いつもなら、話の途中でも席を立って学校に行ってしまう娘がだよ…。結局最後まで私の話を聞いて出かけて行ったよ。

僕の方は、今朝一番で会議が入っていてね。それまでに、このてるてる坊主をどうにかしなければと、何度も顔を洗ったり、クリームで落としてみたりしたんだが…。よほど僕のほっぺたの居心地がいいのかな、まだ、ここにおいでだよ。」

　そう言って、ピシャリとほっぺたをたたいた。

　僕も菅ちゃんも、会長がお怒りではないとわかって、初めて会長の顔をまじまじと見たが、確かにそこには、うっすらとてるてる坊主様がおいでになった。

「会議なんて、たまにはキャンセルなさるといいんだわ。」

　「めずらしく家内がそう言うのでね。僕はここ何十年かで、初めて会議をキャンセルしてみたんだ。そして…。」

　会長はいたずらっぽく笑うと、

　「今朝は、初めて社員用のエレベーターを使ってみた。」

　とほほ笑んだ。

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