第2話:2人の引くことの出来ない覚悟と理由

 あさぎりは奴の置かれている今の状況を説明してくれた。

「ゆうだちは今。自分の力を使いすぎたあまりに暴走状態(オーバーライド)に陥ってしまっているの。自分には力がまだ足りない。もっと自分に力を与えてくれっておじ様に頼んでしまったの。それでおじ様が。君にはもっと秘めたる力が眠っている。もっと短い期間で繰り返し怪人形態に変身を繰り返せば望んだ力が手に入ると。あの子。それを真に受けてしまって何度も目の前で変身を繰り返してしまったのそれで……」

「つまりアレか。怪人形態になりすぎたせいで元に戻れず。結果。怪人形態のままオーバーライドに陥ってしまったというわけか」

 要するに。やつは力に溺れてしまい、本当の意味で醜い異形の存在へと変わり果ててしまったとうことか。

「ええ……。まるで麻薬を何度も投与した中毒者のように。満たされない欲望を満たすために、更なる力の快楽を欲していると思うわ」

「あいつを止められなかった理由と。お前が怪人になれない理由が分る気がするぜ……。これは……あまりにもひどいな……」

 俺はゆうだちの凄惨な姿を見てそう思ってしまう。

 左の顔面は生身。それ以外はゴツゴツとした黒い岩の外殻が身体に纏わり付いている。

 外殻の隙間や関節にあたる部分からは、赤く煮えたぎるマグマが身体に流れているのが覗える。

 ゆうだちの姿を特撮モノで例えるならば怪人・溶岩人間(ラバ)と呼べそうだ。

「普通に戦って勝てるような相手じゃなさそうだよな……あれ……」

 一応。この姿で対等に渡り合えるのかは分からない。

 変身した直後なので、このスーツの力は把握できていない。

「それでもあの子を止めて欲しいの……」

 あさぎりが張り詰めた顔で俺に願いを伝えてくる。俺はその言葉に頷いて答えた。

「あさぎり。とりあえずここは俺が相手をする。お前はどこかに隠れるんだ!」

「お願い……あの子を助けて……!」

「ああ。お前の妹は俺が必ず助けてやる! 俺はもう昔の自分じゃない。俺はお前の願いを叶えるヒーローになってみせる!」

「乾沢くん……」

 真剣な眼差しになり、俺は不安な表情を浮かべているあさぎりをマスク越しから見つめて頷いた。

 するとあさぎりの表情が明るくなり、彼女は頬を朱色に染めあげて笑顔のまま涙を流してこくっと首肯した。

 そして彼女は俺から距離の空いた所にある樹木に向かって小走りで離れていった。

 左半身を樹木からさらけ出し、あさぎりはこちらの様子を見守ってきている。

「さて、リベンジマッチだゆうだち」

 右手を銃の形にして腕を伸ばし、身体を横に向けて、俺は彼女に宣戦布告をした。

「サイコフレイム!!」

「うぉっ、いきなりかよっ!?」

 俺とゆうだちとの二度目の戦いが幕を開ける。

 彼女が両手のひらを上に向けて伸ばすのと同時に、上空には無数の火球が出現する。

「コレデモクラエェエ!! アァハハハハハハッ!!」

 ダミ声でゆうだちが愉悦に満ちた笑い声を上げている! 

 彼女の手の動きに合わせて火球が次々と束になって俺の元に飛来してくる。

――ズドドドドンッ!

『敵の動きをラーニング中……』

「うぉっとぉ!?」

 その攻撃に対し、俺はサイドステップで横に転がり回避する。

 何か武器になるようなモノがないかと思った直後。俺の手元が発光し、しばらくすると、実銃のデザートイーグルをモチーフにした銀色の大型拳銃『ゼロシューター』が現れた。

「コイツを使って反撃しろってことか……? くそっ、これでもくらえ!!」

 手にしたゼロシューターを、ゆうだちの胸部に狙いを定めて数発ほど発砲する。

『ゼロシューター!』

――ダンダンッ!!

「ウッ!?」

 銃口から放たれた銃弾はマズルフラッシュと共に彼女の胴へと直撃する。

 最初の一発を受けた時だけ驚いた感じで怯む様子を見せたが、2発目からは態勢を立て直し、彼女はぶ厚い胸部で火花を散らしながら銃弾を受け流しつつ、俺の元へその巨体をドシドシと揺らしながら威圧的に間合いを詰めてくる。

「銃じゃ奴に致命傷は与えられないのか……!」

『敵肉質の弱体化を確認。軟化率およそ30パーセント』

――ならば!

「これならどうだ!」

『ヒートナイフ!』

 右手に持つイーグルガンを光と共に消滅させ、今度は『ヒートナイフ』を手に発光と共に出現させて逆手の状態で握り締め、ナイフを手前に突き出しつつ中腰の構えをとる。

 ナックルガード付のナイフの刀身はオレンジに発熱しており、溶断で物を断つをコンセプトにした武器だとみて分る。これならばあの外殻にも対抗できそうだ。

「はぁああああああ!!」

 俺は腹の底から声を上げてゆうだちの元へと駆け出す。

――ジュウ……。

 懐に入り、俺は彼女の胴体に向けて数回ほどの斬撃を加え続けた。

「…………」

 だが、ゆうだちは不動の姿勢のままでいる。……おいおいマジかよ。

「ナンダ? オモチャノナイフデオレサマヲキズツケラレルトデモオモッタノカ?」

 さらに、

「アマスギルンダヨ!!」

「ぐぁっ!?」

 一瞬の気の迷いが生じてしまった。反応するのに遅れた事で、バックステップが間に合わず、俺は彼女の丸太の太さを生かした右から来る回し蹴りを胴で受けてしまった

 俺の身体から火花が迸るのを目にする。生身だと血が噴き出していただろう。

 俺は痛みとめまいのあまりにその場でよろける。

 ふと俺の目の前に表示されていたディスプレイに、

『ピピピピ!――耐久値75に低下』

 と、ポップアプが表示され、アーマーの残り耐久値を映し出してきた。

 耐久値がゼロになってしまった瞬間。変身が強制的に解除されるのではと重く感じる。

 ダメージを受けてしまった脇腹を片手で抑えつつ踏ん張っていたが、

「オラァ!!」

「グッ!?」

 俺に余裕を与えてくれないようだ。

 更なる追い打ちとして、ゆうだちが灼熱を纏った右手の拳を俺の顔面にぶつけてきた。『ピピピピ!――CAUTION――耐久値が50に低下』

 殴られてしまった俺は後ろによろけてその場で四つん這いになる。

「あっ、あさぎり! 援護を頼むっ!」

 俺は顔を上げてあさぎりに助けを求めた。

 当初の作戦で俺がピンチに陥った際に、彼女が援護してくれる手はずになっていた。

 だが、

「あさぎりさん何故見ているんです!? ヴェッ!?」

 立ち上がろうとした直後。俺はゆうだちの突き上げ連打からのボディーブローを受けてしまう。

 あさぎりはただこちらを呆然と見つめてきておりまったく反応がない。

 彼女の様子に驚きながら、俺はノックバックでよろけながらも踏ん張って姿勢を保つ。

 そして俺は彼女に正面を向いて息絶え絶えになりながら、

「俺を裏切ったんですかっ!?――ウァアッ!?」

 そう心から訴えかけた。だが彼女の様子に変化がない。

 その直後。更なるゆうだちのボディーブローをくらってしまい、俺はそのまま右横回転で宙を舞いながら地面に転がり倒れてしまう。

「あさぎりさん……! 俺に向けていたあの嬉し涙は何だったんだ……!!」

 俺はゆうだちの攻撃をかわしつつ怒りのカウンターパンチを繰り出す。

 そして怯んだ隙に背後に回り込んで後ろから羽交い締めにした。

『敵の言語の翻訳を完了しました』

「無駄だ。姉さんは私の力で囚われの身になっている。お前の問いかけに対して何にも反応しないぜ」

 ゆうだちのしゃべり方が流暢だ。システムが何からのチューニングを施して聞きとりやすくしてくれたようだ。

「どういうことだ!?」

「おじ様が最近。俺様の脳にナノマシン所有者とリンクすることで、相手の動きを制御できるように改造してくれたのさ。こうして姉さんがおかしな事をしようとしても。私が脳内で姉さんの意識を奪うことで。姉さんは何もできなくなるのさ。これ以上。姉さんを戦わせる必要はないんだ。私ひとりが戦えればそれでいい」

「要するに。お前が精神的に干渉している限りはあさぎりは何も出来ないと言いたいのか! なんて身勝手な理屈だ!!」

 俺の羽交い締めを蹴りで抜け出し、ゆうだちが余裕をもった笑い声を上げる。

「ああ、そういう事になる。おじ様が俺様達を改造人間にしてくれた際。体内にナノマシーンっていう機械を頭に注射で入れてくれていたんだ」

「…………」

 ナノマシーンなんてSFみたいな話だなと思ってしまうが、実際に目の前であさぎりが精神的に乗っ取られているから信じるしかない。

 このままでは埒があかない。この場で短期決戦で戦いを終わらせなければ……!

「これ以上。あさぎりやゆうだちを苦しめるわけにはいかない……!!」

 俺は両手の拳に力を込める。

「なにか奴に対して決め手となる必殺技を考えるんだ俺……!!」

 俺はゲームで得た知識と経験を元にした必殺技を編み出すことにした。そして、

「ゆうだち! 今から繰り出す俺のとっておきの必殺技でトドメを刺しやる!! 決着をつけるぞ!!」

「ああ、いいぜ。かかってこい! サイコフレイム!」

 ゆうだちが先ほどの火球攻撃を繰り出すつもりのようだ。

「くらえっ!」

「トォオオ!」

「なっ、ジャンプで避けただと!? 何をするつもりだ!?」

 脚力ブーストをかけてその場で空高く大ジャンプを繰り出す。

 下を見下ろすと、俺の元いた場所に沢山の火球が雨あられと着弾していた。

 慣性の法則で地面に着地し、俺はそのままバックステップで後ろに回避する。

 その勢いのまま大きなバックステップをし、俺は樹木の幹に両足をつけてしゃがんだまま姿勢を保持する。 

 そこから間伐入れずに脚力ブーストを掛け、俺は前傾姿勢で跳躍して前宙返りをする。

 空中で高速回転するのを感じながらタイミングを見計らい、俺は折り曲げていた両足を伸ばし、ゆうだちに向かって飛ぶように脚力ブーストを掛けた。

『ビギニング クリティカルブースト フィニッシュ!!』

 高速で放たれた弓矢の如く、必殺技のドロップキックがゆうだちに炸裂する。

「フゥンッ!!」

「くっ! やはり受け止めるのか!!」

「当然だっ!! 俺様はお前より強いからなっ!!」

 ゆうだちが両手を使って俺の両足を掴んで受け止めてくる。

 このままでは失速して地面に落ちてしまう……!

 だが、俺のドロップキックはこれで終わりではなかった。

――キュィイイイイイイン!!

「こっ、これは!」

 身体全身から機械的な加速音が青色の発光と共に響き渡り、その光が身体に添って両足にかけて集い始めている!

『絶対の原点(アブソリュートゼロ)・発動』

「グググググァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 俺の必殺技を耐えきるために、ゆうだちが必死の抵抗を続けている。

 全身の外殻を両手から両肩に集約させ、俺の攻撃を彼女は極限まで飽和させようと図っている。

 彼女の身体中に流れているマグマが活発に動き始めている。

 マグマの動きに対し、彼女は悲鳴を上げながらも自身の身を守ろうとしていた。

「こっ、こんなところで俺様が終わるわけにはいかねぇえんだよ! やっと姉さんを守れる力を手に入れたのに! お前のような出来損ないに負けるわけにはいかねぇんだよぉ……っ!! ウォオオオオオオオオオオオオォ!!」

 彼女の言葉が何を伝えようとしているのかは俺には分らない。

 だが、その熱意と闘志に対し、俺は敵ながらも尊敬する。

 だが、俺だって引くことの出来ない理由があるんだ!

 俺の事を愛してくれている妹達の為にも……!

「俺は。お前以上に苦しい思いをして。つらい過去を乗り越えようとしているんだ! だから、俺はお前が目の前で苦しんでいるのを見過ごすわけにはいかないんだよ!!」

 再びあさぎりとふゆづきの笑顔をみたい!

 妹の変わり果てた姿に涙したあさぎりの心を救わないといけない!

 そして何より。いま目の前で苦しんでいるゆうだちの事を救いたいんだ!

 その全ての思いを胸に、

「お前の運命は俺が原点(ビギニング)に変えてやる!! うぉおおおおぉ、せいやぁああああああ!!」

 俺は全身全霊で雄叫びを上げて力を込めた。すると次の瞬間。

『ビギニング オーバーライドブースト フィニッシュ!!』

 デバイスが俺の思いに答えてくれた。全身から溢れんばかりの力がみなぎってくる。

 激しい閃光と共に、俺達は互いの思いを背負って最後の決着をつけようとしていた。

「なっ、何だっ!? ちっ、力が無くなっていくだと……!? ヤメロォオオオオオオオオオオオォ!!」

 覚醒したビギニングの力に対し、ゆうだちは為す術なく悲痛な叫びを上げている。

「これで。これで終わりだぁああああああああああ!!」

 俺の更なる原点の力が彼女に襲いかかる。そして――

「姉ぇさぁああああああああああああああああぁん!!」

 彼女の絶叫と共に必殺技が炸裂。俺は彼女の身体を貫き地面に低い姿勢で着地した。

 背後から轟く盛大な爆発音をバックに、俺はその場でゆっくりと立ち上がり、

「……運命は誰でも頑張れば変えられるんだ。例えそれが死ぬ直前でも……な……」

 右手を振る仕草をしてこの戦いに幕を閉じた。

 俺達の戦いはこのような形で決着してしまった。

 お互いに守りたい人の為に戦った。それは紛れもない事実だ。

 そう思いながら背後を振り返る。

 爆発の衝撃で奥にある樹木の側に吹き飛ばされたのだろう。ゆうだちが全裸のまま地面に横たわり、アニメのように目を回しながら気絶している。

 どうやら怪人形態から元の姿に戻ったようだ。これが原点の力なのだろうか……?

 とりあえず彼女の姿を見てホッと胸をなで下ろすことにしよう。

 俺はゆうだちの元へと歩み寄り、そのまま彼女の身体を優しく抱きかかえ上げる。

「あさぎり……!」

 あさぎりの様子が気になり、俺はその場で振り向いて彼女の様子を伺う。

 ゆうだちに操られていた彼女はすでに意識を取り戻しており、地面にペタンと力無く座って呆然と虚空を見つめているようだ。

「あさぎり……大丈夫か?」

 あさぎりの側に歩み寄り、俺はその場でゆうだちを地面に降ろして寝かせた。

「乾沢くん……わたし……」

 ゆうだちの姿を見ている彼女からの言葉は俺でも予想がつく。

「ゆうだちを助けられなかった……あなたに任せっきりになってしまった……!」

 私もあなたと一緒にゆうだちの事を救いたかったと。あさぎりは鼻を啜りながら目尻に涙を浮かべてそう話をしてきた。

『周囲に敵対勢力無し。変身を解除しリカバリーを開始します』

 周辺に敵対勢力がいないことを人工知能が確認したのだろう。変身解除シーケンスが発動したようだ。

 全身に纏っていたアーマーが淡い光と共に消え去っていく。

 変身が解除されてしばらくした後に、あさぎりは自分達の過去について話をしてくれた。

「私達はね元々。比較的裕福な家庭で生れ育ったの。お父さんは、福知山で自営業をする大きな会社の社長。お母さんはお父さんの専属秘書。会社の業績はうなぎ登りで絶好調だった。海外にまで事業が展開する話が持ち上がるほどの企業だったの」

「なっ、なんか今の状況とはかけ離れた話だな……」

「ええ、そう思われても仕方がないわね」

 そんな凄い社長令嬢の姉妹が、どうして改造人間になったのだろうか?

「今から二年前かしら。ある日突然。お父さんの会社が倒産してしまったの」

「二年前……。倒産か……。どうして?」

「後で分った話なのだけれど。倒産の原因はテロハッカー組織サードアイが資金源としているフロント企業による倒産工作だったの」

「なっ、なんだって!? それってつまり……!」

「ええ、全て仕組まれた事だったわ。お父さんの会社は敵にとって邪魔な存在だったわけ。要するにお父さんの会社は組織の逆鱗に触れてしまったのよ」

 さらに彼女はこう話を続ける。

「倒産の1ヶ月後にね。お父さんとお母さんは私たちを残して自殺してしまったわ」

「気の毒に……」

 ひねくれたバカな俺でもその話を聞けば悲しくなる。

 親を亡くした。その言葉を聞いて思わず特別な感情を抱いてしまう。さらに、

「それから私達の人生は狂い始めたの。会社の借金の返済をする為に私は高校を中途退学。有名な私学に在籍していたわ。ゆうだちもこんな人柄だけど同じ高校で私と1位2位を争う成績優秀者だったの」

「えっ、この女が成績優秀者だっただと……っ!?」

「まぁ、そう思われても仕方がないわ。中途退学をしてしまった私達はそこから必死にがむしゃらになって働いたわ。ゆうだちには会社の借金の返済の事は黙ってたの。それでも追いつかないから。ゆうだちには黙って、生活費を工面するために身体を売る仕事をしていたの」

「そうなのか……」

――こっ、こんなところで俺様が終わるわけにはいかねぇえんだよ! やっと姉さんを守れる力を手に入れたのに! お前のような出来損ないに負けるわけにはいかねぇんだよぉ……っ!! ウォオオオオオオオオオオオオォ!!――

 あいつが言っていた言葉の意味が分かったような気がする。もしかするとゆうだちはあさぎりが何をしていたのか気づいていたのかもしれない。

「……だからあいつはあのような事を俺に言ってきたのか」

 それからあさぎりは身体を売る仕事を気の遠くなるまで続けていたという。

 その影響もあり、あさぎりさんは重い病に伏してしまった。

 性病の影響で身体の抵抗力が無くなってしまい、そのまま重い感染症にかかってしまったのだという。自業自得という奴がいるならば俺は容赦なく殴り飛ばしてやりたい。

「このまま借金の返済が出来なくなったら……と思ってね。自分の未来が閉ざされてしまったことだし。それに絶望してたから一度は自分で命を絶とうと考えたの」

「実はさ……俺も昔。同じように改造人間としての自分に絶望して自殺をしようとしたことがあったんだ」

「えっ……」

「まぁ、結局。死ねなかったんだけどな」

「そっ、そうなの……」

「ああ……その時は本当に絶望していたな……」

「私もね結局。妹の事を考えるとそれは出来ないと思ってしまったの。おかげで途方に暮れる毎日を送り続けることになったわ……」

「…………」

 それからのあさぎりはゆうだちの紹介でおじ様と出会ったのだという。

 世界的にも権威のある名医だと。そうゆうだちから話を聞かされたらしい。

 でもそいつの正体はサードアイに所属する悪の科学者だった。

 つまり彼女達はそいつの素性を知らず。そのまま悪の力によって改造人間になり、あのような姿になり果ててしまったという事になる。

 ふと、

「私ね。実はその時に……」

「ん? その時に……なんだ?」

 あさぎりは何やら顔を赤くして恥ずかしそうにもじもじとしている。

 そう聞かされて疑問を感じた俺は首を傾げると。

「初恋をしてしまったの……うふ」

「……なるほど」

「おじ様のおかげで私は命を救われた。その事を頭の中でずっと考えていて。それで気がついたら恋しちゃったわけ。わかる?」

 いや、男の俺に女の恋バナをされてもなぁ……。反応に困るじゃないか。

 それからの彼女はとても嬉しそうに話を続けてくれた。

 おじ様に対する好意的な感情の反面で自分の恋心を悪用し、ゆうだちの姉を守りたいという正義を悪に利用した事に対してあさぎりは底知れぬ敵意をむき出していた。

「最後にこれだけは言わせてほしいの」

 そう間を開けるようにしてあさぎりは真剣な表情になり。

「自分の命を守るために。この命を救ってくれたあの人にいつか振り向いて貰うために。改造人間になる事を選んだ事に対して後悔はないわ。だっておじ様の事。大好きだから。だからお願い。おじ様を止めて欲しいの」

「…………」

 あさぎりの表情はまさに恋する乙女の顔そのものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る