした。
「あぁ、それから、これも言っておかねばなるまいな。さっき真奈美君に電話してね。来週、うちの夕食会にお誘いしたよ。家内も娘も、とても彼女に会いたいそうでな。…そして又、私も彼女に今日の話をしたくてね。」
「君のまわりには、素晴らしい人達が集まっているね。」
会長と真奈美が、円卓で楽しそうに話しているのを見ながら、僕は会長の言葉を思い出していた。会長の言葉通り、オフィスナインには才能と個性溢れるスタッフや仲間が、集まっている。そして彼らは、人間的にもとても魅力的であり、又、「人として大切にしなければならない何か」をとても大切にできる人たちだ。彼らは、菅ちゃんを中心にしてエイトナインに集まって来た。僕は写真家だからか、物事を象徴的に捉えたり表現したりする事が多いが、この件に関して言えば、菅ちゃんを核として…そう、丁度ばらまいた砂の中から、砂鉄だけが、磁石をめざして集まる様に彼らはエイトナインに集まってきた。 そして僕は常々、僕が菅ちゃんに引き寄せられた砂鉄の一粒である事を誇りに思っている。僕が自ら選んだのではない。人々の出会いは確かに…そして誰かに導かれているのだと確信している。
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