第7怪 聖なる夜(後編) Byふぁーぷる
夢を見ていた。
心底、心が疲れての眠りは早く深い。
夢を思い出す。
祭りか?
目の前におっさんが現れる。
ニマ〜っとした表情から人懐っこい感じがする。
ア!ひょっとこのお面の顔だ。
ふんどししめ縄姿でにじり鉢巻の太鼓腹のおっさんが
<ズンズン ズン>と踵を上げてまた下げてと上下に
踵を上げ下げしてリズムを取り出す。
そして手拍子<ホイ!ホイ!ホイホイホイ、ホイ>
踵<ズンズン>
手拍子<ホイ、ホイ、ホイホイ>
何だか俺の身体も踊り出す。
<ホイ!ホイ!ホイホイホイ、ホイ>
リズムが乗って来たら<バ〜ン>とおっさんが枕を体の
前に突き出す。
あれ!いつの間にか抱えていた枕が無い。
おっさんが枕を <くるりくるり> と表、裏、表、裏
と回し始める。
表「おはよう」の文字の黄色いアップリケ。
裏「おやすみ」の文字の黄色いアップリケ。
表、裏、表、裏 <くるりくるり>
表、裏、表、裏…
回るたびに目が枕の文字に釘付けとなる。
ひょっとこおっさんの姿も視野から消える。
黄色い文字が交互に繰り返される。
「おはよう」
「おやすみ」
「おはよう」
「おやすみ」
「おはよう」
「おやすみ」
声が聞こえる。
頭の中に直接響く。
彼の山里の優しき民が何故この様な汚れ場に
居る。
長い付き合いの良き民じゃ。
これを見よ!
「おはよう」、「おやすみ」の回転が加速する。
泣いている。
泣いている俺が見える。
これは姿じゃ無く心の中が見えている。
空っぽ…。
空虚…。
反して姿は彼女と楽しく会話し楽しく遊ぶこの
世の春を謳歌する幸せ一杯に見える。
なんで心と姿が真逆なんだ。
上部で楽しく、心で泣く。
理解できない…。
輝かしい未来なのに…。
優しき民よ。
これを見よ!
「おはよう」、「おやすみ」が逆に回転し始める。
「おやすみ」
「おはよう」
「おやすみ」
「おはよう」
「おやすみ」
…
あ、彼女だ!
今夜と同じ服装だ!
え?
特急に乗っている姿が見える。
※ほんと可愛いな〜
鞄をガサゴソしだした。
※忘れ物じゃないだろうな〜大丈夫か
見たことのない小物入れを手に取る。
中から鏡と口紅?
※化粧なんてした事ない、田舎出身の学生で〜す。
※それでもいいですかって言ってたのにな〜
4人掛けのボックス座席で真正面に人が居るのに
お構い無しに念入りに口紅を塗っている。
口紅のノリを良くするためか何度も唇をパクパク
させてる。
※正面に人が居るのに恥ずかしいぞ!おい
駅に着いたのか、身支度をして急いで電車を降りる。
駅の看板が見える。
あれ?
最寄駅より一駅前だ。
改札を出て駅の駐車場の一番奥の暗がりに向かう。
黒いクラウンが止っている。
中はスモークガラスで見えない。
慣れた手つきで助手席を開けて乗り込む彼女。
※なんかヤンキー仕様の車やな〜
乗り込んだ途端、<ガッ>と運転席から抱き寄せられて
胸を鷲掴みにされる。
彼女は嫌がるどころか、更に密着する。
※俺、何を見てる?
「ね、抱いて」
「脱げよ!」
「はい」
躊躇なく服を脱ぎ始める。
「おいそれ邪魔」
<ういーん>と窓を開けて彼女が外に放り出す。
※それ俺の花束…。
「お前、ほんと好きものだな」
「俺も忙しんだぞ」
「毎月毎月、帰って来ては抱けとはな」
「だって寂しいんだもん」
深夜なので車での騒ぎも大きく響く。
お構い無しに騒ぎまくる事一時間。
※俺は騒ぎをずっと見てた。
これは俺の知識を超える常識外れの蛮行だ。
「家まで送るぞ」
「家には帰らないわ、親には帰省しないと言ってるから」
「お前な〜親が泣くぞ」
クラウンは俺の花束を踏みにじって駐車場から出て行った。
トントン。
「ちょっと君」
「こんな所で寝ていると凍え死ぬぞ」
駅員さんの声で目が覚める。
「すみません、ちょっと疲れてまして直ぐに駅を出ます」
「大丈夫だね、気をつけて帰りなさい」
駅員さんは遠ざかって行く。
眠っていたのか。
それにしてもインパクトのある夢だった。
立ち上がろうとした時、向こう側のホームに
ひょっとこおっさんが立っているのが見えた。
声が頭に響く。
「青春は苦いの〜、ただ えげつない 時もある」
「お主は人が良過ぎる」
「己の眼の前でしか判断できないのはちと不安じゃの」
「こちらを確りと見よ!」
ひょっとこおっさんが顔に手を当てる。
<パカリ>と顔が外れる。
ひょっとこ顔はお面だった。
下から現れたのは、何十、何百もの眼。
<うわあああ〜>
それを見た瞬間、耳鳴りで耳が裂けそうになる。
駅のホームのベンチには大きな枕がポツンと
残されていた。
〜○〜
俺の故郷の山里には百眼様の伝承があり氏神様の
ように崇められている
不思議な事にあのホームでの出来事以来、
俺は居ながらにして人の動向を見る感覚があり、
人付き合いも裏まで見通した感じで洞察出来てる様に
思う。
今の彼女が走って来る。
彼女が一時間前から待ち合わせ場所にウキウキして
立っていた居た事は知っている。
※わざわざ少し離れてから走って来るなんてしなくて
いいのに。
「待った?ごめんね、あたし忙しくてね」
「ね、あたし図書館行きたい」
※お金ない俺を気遣ってる。
俺は図書館で隣り合って座る彼女の清廉な
生き方をページをめくる様に読んでいる。
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