第7話

祖母は夏に、町内会で旅行に行くのを楽しみにしていた。


私は、祖母が旅行で買ってくるお土産を楽しみにしていた。


祖母が不在になることに向けて、お手伝い出来ることを増やそうと様々教えてもらっていた私。


リビングで掃除機がかけれるようになったのと、テーブルの拭き掃除が出来る様になっていた。


小さくて軽い掃除機を祖母が見つけてくれて、私は更にやる気を出せた。


(リビングだけは、毎日綺麗にする)

そう決意して、私専用の掃除機を毎日使った。


その姿を見て、祖母は嬉しそうだった。


「今年は安心して旅行に行けるわ。いつもお手伝いしてくれて、ありがとう!」


祖母は笑顔で町内会のバスに乗っていった。


3泊4日の町内会旅行。


祖母と離れることが、そんなになかったので寂しさが増してくる。


1日目から、不安になった。


「早く帰ってこないかなぁ」

私は祖父に呟いた。


祖父は

「さっき行ったばかりだから、あと3日は帰らないな」とあっさり言った。


そんな言葉が欲しかったわけではない。


祖父は職人気質で口数が少ない。

夕食時はお酒を飲んでNHKを見ているような人だ。


私が望む言葉を発してくれるのは、難しいのかもしれない。


祖母がいない空間。


寂しくて悲しい。


(沢山掃除機をかけて、綺麗にしたら早く帰って来てくれるかもしれない)


必死にリビングで掃除機をかけた。


何故か涙が出ていた。


2日目の夜に、事件は起きた。


ニュースで「〇〇ホテルが火事になりました。宿泊客は〇〇人以上...」


母が

「あれっ?このホテルは、おばあちゃんが行った所じゃない?」と言うと


祖父は

「そう言えば、そうだったような...」


(えっ...おばあちゃん?)

私は何が起こったのか?

これから何が起こるのか、全く分からなかった。


祖父と母は「大丈夫」と言っていたので

私は取り敢えず安心して眠りについた。



次の日、私は幼稚園の友達に

「おばあちゃんが泊まっているホテルが火事になったの」と話をした。


「えっ?大丈夫」と心配してくれた友達。

嬉しかった。


でも、男の子は

「もう、おばあちゃんに会えないんじゃないの?」と一言言った。


(おばあちゃんと会えない)

「おばあちゃんと会えないの...嫌だよぅ」


その場で私は大泣きしてしまった。


幼稚園から帰宅する際、迎えに来た母に

「もう、おばあちゃんと会えないの?」

と質問した。


母は

「そんなことはないよ。大丈夫、元気におばあちゃんは帰ってくるよ」と私を励ましてくれた。


(これからも、沢山たくさん、お手伝いをするから元気に帰ってきてよっ!)


私は泣きたい気持ちを我慢しながら、心で何回も呟いた...。

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