第53話 仲人⑫
会長を待つ時間は、1時間にも2時間にも感じられた。
“もともと僕もエイトナインも、偶然から始まった奇跡だ。これで全てが終わりになったとしても、それはそれでなるがままよ…。”
僕にしては珍しく、落ち着き払っていた。
「彼らは、僕が守るべき家族です。」
菅ちゃんの言葉が、僕の心に響き渡っていた。
「カチャリ」とドアが開いて、小野瀬会長が入って来た。そのオーラに押されて、僕達は、弾ける様に立ち上がった。
さっきまでの落ち着きはどこかに行ってしまい、僕も菅ちゃんもチラリと会長の顔を見ただけで、それこそ、前に倒れてしまうかと思う程、頭を下げた。
「この度は、うちの雪野が大変失礼な事をしてしまい、大変申し訳ございません。どの様にお詫びすれば良いものか、正直申し上げて、言葉もございません。全てはわたくしの責任です。いかなる処分もお受けします。大変申し訳ございませんでした。」
二人とも、息もできぬまま、ただただ頭を下げた。
しばしの沈黙が続いた。
「はっ、はっ、はっ。やはり詫びに来るのではないかと思っていたよ。」
会長の朗らかな笑い声に、僕と菅ちゃんは、頭を下げたまま顔を見合わせた。
「さぁさ、先生も菅原君も、どうか顔をお上げなさい。」
おそるおそる顔を上げると、会長は続けた。
「いやぁ、実に楽しい夜だったよ。そして、彼女は…真奈美君は、実に素晴しくアトラクティブなお嬢さんだ。彼女の様にまっすぐな女性と話ができたのは、何十年ぶりだろう。」
会長はそう言うと、僕たちに座る様、促した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます