第10怪 カメラ小僧  Byふぁーぷる

 最近また増えた。




 テレーワークで通勤者が減ったと言えども朝の通勤ラッシュはそれなりに多い。


 うちの会社も流行りを取り入れて貰いたい。


 無理か…。


 そんな予算うちの会社には無いな。




 こんなご時世になる前から朝のラッシュと無関係な連中がいる。


 カメラ小僧だ。


 あ、カメラ親父も居る…けど。




 出勤が減ったのか。


 増えている。


 カメラ小僧。




 分からん…。


 人を搬送する鉄の箱を写真に撮って何が楽しいのか。


 後で当時を見返すアーカイブ集めなのか。


 型式、機種?のコレクション癖なのか。




 こんな泥臭い、人生の生活臭を運ぶ箱という日常品的、

 消費物的な捉え方じゃないんだろうな〜。


 ただ、このラッシュの時間に人の群れと異なる時間

 を過ごすあの姿には少し憧れるが…。




 でも夜は居ないよな、カメラ小僧。


 俺の毎日の終電時間帯なんて見かけた事は無い。


 夜は暗いし、フラッシュとか使うと電車の安全の妨げ

 になるのかも知れないと、居ない理由をあれこれ想像

 する。


 ま、どちらにしろ俺は大勢の群れと共にお仕事、出勤。




 今夜もまた終電だった。


 ホームで連絡の悪い支線最終電車を待つ。


 ま〜だ40分も待たないといけない。


 密を防ぐために撤去されたベンチで唯一残っているのは

 ホームの一番端の誰も遠すぎて行かない場所にあった。


 流石に疲れたのでベンチに座りたい。


 トボトボと端まで歩く。




 おや?


 誰か居る。


 暗がりの中に人の気配がする。


 ホームの一番端にある躑躅の影に誰か居る。


 風があるので藪蚊も居ないだろうが…。


 立ちションか〜!


 ま、いいやベンチに座ろう。




 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>


 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>


 なーんだ、カメラ小僧か。




 夜にも居るんだな。


 えーと、電車は居ないけどな。


 駅の夜景か?


 こんな寂れた駅を?


 ま、頑張れよ!


 俺には分からん趣味だ。




 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>


 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>


 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>


 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>




 煩いほどに熱心だな…。


 スマフォを取り出してコロナ状況でも見るか。


 どちらにしても出勤だけどな。


 スマフォ画面をタップすると暗闇に明かりが灯る。




 <カシャ、カシャ>

 <ウイーン>


 躑躅の方にも明かりが届く。




 オイオイ、こちらにカメラが向いているじゃないか!


 俺を撮ってたのか。


 この野郎。


 野郎…。




 なんだお前は!


 真っ白な着物姿で真っ青な顔色。


 真っ赤な口紅?


 その口はニヤニヤ大口開けて笑っている。


 背筋が凍る。


 <カシャ、カシャ>


 <ウイーン>


 口で言ってるのか!


 カメラじゃ無い!




「ヒーひひひひ」


「日常に疲弊した魂は弱く肉体から剥ぎやすい」


「それを喰らうのはわらわじゃ」


「妾がカメラの様に魂を吸うてやろう」




 ギぃヤああああ〜。




 泥臭い、人生の生活臭を漂わせる日常に疲弊した

 魂が吸い取られた。




 翌日の新聞には駅ホームでサラリーマンの死体。

 死因は過労死と思われる。

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