第13話 知らされなかった事実④

家に戻ると風呂にも入らず布団に入った。田舎ながらの静かな夜だ。

 「起きとるね?」

 母が部屋に入ってきた。母に背を向けたまま寝たふりをしている僕に母は言った。

 「とおるちゃんの事、言わんでほんと、ごめんやったね。そばってん、あんたにどげん言うて良かか、どうしたってわからんやったたい。とおるちゃんね、あんたが東京に行った後もちょくちょく家に来てくれよったとよ。

「母ちゃん、すぐるがおらんで寂しかろ?」

って言うて。あんたが怪我して、まだどうするかわからんやった時は、気ば遣ってくれてから、家から美味しいつまみば持って来て「父ちゃん、すぐるの代わりに俺が晩酌につきおうちゃるたい」て言うて、お父ちゃんと飲みよったとよ。私達にとっても息子のごたる存在やったとに。あの時言うてくれたらば、いくらでん都合つけてやったとに。あの子は、自分が辛かとは、絶対言わんでから…。心がもぎ取られるごたった。とおるちゃんの事ば知ったっちゃけん、お墓にでも参ってから帰らんね。」

 「言われんでも、そうするつもりやった。一人にしとってくれんね。」

 涙で声にはならなかった。

 受賞して3年といえば僕は先生と呼ばれて浮かれていた時期だ。そんな時期にあいつは死んでしまった。なぜ今まで知らなかったのか、どうして、せめて心だけでも彼の死を感じてあげる事ができなかったのか。僕の体は地に沈み込んでいく様だった。


 翌朝、菅ちゃんに電話して滞在を一日延ばす事を告げた。

 「先生、やっぱり実家がいいでしょう?まさかその歳でホームシックになったんじゃないでしょうね?」

 いつもの調子で話しかけていたが、電話の向こうの僕の様子がおかしい事に気づくと、

 「わかりました。用事が済んだらお電話下さい。」

 とだけ言うと電話が切れた。


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