第9怪 未知の再来  Byふぁーぷる

 私が通学する電車の最寄駅に


【ようこそ縄文の里、里山郷古代村に!】


 と大きな看板が掲げられている。


 この地域は縄文時代の遺跡が多く、遺跡を観光資源として

 大々的にPRしている。


 この駅も大きな遺跡があったそうでその上に駅が建てられ

 ているそうだ。


 今日は夕方から雨模様で直ぐにでも雨が降り出しそうな雲

 行き。


 電車に乗っている人々は、駅までお迎えを頼む連絡をスマ

 フォでかけている。


 私はまだ学生なのでスマフォとか家の負担になる贅沢は我

 慢してるから電車が着いたらホームの公衆電話から連絡す

 る事になる。




 それはスマフォは羨ましいと思う。


 友達と連絡取り合ってその内容に一喜一憂したり、その内容で

 頭が一杯だったりする。


 私はみんなの枠組みから外れている。


 でも自分はそれで良いと納得している。


 働き詰めのお父さん、お母さん。


 働くことは当たり前。


 生活、食べる為にはお金が必要。


 働いて代価を得る。


 養うべき家族の喜ぶ顔や普通に暮らせる環境、そして生命維持の

 為の食料。


 学費に病気の時の医療代、衣服に娯楽…。


 ただ与えられるだけの学生の身には実感を背に感じて毎日を生き

 る感は到底得難い。


 だからせめて自分が協力出来る事を一つでも実践したい。


 スマフォ代金は毎月に関わる。


 無くてもそれなりに生活を工夫すればどうにでもなる。


 だから親から勧められても学生の間は持たない事に決めた!




 電車が最寄駅に着いた。


 私は駅ホームの公衆電話から電話をする。


 他の人々は足早に改札に向かう。



 <ピカッ>



 丁度、テレカを鞄から出そうと下を向いている時に

 一瞬辺り一面が光に包まれた。


 カミナリかと顔を上げてももう光は消えていた。


 でも雷鳴が聴こえて来ない。




 足を止めていた人々も改札へと向かい始める。


 スマフォを取り出して操作しながら歩いている。


 皆んな笑ってしまうくらいに同じ行動をしている。


 皆んな呟くのかな。




 公衆電話でお母さんに手短に雨なので駅に向かいに

 来て欲しいと伝える。


 改札の方が騒がしい。


 皆んなが逆戻りにホームに走り始めている。


 え、何。


 何が起きてるの。


 改札口で <ピカッ>、 <ピカッ>と光る。


 <ピカッ>と光る度に悲鳴が聴こえる。


 私の所まで人が戻って来た。


 毎日の通学電車なので見知った人が多い。


 いつも疲れた顔のおじさんが見える。


 丁度ホームの自販機の影に隠れた。


 その向こうで <ピカッ>とした。


 おじさんは自販機の影から現れない。


 今度は若いサラリーマンのお兄さんが走って来た。


 自販機の影には入らずに線路側に沿って猛然と

 ダッシュして来る。


 もう私と視線が合っている。


 おにーさんは、大きく手振りを入れて逃げろ!と

 叫んでいる。


 そしてそれは現れた。


 お兄さんが手振りして大きく伸ばした手の遥か上に

 <ブ〜ン>と振動音を発しながら黒い灯台の様な形

 のものが覆い被さるように追って来ている。


 頭部分は灯台のサーチライトのような球体が載っか

 っておりオレンジ色に光っている。


 身体は円錐で真っ黒。


 然も空中を浮遊している。


 さっぱり理解出来ない。


 日常とかけ離れた存在が目の前に迫って来る。


 目が釘付けとなって身体も硬直して蛇に睨まれた鼠

 の様に動かない。


 サラリーマンのお兄さんが私に触れそうな程近づい

 てきた。



 伸ばした手が触れそうな瞬間。


 <ピカッ>と灯台の球体が光った。


 お兄さんは蒸発した…。



 黒い灯台はそのまま私の方にやって来る。



 多分、私も蒸発するのだろう。


 呆気ない最期。


 最期なんて想像した事ないけど唐突にやって来る

 のだなと他人事みたいな思考が流れる。


 この限られた世界観の中で夢や希望とか見えない

 幻想を追い求め、でも結局は唐突に意味も分から

 ず最期は訪れる。


 ただ生きてるだけなんだと今更ながらに思う。


 それも終わるんだな…。


 意味は不明だけどね。


 <ピカッ>と来たら痛いのかな〜と考えつつ、

 目を瞑って待つ。


 待つ。


 待つ。


 もう <ピカッ>とした?


 いえ、来ない。


 ふとおしっこがしたくなる。


 こんな時にも生理現象はあるんだ。



 思い切って目を開ける。


 黒い灯台は目の前に居た。


 空中に浮いて私の方に向いて居る。



 サーチライトが蒼い色に変わっている。



 <すぱーん>と頭の中を銃声の様な音が通り

 過ぎる。


 声が入って来る。



 ワタシハ キショウシュ ホゴカン。 

 私は希少種保護官。


 ニマンネンマエニ キワメテ タカイ 

 セイシンリョウイキ 二トウタツ シテイル

 キショウシュ ヲ ハッケンシ カンサツカ

 二 オイタ。

 二万年前に極めて高い精神領域に到達している

 希少種を発見し観察下に置いた。


 シンカ サイクル ノカワリメデ ケイカカンサツ

 ヲ オコナイニ コノ ワクセイ 

 コノ カンサツポイント ヲ オトズレタ。 

 進化サイクルの変わり目で経過観察を行いに

 この惑星、この進化確認ポイントを訪れた。


 シカシ タカイ セイシンリョウイキ ト マギャク

 ノ レツアクナ レッセイシュ 二 オセン 

 サレテイル コトヲ ケンチシ レッセイシュ

 ノ センメツ ヲ ジッシシテイル。

 しかし、高い精神領域と真逆の劣悪な劣勢種に

 汚染されている事を検知し、劣勢種の殲滅を実施

 している。


 タダシ タカイ セイシンリョウイキ ノ コタイ

 ヲ ハッケンシタ タメ ユウリョウシュ ガ

 マジッテイル コトヲ ホウコクシ 

 ダイキボセンメツ サクセンヲ チュウシ スル 

 ヒツヨウガ アル。 

 ただし、高い精神領域の個体を発見した為、優良種

 が混じっている事を報告し大規模殲滅作戦を中止す

 る必要がある。


 ユウリョウコタイ ヨ ワレワレハ アナタタチヲ

 カミ ト アガメ アナタタチヲ メザシテイル。

 優良個体よ、我々はあなた達を神と崇め、あなた達

 を目指している。


 ニマンネン ノ アイダ ホロビズニ イテ クレタ

 コトニ カンシャ イタシマス。

 二万年の間、滅びず居てくれた事に感謝致します。


 アリガトウ!

 ありがとう!




 月の裏側に集結していた超巨大円盤群が人類が察知

 する前に静かに去っていった事は誰も知らない。


 人類滅亡の危機は、

 一人の親思いの我が身を律する術を持った普通の女子

 高生が救った。


 逆に言えば、滅びてもおかしくない世の中に成り下

 がった今の世である事を示す。


 縄文時代前の二万年、そして縄文時代以降から人はずっと

 退化の一途なのかも知れない。


 超科学文明を持つ異星人すら神と崇めたあの頃の高い精神

 領域を持つた日本人とは一体どの様な人々だったのだろう。

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