第12話


「あ、明日はバレンタイン、ですわ!!」


 とうとうこの日がやってきましたわ。大好きなお姉さまに気持ちを伝えらえる特別な日ですのよ!


 イチゴ、気合を入れなさい、最高のチョコを作って、お姉さまにプレゼントするのですわ!


 ❇︎


「うぅ……こんなにチョコ作りって難しいんですの?」


 さっきからずっと試作を作り続けては失敗していますの。午前中から作り始めたはずですのに、気づいたらもうひが傾き始めてるですわ。


 これは不味いですわね。もう一度手順を見直しましょう。きっと今度こそできるはず、ですわ!


 今回、私が作るのは、チョコレートケーキの王様、いや、女王の「ガトー・オペラ」ですわ!


 これは前、レストランのデザートで食べた時に衝撃を受けたんですの。今回はイチゴを使ったストロベリーチョコタブレットなんかと迷いましたけど、やっぱり王様、いや女王の響きには勝てませんでしたわ。


 まずはビスキュイ・ジョコンドと呼ばれる生地を作っていきますわ。やはり王様、生地から名前がお洒落ですわね。


 薄力粉と砂糖、アーモンドパウダーを合わせてふるう、そして卵とお砂糖を混ぜ合わせた後に、ミキサーで混ぜ合わせますの。


 私はこの段階で、ふるう時にこぼし、卵を割るときに殻が入り、ミキサーで混ぜる時にこぼしまして、合計三度の失敗をしていますの。ですから慎重に、慎重にいきますわよ。


 さすが王様、最初から死角なんてないのですわね。ですが、今回の私は一味違うんですわ!


 ここまでは順調ですわね。その次は……別のボウルに卵白を入れて泡立てた後に、さっきのボウルの中身と合わせますの。そしてバターを加えて混ぜ混ぜ。


 あとはオーブンで焼いて粗熱を取れば……


「やったーー、ですわっ!」


 これで、これで第一関門突破ですわね!


 でも、まだ油断しちゃダメですわ。ここまでは一回だけですけど、到達したことがありますの、だから落ち着いて次のステップに進みましょう。


 次はコーヒーシロップを作りますわ。これは先程の生地に染み込ませるものですわね。


 水とお砂糖、インスタントコーヒーを混ぜて沸騰させ、常温に戻しますわ。そして、さっきの生地に染み込ませていきますわ。


 家にインスタントコーヒーというものがなくて、スーパーまでわざわざ買いに行ったんですよ? お姉様にバレないよう、執事にも内緒でいったのですわよ。 


 だから、ここでは失敗できないんですの!


 次はパータポンプですわね。まあ、ふんわりとしたクリームですわね。これは卵に、水とお砂糖を沸騰させたものをミキサーで混ぜて、バターを加えるんですの。


 ここで私は水とお砂糖を焦がしてしまったんですから、注意ですわね。


「よし、ですわ!」


 ここまでは良い調子、良い調子ですわ! やっとここまでくることができましたわね。でも、逆に言えばここからは全くの未知、臨海体制で臨まなかればいけませんわね。


 次はコーヒーペーストですわ、これは水とインスタントコーヒーを混ぜるだけで良いんですわ。混ぜるだけなど、今の私には恐るるに足りませんわ!


 そしてそのペーストとパータポンプ、無塩バターを混ぜ合わせてコーヒーバタークリームを作りましたわ! ここまでは混ぜ合わせるだけですから、大丈夫ですわね。


 ここからが、鬼門ですわね。チョコを刻んで牛乳、生クリームと混ぜ合わせる、そしてバターを溶かす、ですわね。


「チョコを刻む……ですわ」


 ここに来て初登場の包丁が、怖くないと言ったら嘘になりますわ。もしかしたら、を考えると震えてしまいそうになるほどですもの。


 でも、でも! お姉さまに私が作ったオペラを食べてもらうために頑張るんですのよ! 頑張れ、イチゴ、ですわ!!


 ダダダダダダダダダダダダ


「ふぅ……ですわ」


 無我夢中で斬ってしまいましたけど、これでなんとかガナッシュと呼ばれるざっくりいうとチョコの部分が完成ですわね。


 そしていよいよ遂に最終行程、グラサージュ、ですわね。これは上からかけるチョコのことで、あのツヤ感のあるチョコのことですわ。これを、これを仕上げれば夢にまで見た、オペラの完成、ですわ!!


 お砂糖、ココアパウダー、水を溶かし混ぜ合わせて、沸騰したら生クリームを加えますの。そして、ゼラチンを加えてこしたら出来上がりですわ!


 あとはこれを上からかけて、冷やしたら……


「か、完成……ですわ」


 一体どれだけこの時を待ち侘びていたのでしょうか、とうとう、茶色に煌めくドレスを纏った王様、じゃなくて女王様が出来上がりましたわ。


 す、少しだけ味見をしても良いですわよね? 私が作ったんですもの!


 パクッ


「美味しいーーーー! ですわっ!」


 ❇︎


 そして、その手が止まるはずもなく、気づいた時にはもう、キッチンの上から女王様は退出されてしまいました。


 その後また泣く泣く夜中を一瞬で駆け抜け、朝日と共に女王が目覚めたのはまた別のお話。






——————————————————

今日、チョコをもらえなかった同士に捧ぐ

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