第7怪 聖なる夜(前編) Byふぁーぷる
今夜はクリスマスイブ。
俺は駅のホームで大きな枕を抱えて呆然としている。
つい今しがたそうなった。
恋人たちが心ときめかせる聖なる夜。
貧乏学生の俺は無けなしのお金を使ってクリスマスのディナーを
予約して彼女を誘った。
俺の自慢の彼女は慎ましく、お金や物に執着しない心音の清らか
な女性。
女性って…。
言うほどまだ大人じゃない学生だけどね。
二人とも田舎から出てきて都会で知り合ったまだまだ子供だと
思う。
プチフランス料理で食事を楽しみ。
二人だけの聖なる夜なんだと本や先輩の話で伝え聞くその場面に
俺は居るのだ。
こみ上げる喜びと幸福感で正に聖なる夜。
食事を終えるとずっと気になっていた大きな紙袋を彼女から渡さ
れる。
プレゼントだ!
こんな超メジャーなイベントでプレゼントを貰う身になれるなん
て田舎から出てきた甲斐があるちゅうもんだ。
彼女が早く早く開けてよ。
と急かすので大事に大事に紙袋を取り去る。
大きな黒いクッションが出てくる。
手作りか〜手作りなのかあ〜〜すごい!
興奮するぞ、おい〜。
彼女が枕だと呟く。
なんと枕か!
一生の宝が今ここに。
枕の表を見る様に言われる。
なんと〜、「おはよう」の文字が黄色いアップリケで付けられている。
息を飲む素晴らしさ!
朝の目覚めが待ち遠しいじゃないか!!
そして裏を見ろと彼女が目で合図する。
ひっくり返すと…。
おいおい、まさかの「おやすみ」が黄色いアップリケで付いている。
パーフェクトだ。
これで俺の朝夕は至高の輝きを奏でる事になるだろう。
ありがとう!
一生君を大切にする。
命懸けで守り続ける決意が更に芽生える。
いくら聖なる夜とは言え、こんな幸福〜世界中の人類に申し訳ない。
幸せとは訪れるんだね〜。
しみじみと実感を味わう。
俺は小さなブーケの花束を彼女のテーブル側に置いた。
※照れ臭い
「ありがとう」と微笑んでくれた。
レジの前で当然!
「まとめてお願いします」と、俺が払う宣言。
彼女がモジモジしている。
素晴らしい!
自分の分まで支払って貰う事が申し訳なくてモジモジ…。
清々しい風が吹いた様に癒される。
いいともいいとも、気にするな!
俺は男、しかも彼氏だ。
当然至極当然なんだから。
支払い終わって外に出ると可愛いモジモジちゃんは
追いすがってくる。
いいんだって!
君の初心の誠意は十分受け取った。
もうこれから先はずっと俺が払う。
もうもう皆まで言うな!
そんなに恐縮するなって水臭いじゃないか。
怒るぞ<ぷんぷん>、なんてね。
まあ。
一応聞こう、
「あのね、あのね」
いいよいいよ今夜は時間はたっぷりあるからゆっくり言いなされ!
「私、これから特急で実家に帰るの」
いいよいいよ、え!はあああああああ〜?
「お父さんがねクリスマスは家族で過ごすから帰って来いと煩いの!」
「ごめんね、駅まで急ぐから」
それはお父さんを大事にしなきゃ。
家族の団欒大事にする君に感激!
※はああ〜ガックリ。
明るく全肯定して!
とぼとぼと駅のホームにお見送りについて行く。
※なんなんそら。
特急はもう来ている。
彼女はそそくさと特急に飛び乗った。
「枕と仲良くね!」と駆け込みながら投げ台詞。
指定席を取っていた様でスムーズに席に着く。
ホームのベンチに座ると彼女を電車の窓越しに見ている。
彼女はこちらを見ずに手荷物の中身を確認したりして下を向いて
いる。
特急が動き出す。
やっと彼女は顔を上げてこちらを見て小さく手を振った。
俺はしばらく特急の軌跡を追ってその後ろ姿を見つめる。
どんどん小さくなるその姿。
消えても暫く見てた。
気を取り直して…。
いやいや、取り直せるもんか。
枕を抱いて呆然と佇む。
この先どうするかなんて思考も始まらないままに俺は意識が
遠のき眠ってしまった。
駅のホームのベンチで寝落ちした。
薄情な都会だから誰も声すらかけてくれない。
※そんなもんだろ。
粉雪がちらちら落ちて来る。
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