第11話 知らされなかった事実②

当時の家庭環境が彼をそうさせたのかどうかはわからないが、彼は色々な意味で大人だった。そして、何故か「運命には逆らえない」という哲学を持っていた。彼にはとにかく友達が多かった。僕はどちらかというとあまり友達を作るのが得意ではなく野球部という限られた場所でしか友達を作る事ができなかったが、頼まれれば嫌とは言えない彼の性格や、又、自分を頼ってきてくれた友達に必要以上に心底力を貸し相談にのってあげる優しさからか、彼は驚くほど顔が広かった。僕が上京してからもしばらくは手紙のやりとりが続いたが、男ってものはなかなかの筆不精でそのうちに手紙のやり取りもなくなり、いつしか全く連絡も取らなくなっていた。丁度僕が怪我でごたついていた頃に、誰からか「彼が高校卒業後独立して会社を興し、その後結婚した」と聞いた。相手は「星野由香里」同級生だった。

僕が育った田舎では、学校も就職も同じ町でという事が多く、当然結婚相手も同級生というのも珍しくはない。僕にとっては人生で一番大変だった時期だったので、その当時はあまり彼について深く考える事ができなかった。ただ、星野由香里という名前を聞いたとき、一瞬誰だか思い出せずにいた。そして、「ずいぶん地味な子と結婚したな」と思ったのを記憶している。彼はスポーツも勉強もできたし、当時とてももてていた。その彼が星野を選んだ事がとても不思議だった。

その後僕が写真家への道を選択し、僕自身に余裕ができた頃、一度何かの用事で実家に電話した時に彼の消息を母に尋ねた事があった。が、母は言いにくそうに

「とおるちゃんも色々大変そうやけん。」

と言ったっきり何も言わなかったので、又家庭内での問題か離婚話でも出ているのかとそれ以上は聞かなかった。ただ今回久しぶりに帰郷してみて、せっかくだから一目だけでも彼に会ってから東京に帰りたい気持ちが高まった。

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