第8話

今日、本来なら何事もなく祖母が帰ってくる日だ。


両手にはお土産をいっぱい持って。


でも今回は、祖母が帰って来ないかもしれない。


旅行で泊まっているホテルが火事になってしまったからだ。


母や祖父は「大丈夫だよ」と言っていたけど不安と心配で、いてもたってもいられなかった。


幼稚園の男の子は「もしかしたら、おばあちゃんは帰って来ないかも?」と言うし...。


私はどうしたら良いか、分からなかった。


今日は日曜日。


朝から私はリビングに掃除機をかけた。

何度も何度もかけた。


祖母との繋がりを、「お手伝い」し続けることで感じていたかったからだ。


テーブルの上も拭き掃除をした。

これ以上ないくらい、綺麗にきれいに拭いた。


それでも不安は感じなかった。

当時は分からなかったけど、きっとあの時、大切な人の「死」への不安を感じていたのかもしれない。


幼かった私は、無意識に感じていたことだったケド...


私の出来るお手伝いが無くなり...


泣き出しそうになっていた。


そんな時、祖父が話しかけてきた。


「どうした?悲しそうな顔をして?」


私は何も言えなかった。


祖父は何故か折り紙を持ってきた。

「一緒に鶴を折るかい?俺が病気で入院した時に婆さんが鶴を持ってお見舞いに来てくれたんだ。それが嬉しくてね」と話してくれた。


祖父は生まれつき肺が悪かったそうだ。

20歳まで生きられないと診断も受けたそうだ。


そんな祖父が長生き出来たのは、祖母の存在が大きかったと、折り紙を折りながら話してくれた。


何で祖父がそんな話をしてくれたのかは、わからない。


でも、私と同じくらい祖母のことを祖父が好きなことがよく分かった。


「婆さんが帰ってきたら、折った鶴を渡すといい。婆さんはお土産を買って帰ってくるよ」といい、祖父は仕事をしに行った。


日曜日なのに、急な依頼が入り、急遽自宅の工場で祖父は仕事をすることになったそうだ。


車のエンジンの一部を加工する仕事。

祖父は1人で機会を動かして仕事をしている。


必ず、家にいるから私は1人で怖い思いをすることはなかった。


この時ほど、頼もしく、暖かく、祖父の背中が誇らしく思えた。


私は元気になれた。


(おばあちゃんが帰って来たら、折った鶴を渡そう)と、祖母が大切に育てている花々に水をあげた。


いっぱいいっぱい。

祖母が無事であるように

願いを込めて。


昼ごはんを食べ終わったころ。

私は眠くなり、お昼寝をした。


そんな時、夢をみた。


祖父と祖母が手を繋いで歩いていた。

2人とも若い姿のようだった。


海辺を歩いていた。

祖父は凛々しく、カッコよく。

祖母はとても綺麗だった。

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