5章 覚醒 出来損ないヒーロー・ベクトル ――月下の銀狼は誰にも止められない! 

第1話:ごめんなふゆづき……。

 アジトに向かう道中。

「……なんだよこれ……?」

 たまたま通りかかった道すがら、幾つもの焼死体が道端で頭を壁に向けて横に並べられていた。どれも全て全身が黒焦げに焼けている。

「おとぉさん! おとぉさん!」

 目の前に寝転がる焼死体は父親なのだろう。男の子がその焼死体に寄り添いながら小さな両手を使い、その死体を何度もゆすり動かしている。死んでいる事を理解していないのだろう……。

「あきとぉ! あきとぉ! ねぇ、返事をしてぇ!! あぁああああああぁ嫌だぁああああ!! どうして死んじゃったのぉおお!!」

 男の子と同じように、目の前にある焼死体に対してあきとと何度も呼び掛け、そしてそのまま泣叫びだした黒髪の若い女性。その遺体は恋人だったのだろうか……?

「まぁまぁ! まぁまぁ!」

 母親なのだろう。母親の焼死体を指さしたまま自分で何をしているのかも分らず立ち尽くし、幼い少女は何度も目の前で死んでしまった母親の事を呼んで泣き叫んでいる。

 この街は今、ゆうだちの引き起こした暴走によって恐慌状態に陥っていた。

 遠くで複数のサイレンが鳴り響いている。

「……くそっ!!」

 俺はただ拳に力を込めて歯を食いしばり。悔しいと思いながら彼らの元から立ち去るように通り過ぎていくことしか出来ない。

 生存者の人達から漂う黒い闇の負の感情が俺の肌を撫でて過ぎ去っていく。

「おのれサードアイ!! 許さねぇぞ!! こんな事をする奴らは俺が絶対にぶっ飛ばしてやる……!!」

 穏やかに人生を送っていた人達の命を突然奪った悪の組織サードアイ。

 その組織に所属する悪の科学者ことおじ様という奴が心から憎い。……許さんッ!!

 そして一時間後。

「ここか……」

 とうとうおじ様がいると思われるアジトにたどり着いた。

 奴はこの場所のどこかに潜んでいるはずにちがいない。

「……ここで変身してても意味が無いな」

 むしろどこかで通りすがった人に目撃されたら大騒ぎになりかねない。

 それに俺は改造人間としては不完全なところがあり、長時間の変身は精神に支障がきたしてしまう。身体は改造されていても精神。つまり、集中力は並の人間なのだ。

「相手が犯罪者なのに。正義のために戦いにきた人間が不法侵入って」

 どう考えても世知辛い世の中だなぁ……。ヒーローだけ許される都合の良い法律ができないかなぁ……。

「うだうだ言っている場合じゃないな」

 ふざけるのはこれくらいにしておこう。

「ふゆづき待ってろよ。お兄ちゃんがいま助けにいくからな……っ!」

 彼女は俺を何度も呼んで助けを求めていたと聞かされている。胸が張り裂けそうだ。

 とりあえず廃工場の引き扉を開いてそのまま中に侵入する。

「……ガソリンくさいな」

 換気が不十分なようで。気化したガソリンが工場内に充満しており、俺の鼻腔をチクチクと刺激してきている。

 普通の人ならあまり長くは居られない環境だ。

 だが俺は改造人間なので多少の有毒物質を吸い続けても平気なので問題無い。

「あれか……?」

 パーテーションで仕切られた事務所の近くに、なにやら怪しげなステンレスハッチを見つけた。

 周囲を警戒しつつ歩み寄り、そのままそっとハッチの蓋を両手であけてみると。

「梯子で降りろってか……?」

 音を最小限にしつつ地下にまで下りると、そこは清潔感のあふれる研究施設だった。

 辺りを見て様子をうかがってみると……。

「ぜってぇ罠の臭いがプンプンするよな……!?」

 俺が梯子から降り立ち、直ぐさま待ち構えていたアジトの戦闘員達が束になって襲いかかってくる展開が訪れるのかなと思っていたのだが……。

「だーれも襲ってこねぇ……」

 人ひとり誰もいなかった。

 それからずっと回廊などを通って歩くこと一〇分。敵と遭遇することなく、

「指紋認証で開く扉みたいだな……」

 俺はボス部屋みたいな部屋がある大きな扉の前にたどり着いてしまった……。

 扉の側には置き型の端末があり、こいつを使う事で目の前の鋼鉄製のスライドドアを開けられるようだ。

 ドアの材質を見る限り核シェルターレベルの物が使われているな。改造人間の俺でも拳でぶち破れなさそうだ。

 かといって無駄に変身はしたくない。俺の身体にも良くないし。

「まぁ、中に入って戦闘になればその時の運次第か」

 とりあえず。端末のパネルに手を置いてみることにしよう。

『認証チェック コンプリート』

 端末に手で触れた瞬間。なぜか反応して奥の扉のロックが解除された。

「あ、開いただと……?」

 あからさまに俺。敵のお誘いに載せられちゃってるのかな……?

「……あぁ、まぁ。どのみち他に行く場所ないしな」

 敵の罠なのは分っている。それでも後戻りする訳にはいかないからな……。

「ここはなんだ……? 一見、普通に見ると少し大きなバスケのスタジアムにみえるのだが……?」

 中に入って見た最初の光景。そこは白い照明に照らされたバスケットスタジアムのような場所だった。二階には三六〇度で一階を眺望できるように観客席が設けられている。

「ふゆづき!」

 俺の立つ場所から約五〇メートル前方。白銀の機械鎧を身に纏い、ふゆづきが頭をだらりとその場で項垂れたまま呆然と立ち尽くしていた。

 天井の照明灯に照らし出されている彼女の右手には巨大な銀のロングランスが携えられており、その体格に見合わない大きさに対し、俺は圧倒的な威圧感を感じた。

「くそっ! ……悪趣味な恰好だな!」

 シンプルに怒りがこみ上げ、俺は妹が着せ替え人形みたいに扱われている事に対して胸くそ悪く感じている。

 どうやらおじ様と呼ばれる悪の科学者はこのような趣向があるようだ。

 それは兎も角として。

「まってろよふゆづき。いまその鎧を外してやるからな!」

 俺はふゆづきの元へと駆けより、そのまま手で彼女の肩を触れる。すると、

「……ッ!?」

 肩に触れた瞬間。ふゆづきが唐突にバッと顔を上げ、それに対して俺は思わず反射的に距離を置いて驚いてしまった。

「…………」

「ふゆづき……?」

 恐る恐る声を掛けてみる。

「…………」

 彼女の濁った天空色(スカイブルー)の瞳が俺を覗き込んできている。俺を見つめてふゆづきは何を感じているのだろうか……?

「だ……大丈夫か? どこか身体が痛くてひと言も喋れないのか……?」

「…………」

 返事がない。俺はもう一度手を彼女の肩において身体を少し揺すろうとした。

 だが、

「うぉっ!?」

 彼女に触れようとした瞬間。俺はいきなり目には見えない謎の衝撃波によって後ろへと吹き飛ばされてしまった。

 着地に失敗し尻を強打する形でズザザザと横に滑りながら転がり、俺はそのまま地面に伏してしまう。

「ってて……」

 膝立ちで身体を起こしつつ顔を上げて正面を見つめる。

「オニイチャン……ハカイタイショウ……オマエヲコロス……ハイジョメイレイ……」

 背後か漂う悪意の黒きオーラ。射て差すような鋭い眼差しから来る殺意の視線。彼女の起動した殺戮マシーンの如き出で立つ姿が俺の目に焼き付いてくる。

「ふゆづき……? 今、俺を殺すって……言ったのか……?」

 遠くから聞こえてくる彼女の殺意の言葉に耳を傾けていた俺は不審に思う。

 いや、違う。俺はその言葉を聞き入れたくなかったんだ。

 そう思った直後だった。彼女は宙高くへと跳躍した。

 それは竜騎士(ドラゴナイト)を彷彿させる姿。ふゆづきは右手に持っていたロングランスを両手に持ち直し、その鋭利な先端を俺に向けたまま急速降下で突進攻撃を繰り出してきた。

「はっ、はやい!?」

 そのあまりの速さに対応しきれずにいた自分は、その場で動揺しながら咄嗟の判断で跳躍からの横回転ローリングで回避行動をとる事にした。

 彼女の攻撃はそのまま一直線に俺の元いた場所に直撃し、地面に巨大なクレーターを作り、間一髪の所で串刺しになる所を回避する事が出来た。視界いっぱいに広がる槍を目の前に突き刺さっていくだなんて想像もしたくはない。

「ふゆづきっ!! 目を覚ますんだっ!!」

「コロス……」

 クレーターの中心で俺を見るなり、ふゆづきが殺すと言葉を返してくる。

「クソッ!! 駄目なのかっ!?」

 俺はとっさに左手首のデバイスに手を触れた。

「頼むふゆづき……! 俺を変身させないでくれ……!」

 ビギニングの力は見えていないところがある。

 このまま変身すれば何が起きるのだろうかだなんて――

――それは俺にも予想がつかない事だ。

 ふゆづきがいきり立つように、まるでオオカミのような遠吠えで雄叫びを上げている。

 その雄叫びが終わった瞬間。

『愛する者に裏切られし狼少女の怪人 ウルフゥ……ウルフゥ……シルバー・ウルフゥウウウ!! ブェエッハッハッハッハッ!!』

 どこからとなくチャオじみた愉快な声が轟く。そして、

「ヘンシン」

 ふゆづきの足下に出現した紫のもやがふゆづきの身体全身を徐々に包み込んでいく。

 その煙が晴れた直後。

「グルゥルルル……ッ!」

 彼女はオオカミ人間をモチーフにした異形の姿の怪人へと変身を遂げていた。

「嘘だろふゆづき……おまえ……そんな……」

 変わり果てた彼女の姿を前に愕然となり、

『アーマライドシステム・ビギニング――レディ』

 俺は目尻に涙を浮かべながら腹の底から声を上げる。

「ヂグジョウッ!! 変身ッ!!」

『全ての原点ここに降臨――ビギニング!』

 俺はアーマライドシステムを起動すると同時にビギニングへと変身する。

 黒い毛並みが際立つオオカミの怪人へと変貌をとげたふゆづきは、その場で姿勢を低く取りながら威嚇してきている。

「なんて禍々しい紫煙のオーラなんだ……」

『敵の動きをラーニング中……エラー。敵のオーラの影響により測定出来ません』

 ビギニングのラーニングシステム(勝手に命名)が上手く作動していない。あのオーラはこちらのシステムに対する妨害機能の役目を果たしているのだろうか。

 となると行き当たりばったりで相手の動きを手探りで見極めないといけない。

「……ふゆづき。俺の事が分るか……?」

「ウゥウウウ!!」

 その声を聞いただけで胸が張り裂けそうになった……。

 俺は全てを理解した。あの愛らしい姿の妹はもうこの場には居ない……。つまり、

「お兄ちゃんがお前を楽にしてやるからな……!」

 この戦いで今生の別れになるかもしれないな。だが、負けるわけにはいかない。

 ここで俺が負けてしまえば、彼女は目を覚ましたときに後悔するはず。

 俺は彼女の泣いている姿をもう二度と見たくはないんだ……!

 乾沢一が挑む一世一代の大勝負。今の俺は負ける気がしない……!

「命を賭けて家族を救ってみせる……!」

 その言葉に合わせてシルバーウルフがロングランスを使い突進攻撃を仕掛けてきた。

 槍をスッと身を翻すように交し、俺はそのまま彼女の胴体に向けてタックルを繰り出した。

「ギャゥッ!?」

「あっ、ごっごめんよ!?」

 駄目だ……。彼女の痛そうに上げる声に気持ちが揺らいでしまう……。

「アォオオオオン!!」

「ヤバっ!?」

 俺の戸惑いを見逃さなかったようだ。中腰の姿勢になり、シルバーウルフが俺の胴体に狙いを定めて何度も突き刺そうと刺突攻撃を仕掛けてきた。

 その攻撃にはさすがの俺でも反応が遅れてしまい、胴体のアーマーから火花が迸ると共に、装甲がガリガリと削り取られることになってしまった。

『ピピピ!――耐久値90に低下 リカバリー不能なダメージと断定。セーフティプログラムを発動します』

「くっ、まずい……!」

 アーマーの耐久値がゼロを迎えた瞬間。セーフティプログラムによって強制的に変身が解除されてしまう。それはつまり、俺の敗北と共に死が訪れることになるな……。 

「あまり武器に頼るのは好きじゃないけどな……!」

『ヒートナイフッ!!』

 右手にヒートナイフを出現させる。リーチは短いが、それでもこの武器は強力だ。

 俺は彼女が纏っている鎧に狙いをつけて斬撃を繰り出す。

「グルルゥ!!」

 鎧に火花が迸る。その一撃が決めてとなり、シルバーウルフがバランスを崩してよろけた。すかさず俺は間合いを詰め続け、パンチを織り交ぜながら斬撃を繰り返す。

 出来るだけシルバーウルフの顔を傷つけない。

 それが俺なりの彼女に対する優しさだった。

「頼む……! これで力尽きてくれ。気絶してくれ……! ……頼むから」

 シルバーウルフを殴ったり蹴ったりする度に。彼女の愛らしい笑顔や。彼女の可愛らしい仕草が目の前でフラッシュバックし、幻影として現れてくる。

 そのせいで俺は精神的なダメージを負いつつあった。

「ギャゥンッ!?」

「よし、壊せた!」

 彼女の胴鎧が度重なる斬撃や打撃によって盛大に大破した。

「まだだっ!!」

 更に俺は追撃として左手を使い、渾身のブーストパンチを繰り出す。

「ガルゥッ!?」

 胴鎧が完全に砕け落ちた。突然のイレギュラーな出来事に驚愕するシルバーウルフを前にして、俺はそのチャンスを逃すことなく追撃を試みた。

 だが彼女は素早くバックステップで距離をとってくる。

『CAUTION 敵のカウンター攻撃を予測』

 システムが深追いをするなとアドバイスしてきた。ここは冷静に従うことにしよう。

「……次はなんだ?」

 シルバーウルフが四つん這いのまま前傾姿勢をしている所を見ると、相手は短期決戦を仕掛けようと考えているのだろう。

 その予想は正しく。シルバーウルフはこちらに突っ込んでくる形で跳躍してきた。

 パターンは一緒だ。刺突による突き刺し攻撃でトドメを刺そうとしてきている。

「掛けてみるか……!」

 俺は右足に全神経を集中してパワーブーストをかける。

『ビギニング クリティカルブースト フィニッシュ!!』

 目標との距離を見計らい。そしてタイミングを合わせて狙いを定める。

「ターンキック!!」

 必殺技『ターンキック』を仕掛ける。相手は死ぬ技だ。それをふゆづきが持つロングランスに向けて放つ。

 俺が放ったターンキックはロングランスの側面に直撃する。

 会心の一撃が襲いかかり、その衝撃に耐えきれずにそのままロングランスは粉々に砕け散る。

「アヴッ!?」

「よしっ、計算通りだ!」

 行き当たりばったりな段取りで仕掛けた必殺技だった。だがそれでも相手の弱みを突くことに成功し、こちらに勝機が見えてきたことによって結果はオーライとなった。

 シルバーウルフは運良く必殺技を回避したようだ。だが、不安定な軌道で避けてしまったことによりバランスを崩し、縦横無尽に転げ回ってうつ伏せに倒れてしまった。

「ウゥウウウ!!」

 自分の武器を壊されたことで怒りが頂点に達しているようだ。

「このターンで決着をつけてみせる! 行くぞシルバーウルフ!」

「ガァアアアアアアアアアアアァ!!」

 俺と彼女の激しい拳のぶつけ合いが始まる。

 初めは優勢だった。だが、俺のアーマライドシステムよりも、シルバーウルフのポテンシャルが少し上のようで、どうしても守りに徹してしまいがちになる。

 彼女から繰り出される瞬発力のある強烈なラッシュパンチは容赦なく。

『ピピピピ!――耐久値75に低下』

 アーマーの耐久値を容赦なく減らしていく。

「くっ、強いッ!」

「ガゥウウ!!」

「またかっ!?」

 シルバーウルフから距離を置こうとバックステップを試みた。だが間合いを詰められてしまい、再び彼女のラッシュパンチが炸裂する。

 間に合わせにはなってしまうが、それでも俺は繰り出されるパンチに合わせて両手の拳で相殺していく。

「こっ、これじゃあ防戦の一方だ……!」

 状況が立て続けに悪化してきている。

 俺は肉体的に。そして精神的にかなり追い込まれていた。

 彼女を殴る度にあのフラッシュバックが起き、その度に心が傷いて胸が痛くなる。

 この身体は改造されていても、心は人間なんだ。

――だが、それでも諦めない。ふゆづきを救えるのはこの俺しかいないんだ……っ!

 何度も心が折れそうになっても。彼女のバッドエンディングを思えば熱い闘志が何度でもこみ上げてくる。

「うぁああああああああああああああ……!!」

 長く続いたつばぜり合いに決着がつく。俺は重い一撃を頬に受けてそのまま背後へと吹き飛ばされてしまう。

 惜しくもふゆづきのラッシュパンチを完璧に相殺する事は出来なかった。

 競り負けた原因は恐らく最後の一発。右拳にパワーブーストが掛かっていたのだろう。

 同じ力をぶつけ合うだけの単調な繰り返しだった。シルバーウルフはこちらに気づかれないように動きを合わせて会心の一発を繰り出してきたのだ。

 俺はまんまと相手の策略に載せられてしまった。

『ピピピピ!――CAUTION――耐久値50に低下』

「もう、そこまで下がってしまったのか……くそぉ!!」

 アーマーの耐久値が半分となり、HUDに黄色のポップアップでCAUTIONと文字が表示される。

 地に伏していた身体を起こし、膝立ちのまま俺は右拳で地面を強くなぐつける。

 このままでは確実に敗北する。そう焦りを感じていた最中。

「ウゥ……ウゥァアアアアアアアアァ!?」

「……!?」

 それは突然だった。

 シルバーウルフが両手で頭を押さえながらうずくまり、その場でもがき苦しみだしたのだ。

 力の使いすぎで副作用が生じてしまったのだろうか……?

「そうだとしても。これは反撃のチャンスだ……!」

 このチャンスを物にするための段取りを素早く組んでいく。俺はあさぎりから貰った『グロリアスミスト』メダルを右手に出現させ、そのまま素早くデバイスをメダルを持ったままの右手で九〇度に回した。

 すると、デバイスの側面からメダルが入れられるほどの挿入口がカシャッと姿を現す。

「……確かこうだな!」

 メダルをデバイスに差し込む。すると。

『スキャニングチェック グロリアスミスト レディ』

「絶・対・零・度(アブソリュートゼロ)!」

 両手をシルバーウルフに突き出して構え、頭の中に浮かんだ必殺技を叫ぶ。

『ガチゴチガッキーン! 氷のミスト グロリアスミスト!』

「ワゥンッ!?」

「こっ、これはすげぇな……」

 シルバーウルフの身体に纏わり付くように白い霧が現れた直後。一瞬にして霧は白銀の氷塊へと変化する。

 顔下半分を氷塊で拘束された状態のシルバーウルフは身動きがとれずにおり、彼女はその場でグルルと唸り声を上げて俺を睨み付けながら威嚇してきている。

――ドッドッドッドッドッドッドッドッ!

 全神経を右手に集中させパワーブーストを約五分の一程度にかける。

『ビギニング ハーフブースト フィニッシュ!!』

 処刑BGMが俺の脳内に鳴り響きわたる。その高揚感と共に俺は、

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ギャァインッ!? ……くぅぅん……」

 今まで傷つける事をしなかった彼女の顔面に拳の一発をぶつけた。

 氷塊が盛大にはじけ飛ぶ。必殺技を受けたシルバーウルフは両手を大きく広げ、その場で仰向けのままの状態で地面に倒れた。

 彼女の姿を見届けて後ろを振り向き、俺はその場で右手首を振る仕草をする。

 こうする事で手に残っていた力が発散され、暴発を防げるのだ。

「……終わったな……」

 変身を解く。

「ふゆづき……!」

 シルバーウルフは意識を失っているようだ。彼女の身体からは紫のもやが抜け出しており、しばらくした後に彼女は元の甘ロリ姿へと戻った。

「ははっ、可愛いな……」

 目をぐるぐると回しながら伸びている姿は、愛らしくてとても愛おしい。

「……よかった。本当によかった……!」

 それはビギニングが起こした奇跡だった。

「さぁ……帰ろっか……俺達の家に――」


――パチ、パチ、パチ、パチ。


「見事だ一。良い物を見せてらったよ。実に素晴らしい実験結果だった」

「…………っ!?」

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