第15話 アルトさんは見かけによらず、お盛んなのですね


「ショックボルト!」


 僕が途方に暮れていると、横合いから誰かが初級雷魔法を唱えた。


「にゃっ!?」


「か、身体が、痺れる……」


 ケイシーとエリザの動きが止まり、道に倒れた。


 ピクピクと細かく身じろぎしている。


「いけませんね。こんな目抜き通りの往来でケンカをするだなんて」


冒険者協会会長ギルドマスター!」


 たおやかに歩いてくる女性に向かって、僕は叫んだ。


 助かった!


「ありがとうございます、二人を止めてくれて!」


「いえいえ……しかし、アルトさんは見かけによらず、お盛んなのですね。奴隷が一人では足りなかったようですから」


「えっ!?」


 冒険者協会会長ギルドマスターがケイシーとエリザを見ながら、口元を押さえてクスクス笑う。


 うわっ、これ完全に勘違いされてるね!


「ち、違いますよ! 僕はそんなつもりで二人を奴隷にしたんじゃありませんよ!」


 僕は胸の前で両手をブンブン振って否定した。


「あらあら、うふふ❤ では、そういうことにしておきましょう」


 信じてもらえてなくない!?


「さてと、このままここにいては通行の妨げになってしまいますね。ちょうどアルトさんたちに御相談したいことがありましたし、場所を移しましょう。―――浮遊フローティング!」


 冒険者協会会長ギルドマスターが呪文を口にすると、ケイシーとエリザの身体がフワリと宙に浮いた。


 浮遊フローティングは重力に干渉して物体の重さを操作し、タンポポの綿毛のように軽くする魔法だ。


 これ、かなり習得が難しいんだよね。


 重力の操作を間違うと、対象物がどこかへ飛んで行っちゃったり、逆に重くなりすぎて地面に埋まっちゃったりするんだ。


 すごいなぁ。


 こんな繊細な魔法まで使いこなせるなんて。


「では、行きましょうアルトさん」


「あ、はい!」




 案内されたのは冒険者協会ギルドの面会室だった。


 ダンと一悶着あった部屋なので、あの時のことを思いだしてしまうから少し落ち着かない。


「ふにゃー、まだ手足に痺れてるような感覚が残ってるにゃ」


「うぷっ、吐きそう」


 二人は少し後遺症があるようで、具合悪そうにしながらイスにもたれかかっていた。


 気の毒だけれど、いい薬になったと思う。


 けれど、どうしてケンカなんかしたんだろう?


 それが謎なんだよね。


 仲良くしていこうって握手までしたのにさ。


「それでは、早速ですが、私の話をお聞きください」


 僕が頭を悩ませていると、冒険者協会会長ギルドマスターが切り出した。


 とりあえず、ケンカした理由については後で聞き出すことにしよう。


「じつは最近、アークレイ山で普段は見かけることのない高ランクの魔物が出現するようになったのです。皆さん、すでにお気づきかもしれませんが」


 ああ、そういえばそうだ。


 サードアイ・グリズリーやアイアン・スコーピオンが現れて、おかしいと思ってたんだ。


 あれらは通常、この辺りのダンジョンにはいないはずの魔物なんだもの。


 冒険者協会会長ギルドマスターは僕が頷くと、神妙な表情で話を続けた。


「その理由ですが、きっと何者かが引き連れてきたのでしょう。その場所の食性や環境に適していない魔物が自然発生することはありませんし、他の場所から移動してくることも考えにくいです。元の住処に異変がある場合は別ですが、そのような事実は今のところ確認できておりません。となると、人為的に運び込まれた可能性が高いのです。そして、そのようなことができるとすれば、魔物使いビーストテイマーしか考えられません。それで、皆さんにお願いしたいのですが……」


 そこで一旦、言葉を切ると、僕へと微笑みかけながら冒険者協会会長ギルドマスターは足を組み替えた。


 対面している僕には、彼女のスカートの中が見えてしまった。


 慌てて目を伏せたけれど、さっきの光景が脳裏に焼きついて消えてくれない。


 みるみる顔が熱くなった。


「……その魔物使いビーストテイマーを捕えて欲しいのです。放たれた魔物は山の生態系を破壊しかねませんし、近隣の街や村の住人たちに被害が出るかもしれませんから、それらの罪で裁くためです」


「え、っと、ど、どうして僕たちに、そんなことを頼むんですか?」


 気恥ずかしさを誤魔化すように質問する。


「それは、皆さんが適任だと思ったからですよ」


「はあ」


 冒険者協会会長ギルドマスターの答えに、思わず気のない返事をしてしまった。


 適任と言われてもピンとこなかったからだ。


 他にもベテランの冒険者がたくさんいるはずなのに、その人たちを差し置いて僕たちに頼む理由が分からなかった。


 僕がそのようなことを告げると、冒険者協会会長ギルドマスターは目を細めて相好を崩した。


「アルトさん、私は以前、千里眼クレヤボヤンスであなたがたの能力を確認しました。だから適任だと判断しました。理由はそれで十分ではありませんか?」


 そういえば、冒険者協会会長ギルドマスターはスキルで僕たちの能力を知ってたんだった。


 なるほど、他のたくさんの冒険者と能力を比較した上で、僕たちを選んでくれたんだろう。


 冒険者としての実績やランクにとらわれず、純粋に能力を評価してもらえたことが分かって無性に嬉しくなった。




☆緊急クエスト


魔物使いビーストテイマーを捕えよ


冒険者指定       : アルト・ノア及びその従者

場所          : アークレイ山

達成条件        : 魔物使いビーストテイマーの捕縛

成功報酬        : 金貨1枚&冒険者ポイント+200

※他のクエストとの重複受注可

魔物使いビーストテイマーが複数人いる場合は、一人につき金貨1枚&冒険者ポイント+200の成功報酬を支払うものとする




 冒険者協会会長ギルドマスターは、その日のうちに上記のクエストを発注した。


 僕がこの依頼を引き受けたことは言うまでもない。




ちなみに―――




 本日のクエストを終えた時点での魔物の討伐数と報酬額、所持金の合計と冒険者カードの内容は以下の通り。


 


【討伐数】


◇ポイズン・スネーク 134体

◇ホーネット     167体

◇ハウリング・バニー  91体

◇アシッド・スネイル   0体(ネバネバしたカタツムリのようなこの魔物を攻撃するのは生理的に無理だったらしい)




【報酬額】


◇金貨15枚と銀貨68枚




【所持金の合計】


◇金貨40枚と銀貨50枚(食事代と宿代、ケイシーの服の代金を引いた金額)




【冒険者カード】


冒険者氏名   : アルト・ノア

冒険者レベル  : 15

冒険者ランク  : E

冒険者ポイント : 812/1100


【次のレベルまで、あと288ポイントです】

【冒険者レベルが20に到達すると次のステージへランクアップします】




◆ ◇ ◆




 本部に戻った冒険者協会会長ギルドマスターに、バスティアンが苦虫を嚙み潰したような面持ちで語りかけた。


「カタリーナ様、例の盗賊団の件ですが……」


 彼の顔を見て、カタリーナは悟った。


「そうですか、ダメだったのですね」


「はい。Bランクの冒険者でも歯が立たないようです。敗走した者の報告では、団員の個々の実力もさることながら、頭目の魔物使いビーストテイマーは頭一つ飛び抜けていたそうです」


「わかりました。では、取り急ぎAランク以上の冒険者に緊急クエストを発注してください」


「承りました」


 バスティアンが一礼して執務室を出ていく。


 それを見るともなく見ていると、ふいに彼女が呟いた。


魔物使いビーストテイマー……偶然でしょうか?」

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