第5話 はじまり
僕はめったに郵便受けを見なくなっていた。以前は球団関係者から時々来ていた手紙も、僕の怪我をきっかけに全く来なくなってしまったからだ。その日郵便受けを空けたのは、たまりにたまった郵便物がこぼれ落ちそうになっていたのに気づいたからにすぎなかった。
たくさんの手紙を両手に持って部屋に戻ると、いつもの様にポウが「ポウポウ」と僕を出迎えた。
「すごいな、これは…。」
ドサッとそのまま床に放り投げる。郵便物はあの日からたまりにたまっていた。手紙やハガキをチェックするうちに、何だかあの日に逆戻りしそうな感覚を覚えて恐ろしくなった。
「どうせろくな物はないし、全部さっぱり捨ててやるか。」
その怖さを振り払うかの様に勢い良く郵便物を集めると、そのままゴミ箱へ向かおうとした。ところが、
「ポウポウ」
珍しくポウが二本足でじゃれつく。そして僕の足の間をくるくると回り、まるで僕をゴミ箱に向かわせないつもりの様だ。
「猫じゃらしでも紛れ込んだか?」
仕方なくそのゴミの束をもう一度床に落とした。ばらばらに散らばった手紙をポウは暫く眺めていたが、その中の一つを自分に寄せた。
「何だよ、ハンサムな猫の写真でもあったか?」
笑いながらその封筒を手にした。それは真っ白な封筒で見た目よりもずっしりと重い。差出人を見る。「全国写真協会」になっている。
「何かのダイレクトメールかな?」
どうせ捨てるつもりで乱暴に封を切った。
“第五十一回全国写真展大賞受賞のお知らせ”
僕は最初、誰かの悪いいたずらかと思った。しかしそこには、
“大賞受賞作品名 「見守ってるよ」”
と書いてある。僕は目をしばしばさせてポウを見て言った。
「君の写真、どうやら大賞を取ったらしいぜ。」
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