第34話 別れ④
「僕は…。」
小野寺がおもむろにしゃべり始めた。
「僕には父親がいません。小学生の頃に父が亡くなってから、母は女手一つで僕を育ててくれました。母一人子一人で、母は、昼も夜も働いて…苦労して僕を育ててくれました。お世辞にも裕福とはいえない生活をしていましたが、僕が「野球がしたい」と言った時も、「東京の高校に野球進学したい」と言った時も、母は決して駄目だとは言わず、僕の夢を後押ししてくれました。僕の夢は、いつしか、「野球選手になる」という事よりも、「野球選手なって、きっと母に楽をさせてあげたい」という事に変わっていきました。だけど実際に東京に出て来てみれば、僕よりも優れた選手はたくさんいて、どんなに努力しても努力しても、僕はその才能には恵まれなくて、結局どこの球団からの指名も受けずに、母にはお金と苦労だけをかけて僕の野球人生は終わりました。
卒業していざ就職しようとしても野球しか知らない僕を雇い入れてくれる会社はどこにもなくて、僕はそれこそ真っ暗闇にいました。母に楽をさせてあげるには、母をこっちに呼び寄せて生活する為には…自分で事業をやるしかないと思ったのですが、その資金を借りようにも、社会的な信用もなく、保証人がいない僕に銀行はお金を貸してはくれませんでした。田舎でパートをいくつも掛け持ちしている母は当然保証人にはなれず、困りに困った僕は、監督に保証人になって頂けないか、相談に行ったんです。この話、ご存知でしたか?」
小野寺は奥さんの顔を見た。
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