第2話:裏切りの真実

「…………お、お前は……!」

 東側の観客席の手すりの前で立つ、白衣に黒いスーツ姿で身を固めた初老の男。

「久しぶりだな一」

 初老の男は白衣をたなびかせながらほくそ笑んでいる。

 そいつの顔を見た瞬間。俺の頭の中にあるその男に関する記憶が全て鮮明に蘇る。

「そっ、そんな……嘘だろっ!? 何で、何でお前がここに居るんだよっ!?」

 どうして……? どうしてここにあいつがいるんだよっ!?

「そうだ。私だ。また会えたな一。お前と縁を切ったあの時以来か」

 俺の動揺などお構いなしに、初老の男は表情を一つ変えずサラッと言葉を返してくる。

「だっ、ダディ!?」

「……もっと……もっとマシな父親の呼び方はないのかっ!?」

「ダディは俺のダディじゃないか! 俺が父親の事を呼ぶのにダディと、呼んではいけない理由はないだろうがダディ!」

「ゴホン……まさかお前がここまで成長するとはな。父親として喜ぶべきだろうが……」

 渋さのかかったイケボ。間違いない。

 その場に立つ初老の男の正体は俺の父親だった。

「なっ、なぁ……なんでこんな所にいるんだよ……?」

「…………」

 ダディはその場で考えごとをしているようだ。反応がない。

「ダディ! 聞いているのか!」

「だからもっとマシな呼び方はないのかッ!?」

「なんでこんな所にいるんだって聞いているんだよおい! 息子の俺としては凄く恥ずかしいじゃないか……!」

 わりかしどうでも良い事で反応してくるダディ。俺は父親の事を親父とか呼びたくないんだよ。何故それが分ってくれないんだ……。

「なぜ……? 何故って言われても。ここで仕事をしているからな」

「なっ、何だってそれは本当か!?」

「ああ、そうだ」

「ここはサードアイっていう悪の組織が根城にしているアジトなんだぜ? まさか……そいつらに手を貸しているわけじゃないよな……?」

 ダディは絶対にそんな事をしないはずだ。俺はそう思っている。

「あぁ、なるほど。そういうことか」

「どういうことなんだダディ?」

「それはこっちが聞きたい話だ一」

「あさぎりっていう改造人間の女から教えられた話なんだ。この研究にはおじ様という悪の科学者がいるらしくて……。そいつが俺の妹達とあさぎり姉妹に悪事を働いてきたんだ」

「おじ様だと……?」

 俺はダディにあきづきとふゆづきの事について話をした。さらに。

「なぁ、ダディ! いま街ではとんでもない騒ぎが起きているんだ。あさぎりの妹のゆうだちが怪人になって暴走した挙げ句。そのまま大暴れして……それで……街が……」

 俺はあの光景を絶対に忘れない。あれはまさに地獄絵図そのものだ。

「なるほど……それは実に不味いな。調整が少し甘かったかもしれん」

「それで俺は暴走状態のゆうだちと一戦交えたんだ。この左腕にあるアーマライドシステムを使って戦ったんだ」

「それで、結果はどうだ? 勝ったのか?」

 話の過程よりも結果を気にするダディを前にして、

「……あぁ。勝ったさ……現に俺がここにいるからな……」

 俺は久しぶりの再会に高揚するあまりに冷静さを欠いていた。

 忘れていた。奴が人間の心を持たないマッドサイエンティストだったという事を。

「それは残念だ」

「はぁっ?」

 俺の反応に対し、何を感じたのかダディは頭を抱えながら呆れた様子で。

「どうやら。お互いに話が食い違っているようだな」

「話が食い違っているだって……? どういうことだ?」

「前置きは無しにしておこう」

「おっ、おう」

「まず言っておくが。お前の探している奴の名はおじ様だったか? あさぎりから聞いたのだろ?」

「ああ、そうだ」

「私だ」

「へっ……?」

「あさぎりは私の事を呼ぶ時におじ様と呼ぶんだよ」

――そんな、まさかっ!?

 さらにダディは精悍な表情のまま。

「ふゆづきに施した脳改造による洗脳手術。あきづきがふゆづきを取り戻しに来た時に施した記憶操作手術。これら全ては私のやったことだ。ゆうだちの力を増幅させて異形の怪人に仕立て上げたのもこの私だ。神の才能でもって生み出した最高傑作。ホムンクルスはこの私が生み出した神の芸術作品なのだぁ……くっくっくっ」

 話をしていくうちに醜悪な笑みで顔を歪めていくダディを前にして、俺は戸惑いと恐れを感じて一歩後ずさりをして息を飲む。

「一。何故ふゆづきやあきづきがあのような力を持つホムンクルスとして生み出されたのか。何故、貴様の知らないところでこのようなプロジェクトが進められていたのか」

 手すり越しに俺を指さして話し続けるダディ。

「ふゆづきとあきづきはこの私と香奈の細胞で掛け合わせて生み出された試験管ベイビーだ。元来、人間に秘められていると言われ続けていた無限の可能性を備えた超感覚(ハイパーセンス)。それを科学の力でもって人工的に覚醒させ、そしてそれを軍事利用に転換する為に生み出された生物兵器ホムンクルス第1号と2号。それが彼女達の本来の姿だ」

「…………」

 俺はついて行けずにいた。いや、単純に俺がバカとかの領域じゃない。

「人の命を何だと思ってんだよぉ……っ!!」

「お前も植物人間から改造人間になった出来損ないの試作品だ。本来。お前は香奈の命を奪った罪人を裁くために作られた存在だ。だが、軍事転用される為に生み出された側面もある。一。お前は果たしてその言葉を言える立場なのだろうか?」

「……くそっ!!」

 言い方はクソだが正論だ。ダディの言葉を前にして黙るしかない。さらにダディは。

「それを踏まえ。お前とふゆづきは本来ならば出会うべきではなかったのだ。彼女は多感な成長段階にある。もし、私の意図しない偶発的イレギュラーな要素の塊であるお前と接触をすればどうなるか」

「なるほど……。ふゆづきをあさぎり姉妹に拉致させたのはその理由だったのか」

「ああ、そうだ」

「だから脳改造による洗脳手術で記憶を操作したというのかよ」

 聞きたくもない反吐の出る答えを聞かざるを得ないとは。

「あぁ、そうだ。当然の事だろ?」

 薄情な回答。やはりダディは……。

「じゃぁ、道中で見たあの光景もそうなのか……?」

「あの光景? あぁ、ゆうだちの暴走で巻き込まれた犠牲者達の事か。そうか……それは良いデータが集められそうだな。ふふっ」

「どこまでクズなんだ!!」

 俺は感情的に激昂する。

「科学や医学には犠牲がつきものだ。お前も大人になれば分る。歴史上の伝染病でさえ多くの人達の犠牲によって。様々な特効薬や、それに対する治療法や予防法が確立されてきたのだ」

「そんな事のために人の命や人生を奪って良い理由にはならない!」

 俺の心は真っ赤な炎に満たされており、無尽の闘志が湧き起こっていた。

 俺は自分の命に手を掛けたことがあった。

 だが、それでも踏みとどまった。そして俺の命は二人のヒーローのおかげで救われた。

 それに悔しかったんだ。

 目の前で薄ら笑いを浮かべてニヤニヤと、人の命を雑に扱う奴から逃げたくなかったんだ。

「お前は失敗作だ。私の期待に対して何も結果を出さない出来損ないの不良品」

「……ダディ。俺は……」

「まぁ、所詮お前は。第2世代型の改造人間を生み出すためのベースとして生み出されたプロトタイプの改造人間だ。おかげで私の更なる神の技術に磨きがかかったわけだ」

「自惚れにも程があるだろうその言葉は!」

「ふん。だが、想定外な出来事に立たされる事になるとは。この私でさえも驚いたものだ。私が開発設計したそのアーマライドシステムにお前は。謎の力『原点の力』を吹き込んだのだ。通称ビギニング。その力が私の最高傑作達を跡形もなく消し去ってしまったのだ……」

「ビギニング……」

「お前の原点の力は世界を無に帰すかもしれない恐ろしき力だ。だがしかしまだ未完全だ。不安定でイレギュラー。ビギニングはこの私の持つ神の才能を無の産物にしてしまうのは目に見えている。ならば、この私が直々に貴様を廃棄処分にしてやる!!」

 その言葉を聞いた瞬間。俺は全ての思い出を投げ捨てて、

「うぉおおおお!! いぬぅいさわぁまさとぉおおおお!! 許さん!!」

 ダディの名前を乾沢雅人と改めて呼び直す事を決意した。

「……ふっ」

 乾沢雅人の顔がほんの一瞬だけ寂しげな表情に変わる。

 俺は何かの冗談だろうと思った。

「さて、感傷に浸るのはここまでにしておこう」

 そう呟いた後に、乾沢雅人は白衣の内ポケットから黒い丸みを帯びたデバイスを取出して天井に掲げた。

「いでよ。私の神の才能の結晶」

「なっ、こっこいつらは!?」

 乾沢雅人が手元のデバイスのスイッチを押した瞬間。黒紫のスモークが巻き起こり、煙が晴れると、ゾンビマスクを被った近未来的な黒いアーマー姿の男達が姿を現した。

 あたりを見回す限り五体が俺を取り囲んでいる。手にはナイフや拳銃などを所持している。

「ふんっ、どうだ。これは最近開発に成功した先行量産型のホムンクルス。その名もアンドロイドビクティム。通称、ビクティムだ」

「「「「「アヴィー!」」」」」

 統率のとれた奇抜な敬礼を乾沢雅人に送るビクティム達。まるでそれは。

「くっ、なんだこの集団は……!! まるでどこかの戦闘員みたいじゃないか……!!」

「あの集団に出てくる奴らと同等にみるな。この私。乾沢雅人が神の才能で生み出した最高傑作だ。そいつらはお前と、あの姉妹達で得た研究データに加え、更にホムンクルスの開発データを使い。量産目的の為に生み出された神の祝福だ……!」

 けたたましく愉快げに笑い声を上げる乾沢雅人。

「人を殺す道具に神の才能は宿らない!」

「ブゥェハッハッハッハッ!! 笑止ッ!! 凡人。いやっ、出来損ないの不良品にはわかり得ない境地なのさっ!! コレがあれば私は本当の意味で神となれる……!! そう、かつて出来なかったことがこの手で……そう、この手でできるのだからなぁ!! ブゥェハッハッハッハッ!!」

「あんたは何処まで悪に堕ちれば気が済むんだ……!!」

「……さて、ビクティムども。目の前で突っ立ている失敗作。改造人間第1号を速やかに廃棄処分せよ」

「「「「「アヴィー!」」」」」

「チクショウガァアアアアア!!」

 親子の関係なんてどうでもいい。また改めて奴の底知れない悪意に触れてしまった、

「俺はお前を絶対にゆるさん!!」

 その直後。俺の殺害命令を受けた三体のビクティムが束になって殺到。手に持つ軍用ナイフを振りかざしてくる。

 生身の状態での戦闘はリスクが大きい。

 俺は上半身を揺らしつつ斬撃を柔軟に交しつづける。

「ふっ、はっ、はぁあああ!!」

「「「アヴィー!?」」」

 俺は掌底と鉄拳からの裏拳を駆使し、三体のビクティムを同時に後方へと吹き飛ばす。

 ビクティムは意外にもあっさりと絶命してしまったようだ。

「「アヴィイイイイイイイ!!」」

「うぉっ!?」

 残りのビクティムが統制のとれた素早い身のこなしで唐突に肉迫してきている。

 そして二体のビクティムは同時に俺を前後で羽交い締めに拘束攻撃を仕掛けてくる。

「アヴィィイイ!! ジバクジバクジバクジバクスルシカネェ!!」

 ビクティム達の身体が急に赤熱していく。俺を自爆攻撃で道連れにしようと考えたようだ。

 そのことに思わず動揺するも、

「くっ、はやくこの状況から脱出しなければっ!」

 そう。何もしなければ改造人間の俺でも至近距離の爆発には耐えられない。

「変身ッ!!」

 からの。

『ビギニング クリティカルブースト フィニッシュ!!』

「ハイブーストジャンプッ!!」

 俺は両足に脚力ブーストを瞬時に掛け、ビクティムの自爆攻撃から間一髪逃れる事に成功する。眼下では盛大な爆炎が舞い上がっており、それと共に爆音が空間を轟かせた。

「あっ……危ねぇ……」

 変身が間に合って良かったものの。

『耐久値50 残り3分50秒』

「やっぱりな……」

 時間をおかずに変身をしたせいで、耐久値が充分に回復できていなかった。

「まいったな……」

 また再変身をしてしまうとなると、今度は自分の命に危険が生じる。よくある低スペのPCで最高設定のゲームをプレイしている時と同じ状況だ。媒体となっている俺の身体が持たない。三回目の変身は出来ればやりたくないな……。

 それにクイック変身を実行した事もあり、その特性上。セーフティプログラムによる制限が課せられている。この姿を保つ事が出来るのもあと三分一五秒しかない。

 こうしている間にも刻々と秒が刻まれている。

 その事を頭で理解しつつ、ストンとスマートに着地する。

 右手をサッと振っておこう。

 両足に残っていた力が抜け落ちていくのが感じられる。

「さて……」

「なっ……何故だ……!?」

 あまりの瞬殺劇を前にひどく動揺しているようだ。

「これが俺の手にした、お前のいう原点の力だ」

「……認めん。認めんぞぉお!!」

 自分の父親がここまでみっともないとは。さっきまでの威勢の良い態度はどこやら。

「くっ……くそっ!」

 乾沢雅人は苦虫を噛み潰したような顔で俺の事を睨みつけてきている。俺もそれに合わせてマスク越しから睨み返す。

 互いに殺伐としている中。ふと、

「ふぁぁ……ふみゅぅ……」

 この空気に似つかわしくない甘い声が背後から聞こえてくる。そして、

「うーん、あれぇ……?」

 俺は声の主が眠気眼で首を傾げているのを頭で想像してる。振り向いたら絶対に負けだ。前方に乾沢雅人。後方に妹のふゆづき。どう考えても俺に逃げる場所がない……!

 いや、元からか。つい俺の逃げ癖が出てしまった。

「お兄ちゃん……?」

「……おう、久しぶりっていうべきか?」

「お兄ちゃんだぁあ!! なんかコスプレしてる!!」

「こっ、コスプレって……」

「わぁあい! お兄ちゃんにとぉう!」

「ヴェッ!?」

 突然背後から飛びつくようにしてふゆづきがコアラ抱っこで抱きついてきた。

 力を抑えずに抱きついてきたので、この姿でも俺はその場でよろけてしまった。でっ、

『ピピピピ!――CAUTION――耐久値30に低下』   

 妹のコアラ抱っこにより耐久値が三〇に減少してしまった。絶体絶命である。何でこいつの抱きつきでこんな目にあってしまうんだよ!?

 さらに変身限界可能時間が二分三〇秒にまで迫ってきており非情に不味い状況にある。

「えへへぇ……お兄ちゃんの着てるお洋服。なんかゴツゴツしてる!」

「どう見てもこれ洋服じゃないからなぁっ?! こんなん街中で着ている奴がいたらおまわりさんが滅茶苦茶集まってお祭り騒ぎになっちゃうからっ!?」

 そう、久しぶりに兄妹で茶番をしていると。

「ふゆづき……」

「ほぇ、お父さん? どうしてここにいるの?」

 ふゆづきは首を傾げており、乾沢雅人が何故ここにいるのか分っていないようだ。

 俺はふゆづきに今まで起きた出来事の全てを話した。

 その話をしている間。彼女の表情は暗く、俯き、そして辛そうだった。

「……そう、なんだ……。お父さんが私の身体を……」

「あぁ、そうだ。お前がオオカミ人間の怪人になって。その時に俺はこの姿に変身して原点の力。ビギニングの力を使ってお前の身体を元に戻したんだ」

「うん、知っているよ。悪いオオカミさんになっていた時にね。私、見ていたよ。お兄ちゃんが頑張って私の事を助けてくれていたこと。ふゆづきはちゃんと覚えているよ」

 そしてその言葉の後に、

「ありがとう!」

 ふゆづきは満面の笑みでたったひと言の感謝の言葉を述べた。

「…………」

 何故だろう。彼女のその言葉に嬉しさがこみ上げてくる。

「お父さんのしたことは悪いことってふゆづきは分ったよ」

「あぁ、そうだ」

「だからね」

 そう言って彼女は、

「私もお父さんを止めるために。私。お兄ちゃんと一緒に戦うよ!」

 その言葉に俺は胸が熱くなる。

「あぁ、そうだな。……あぁ、そうだな……っ!」

「例え。お父さんが悪いことをしたとしても。お兄ちゃんと私の大切なお父さんだもん!」

「……そうか……わかった。とりあえず。俺から離れてくれないか」

「うん! ちょっと寂しいけど。お父さんの事を助けた後にまたしてもいい……?」

 天空色の瞳が上目遣いで俺の事を見つめている。その愛らしさのあまり、

「あぁ、ああわかったっ!! あっ、あとでいくらでもお前の好きにすっすればいい!!」

 俺は恥ずかしさのあまりにそっぽを向き、ぶっきらぼうに承諾した。

 そして、

「乾沢雅人ッ!!」「お父さん!」

 俺とふゆづきは共に並び乾沢雅人と対峙する。

「……まだだ。まだだ!! まだ終わらん!! 私の神の才能は不滅だッ!! こんな屈辱的な終わり方。私は認めん……ッ!! 私に従わないふゆづき共々お前達を!! 次はこの私がこの手で貴様を絶版廃棄処分にしてやる……!!」

「あくまで食い下がるつもりなんだな……」

「うん、みたいだねお兄ちゃん……はぅぅ」

 乾沢雅人の醜悪な姿に対して憐れに思う。そして、

「ふぅ……ふぅ……」

「あれは……?」

「お兄ちゃん! あれはだめぇ!」

「なんだ?」

「お父さんが死んじゃうよぉ!!」

 乾沢雅人が手にしている物を見て、ふゆづきが慌てふためいている。

 それは漆黒に塗られし赤目の狼の顔が刻まれた禍々しさの漂うメダルだった。

「ブゥェハッハッハッハッ!! 見ろ!! これが究極にして現時点で私の最高傑作!! ふゆづきを怪人にしたのはコレを完成する為にやったことだぁ……ハッハッハッ」

 乾沢雅人は狂気に笑いながら小躍りをしている。

「なるほど……あれをつかって自分も怪人になるつもりか……」

「うん……はやく止めないとお父さんが死んじゃうよお兄ちゃん!」

「見ろッ!! これはお前が身につけている変身デバイスをベースにして開発した改良型だ!! 名付けてアーマライドシステム・ヘンゲだ!! これでお前もデッドエンドを迎えるぅ! そう、この私が万が一にと思って用意した最終手段だぁ……!!」

「止めろぉおおおおおお!!」

 俺は無意識に乾沢雅人の元へと掛けだしていた。だが、

『ファザーウルフ ヘンゲ レディ?』

 乾沢雅人が左腕にそれを巻き付けた瞬間。禍々しい声と共にデバイスが起動してしまった。

 そして次の瞬間――

「はぁ……はぁ……はぁ……変身ッ!!」

「あぁそんな……お父さんが……」

『ヘンゲ ファザーウルフ ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』

――オオカミの遠吠えがどこからともなく聞こえてくる。

 ドス黒い煙がこの場を包みこんでいき。そして煙が晴れた直後。乾沢雅人の姿は、

「だ……ダディ……」

 異形の怪人。赤目の黒いオオカミ人間に変化していた。

「……ハァ……コイ、ビクティムドモ」

 変身した直後。乾沢雅人が最初に発した言葉は片言交じりの号令。うねり吹き荒れる黒い煙と共に、一〇体のビクティムが円陣を組んだ状態で姿を現した。

 乾沢雅人は天に向かって跳躍し。そしてダイナミックな前宙返りと共に地面へと降り立った。

 ビクティム達も後に続くようにして着地する。

 ビクティム達は乾沢雅人の前へ、彼らは横一列の陣形を整えて並んだ。

「いくよお兄ちゃん……!」

 ふゆづきはキリッとした顔で身構えた。

 俺達の前に対峙するのは乾沢雅人こと、怪人ファザーウルフとビクティムの集団。

 俺は託された思いに答えなければならない。

 俺はふゆづきと共に戦うことを誓おう。この命はこいつと共にある。

 ふゆづきは俺の事を守る為に戦ってくれる。できれば俺一人で戦いたい。

 だが、彼女がそれを拒む事は承知している。

 俺を守りたいという強い思いが彼女にはあるからだ。こんな一途な妹がいて俺は幸せ者だな。

 ふゆづきを見つめると、彼女はニコニコと笑みを浮かべてコクッと頷き返してきた。

 俺もそれに答えるようにしてマスク越しから笑みを浮かべて頷く。そして。

「俺達はこの戦いを乗り越えないといけない。負ければゲームオーバー。そして勝った暁には俺達の未来が約束されている。行くぞふゆづき! この戦い(ゲーム)。俺達の勝利で迎えよう! 人の運命は誰かが決めていい物なんかじゃない! 俺の運命は俺が変える!」

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