第5怪 銀粉 Byふぁーぷる

 蒸し暑い!


 もう夏だ。


 今朝のニュース。


 コロナの感染者数、そして死者数の増加。


 最近その中に割って入る一つのニュースがある。


 それは駅のホームで銀粉を身体中に纏って息絶えている変死体事件。


 犠牲者の数がコロナ感染数に比例して日増しに増えている。


 場所は駅ホーム。


 地域は不確定で日本全土に広域化している。


 44人目の被害者が出た時に警察が一つの共通した特徴を発表した。


 それはマスクをしていない事だった。




 蒸し暑い夜。


 <チカチカチカ パチパチ>


 誘蛾灯が瞬く。


 田園に囲まれた街灯の少ない無人駅。


 虫が多いので街灯の他に誘蛾灯。


 暗い闇から水銀灯の紫外線に惹かれて羽虫が集まってくる。


 特に蛾が多い。


 羽虫は水銀灯に衝突して<パチパチ>と焦げて落ちる。


 焦げ臭い空気が漂うホームのベンチにマスクをしていないおっさんが

 ほろ酔い気分で座っている。


 電車を降りた人はそそくさと改札に向かうが、おっさんはベンチで

 一休みを決めた様だ。


 電車が行き過ぎると人も居なくなり。


 急に薄暗く寂しいホームとなる。


 ほろ酔いおっさんは上機嫌でユラーリユラーリ。


 おっさんの背中側にはいつの間にか着物姿の女性が背中合わせで

 座っている。


 蛇柄の着物に銀色の帯。


 顔は背向きで見えないがしっぽりとした濡れ羽色の黒髪で艶かしい

 雰囲気が漂う。


「ありがとうくなんしょ」


「優しい殿方でありんす」


「マスクをせずに人である証を示してくださるとは」


「奇特なお方」


 ボソボソと背中合わせで着物姿の女性が喋る。


 途中でおっさんも声に気づき、聞き耳を立てる。


 なんだ?頭がオカシイ女性か〜?


 酔いが覚める。


 まだまだ女性の独り言?は続く。


「最近は流行病でマスクを皆の衆が致します」


「顔を隠すことが普通で妖が紛れ易くなりんした」


「人しか襲えぬ弱い手前共には人間だと確定するマスクしない者が

 有難いので御座います」


「安全に人間だけを見つけることが出来ます」


「ありがたや、ありがたや」


 聞き耳を立てているおっさんはいつの間にか降り注ぎ始めた銀粉で

 銀色に塗り込められていた。


 肺の中まで銀粉が積もり、地上で溺れ死んでいた。


「甘味な霊魂、美味しゅう御座います」


「非力な銀粉しかない手前共の天敵は他の妖ども」


「マスクの影に妖が好んで潜むお陰でマスクしているのを除けば

 安心して人を見つける事が叶いまする」


「ありがたや、ありがたや」


 〜○〜


 犬がコロナに感染したそうだ。


 マスクをしてないからそれはそうだろう。


 マスクはモラル・人に感染させたくない思いの現れ。


 社会規範を遵守して社会を正常に戻したい願いの現れ。


 ただマスクをしない輩は一番人間らしい業が強き者。


正に人間だ!

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