第6話

祖母は不思議なクセがあった。


それは病院で貰った、うがい薬を麦茶を入れるビン(ピッチャー)に入れて冷蔵庫で作り置きをすることだった。


よりによって、夏場にそのクセが炸裂した。


うがい薬の色合いが麦茶にそっくりだったのだ。


幼かった私は、喉の渇きを潤したくて冷蔵庫に手をかけた。


実は今冷蔵庫に入っている麦茶は、私がお手伝いして作ったものだった。


昨晩、夕食後祖母と2人で麦茶を作った。


小さめのヤカンに水を張り、麦茶のパックを1つ入れて湯を沸かした。


以前に台所で火傷をしたので、今回は注意してヤカンを見守った。


ヤカンから麦茶をピッチャーに入れる作業を私が手伝った。


麦茶が溢れないように気をつけて...。

何とかうまく出来たのだった。


一晩冷蔵庫に入れて、今麦茶が飲める状態だった。


ワクワクして、冷蔵庫の中の麦茶に...

あれっ?2つある。


「箸を持つ方に麦茶を置いたよ」

と祖母が教えてくれた。


(確か、箸は右手だった)

と右にあるピッチャーを取り出した。


コップに麦茶を注ぐ瞬間。

嬉しくてたまらなかった。


そして、一口...

(あれ?苦い?)


「おばあちゃん、この麦茶苦いよ!変だよ!」


と祖母を呼んだ。


祖母は

「これは、うがい薬だよ。飲んじゃったの?」と一言。


その後、分かったことだが、祖母は左利きだった。


箸は左手に持っていた。

麦茶は冷蔵庫の中で左側にあったのだ。


そんなぁ...


幼心を少し傷つけられた瞬間だった。


ちょっと天然な祖母は嫌いになれない存在だった。



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