第52話 仲人⑪

 思った通り、予定よりもかなり早く会長の待つ会社に着いた。タクシーから降りて、そのビルを見上げると、あまりの高さに、しばし目まいを感じた。

 受付で名前を告げると、

 「すぐに秘書がおりて参りますので、こちらでお待ち下さい。」

 と、さながらホテルのラウンジの様な所に通された。

 席に着くと間もなく、スーツを着こなした中年の男性が現れた。

 「会長がお待ちです。どうぞこちらへ。」

 そう言って頭を下げると、僕たちを会長室直通のエレベーターまで案内した。そしてエレベーターに一緒に乗り込むと、「P」というボタンを押した。

 エレベーターは、音もなく、加速しながら上がっていく。


 「会長はいつもお忙しくていらっしゃるのに、今日は、少しお時間にゆとりがおありだったのですか?。」

 僕は耐え切れずにさぐりを入れてみた。

 「いえ。先生と菅原社長がお見えになる事が決まりましてから、お出かけまでのご予定を全てキャンセルなさいました。」

 僕も菅ちゃんも、彼に悟られぬ様、大きく静かに深呼吸した。

 会長室に行くのは、今回が初めてである。

以前スポンサー契約を交わした時も、確かそれは会長室ではなく、会議室だったはずだ。秘書に案内されて、僕たちは会長室へと足を踏み入れた。

足首まで沈んでしまいそうな絨毯を歩き、大きな大理石のテーブルのある応接間へと通された。

 「どうぞお掛けになってお待ち下さい。」

 静かにドアが閉められた。

 ここに入る資格を持っている者は、きっと世界でも限られた人物に違いない。だがしかし、社員が会長のほっぺたにてるてる坊主の落書きをした件についてここにいるのは、間違えなく、僕達が最初で最後であるに違いない。応接室に飾られた素晴らしく煌びやかな装飾品を見ながら、僕はぼんやりと考えていた。

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