第12話 知らされなかった事実③
「それで、とおるは今どうしてる?」
僕の再度の問いかけに、その場に何とも言えない妙な空気が流れた。
「死になさったたい。」
母親が重い口を開いた。
「今、何て言うた?。」
僕は驚いて聞きなおした。
「電車に飛び込んで死なっしゃった。とおるちゃんは昔から頼まれたら嫌ち言えん性格やったけん、知り合いから借金の保証人になってくれち頼まれて二つ返事で印鑑ば押したとよ。当時はとおるちゃんの会社も良かったけんね。そしたら相手がすぐに逃げてしもうたとげな。後になって保証人になった金額も、とんでもなか金額やっちいう事がわかってから、とおるちゃんもショックやったとやろ。それでも「良か、俺が頑張れば良かっちゃけん」て言うてからほんに頑張りよったとよ。そばってん、不景気が続いてから、もうどんこんしょんなかったとやろ。まだ若かとに、とおるちゃんのごたる良か人が…。ほんなこて可哀想か…。」
母の言葉はそれ以上続かなかった。うつむいてただ涙を流しているだけだった。
「いつんこつね?」
かろうじて言葉が出た。
「あんたが賞ばとってから3年もたっとらんやったろうかね、お父ちゃん?。」
父は茶の間に飾ってある野球部員の集合写真を見ながら黙って頷いた。
「言うてくれれば良かったとに…。」
やるせない思いでそのまま外に飛び出した。ポウが僕の後をついてきた。月の光が明るく照らす道を、僕はただただ歩いた。そして、心配そうに僕の後をついてきたポウに言った。
「ポウ、僕の親友が死んじゃったんだって。」
月が照らしてできた僕とポウの影が、ゆらゆらと静かに揺れていた。
「とおるが死んだ。自殺した。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます