3章:出来損ないヒーローの孤独と過去
第1話:改造人間の姉妹の力
名を改めてお嬢様ことあさぎりと、不良少女のゆうだちは共に姉妹であり改造人間だった。そのことに対して俺の胸がざわついている。
「私達はね。どこにでも居る普通の双子の女子高生だったの。そう、あなたみたいな同年代の。それも、どこにで見かける明るい性格をした普通の姉妹だったわ」
どこか昔を懐かしむように、あさぎりは哀愁漂う笑みを浮かべてポツリと語り始める。
「あぁ、そうだったな姉さん。俺様も――いや、私は姉さんとは違って喧嘩上等がモットーの女だったな。まっ、それはどうでもいいことさ。こうして今を楽しく生きているんだし。それに私と姉さんの事を強くしてくれたおじ様にはとても感謝している。バイトで破格の給料をくれたり。前の生活みたいに辛い思いをすることなく。こうして楽して生きていられている。それに半分不死身みたいだし、あまり老けないって言うから毎日が最高にハイってやつなわけさ!」
そりゃぁ改造人間って言われるだけあるからな。何でもありなんだと思う。
ゆうだちは嬉しそうにまた、左手の平に右手の拳をぶつける仕草をする。
俺は彼女たちの話を聞いておじ様という人物が何者なのかと興味が湧いた。
バイト代。つまりお金を貰って彼女たちは改造人間の力でなにかしらの裏仕事で生計を立てている。それで得た多額の報酬で彼女達は生計を立てているだなんて。
それ以外にも他に方法があったんじゃないかと、俺はそう疑問に思ってしまった。
それは兎も角だ。この場から離れなければならない。
まったく見たことの無い相手を前にして逃げられる自信はほぼ無いが、それでも俺はマシックスでもよくあったシチュエーションを思い出し、それに合わせてコレまで得てきた経験と知識を元にしてさっそく行動に取りかかることにした。
「あっ、あのさ」
「なにかしら?」「あん? なんだ?」
俺が彼女達に話しかけると、二人は同時に返事をしてきた。
俺は緊張のあまり息を飲みつつ質問を投げ掛ける。
「ふっ、ふたりはかかっ改造人間って名乗っているが。ほっ、ほ本当なのか……?」
「確かにあなたの言うとおり。私たちは正真正銘。生身の身体を改造手術によって人工的に強化された改造人間よ。どうやらあなたの口ぶりから察するに、信じられないとでも言いたいのかしら?」
と、あさぎりが答えてくる。彼女の言葉から、これ以上の無駄な質問をしてくるなというニュアンスが伝わってきた。表情(おもて)には出さず、彼女は不快に感じているようだ。
「そっ、そのなんていうかな……ははっ」
ふと、
「あぁ! なんかこいつの話を聞いていると女々しくて仕方がないぜっ! なぁ、あさぎり姉さん! もうこいつのこと見てると無性にイライラしてくるぜっ! もう、無駄な雑談なんか終わらせて仕事に取りかかろうぜ! 今日の報酬もらえなかったら姉さんに渡そうと思っていた物が買えなくなっちまうよ! てかドンキ行きたい!」
お店の人全力で逃げて!
「しっ、仕事って。なっ、何をするつもりだよ!?」
「あん? そりゃあ、気持ちいいほどの暴力の嵐でお前を殺す」
その瞬間、俺の脳内にデデンッと衝撃が走る……!
「気持ちいいほどの暴力の嵐で俺が殺されるだと……?」
「あぁそうだ。何か不服なのかよ?」
「ふっ、ふざけるな! 冗談じゃないッ!!」
激しい動揺と共に強い怒りがこみ上げたが、俺はそれを歯を食いしばって押し殺した。
「……なぁ」
「あぁ? まだ話足りないのかよ?」
俺が食い下がるのを鬱陶しそうに、ゆうだちは片足のつま先を何度も地面にカツカツと突(つつ)いている。完全に俺の事を嫌っているのがとても解りやすい。
「本当に俺は今からあんた達に殺されるのか?」
「……何度も同じ事を言わせるなよ。その気になれば今すぐにでも殺れるぜ?」
語気の強めた返事が真顔と共に俺に返ってくる。さらに。
「どっ、どうしてこんな悪事に手を染めてしまったんだよ!? なんで俺が殺されないといけないんだよ!?」
「なんでってそりゃあ……ねぇ」
「仕事としか言い様がないわね。ふふっ。ちなみに、あなたで三一人目になるわ」
「さっ、三一人目だとっ!?」
そんなに大勢の人達を犠牲にしてきたのか……!
彼女達は既に多くの人の命を闇に葬り去ってきたようだ。
これではっきりとした。
彼女たちの仕事は改造人間の力を使った暗殺業だ。さらに俺は彼女達を追及する。
「どっ、どうして人殺しなんかしているんだよ!」
彼女達にとって俺の言葉は耳障りなのかもしれない。だが、聞かずにはいられない。
こうしている間にも俺を殺すための準備が始まっており、彼女達は非現実的かつ派手な超常現象を俺の目の前で披露しているからだ。
「おっ、おい! なんだよそれは……!?」
「んっ? あぁ、そうだな……。解りやすく簡単に説明すると。お前を殺す為の超能力の準備をしていると言うべきだな。いわゆる仕事道具の用意ってやつさ、はんっ」
手から全身にかけて炎を纏い、ゆうだちが当然だと言わんばかりの口調で俺に言葉を返してくる。
「そうね。あなたにとっては空想とかアニメとかのお話なのかもしれないわね。でも、これが現実なのよ」
そう話をしながらあさぎりは全身に青白いモヤを纏い始めている。さらに、
「そうね。冥土の土産にあなたの身に今から起ころうとしている事。特別に教えてあげるわ。……うふふっ」
そう歪んだ笑みを浮かべながら話し、
「あなたは過去に殺された人達のように。跡形も無く消え去ってしまうわ。あなたを殺したという証拠は出ないし警察もなんだかよく分からない事が起きていた位でしか動かないわ。要するに遺体はその場には存在しない。あらあら、そんなに怯えた顔をしないでよ。まだそんなタイミングじゃ無いわ。もっと私達を楽しませてくれないと」
「そ……そんな……ウソダソンナコトォ……」
恐怖と共に表情が強張る。両手の震えが止まらない……!
さらにあさぎりは、
「それにね。私たちはおじ様から直接命令をうけて殺しをやっているワケじゃ無いの」
「どっ、どういう事だ?」
「うーん。そうね、あなたにわかりやすく説明するとね。私たちが改造手術を受けて目を覚ましてから既に。あなたを含めた他の人達。大半が科学者だったけど。その人達のありとあらゆる情報が記憶にインプットされていたの」
「…………?」
科学者という言葉に何か意味があるのだろうか……?
「それにね。そのことに対して別に何も疑問も感じてなんていないわ。リストの人物を殺せと命じられれば。それ通りに何度も確実に仕事をこなしてきたわ。ゆうだちと同じ事を繰り返し言わせてもらうけど。本当にこの生活は昔と違ってとても充実しているのよ」
人を殺して手に入れる金と飯は旨いのかよ。その思いを込めて俺は、
「他にも良い意味で道はあったはずだろう……」
そう思いを伝える。
だが、俺の思いを聞くなりあさぎりの表情が無機質に変わってしまった。
能面にも例えられそうなその表情に、俺は酷く恐ろしい悪意と闇を感じとってしまった。……越えてはいけない線に俺は踏み込んでしまったようだ。
「ふふっ、残念だけど。あなたには私たちの気持ちなんてこれっぽっちも理解できないと思うわ」
「お前の知ったことじゃないだろうがゴミカスが」
そう言い聞かされてしまった俺は思わずその場でゴクリと息を飲む。そして。
「さてとお喋りが過ぎちまったな。じゃっ、さっそく死んでくれよ。えと、あんたの名前は?」
「いっ、乾沢一だ!」
何故で俺の名前を聞いてくるのだろうか? 記憶の中にインプットされてるなら別に聞かなくても良いハズだ。
いや、それよりもこの状況は明らかにヤバいことが解りきっていることじゃないか。
俺は考えを改めることにした。逃げるよりも戦って方がいいじゃないかと。
どこまで自分がこいつらと戦えるかなんて正直に分からない。
ただひとつ言える事がある。ここで無残に殺されるくらいならば、俺は少しでも可能性のある方にすがったが理に適っているじゃないかと思うんだ。
「おっ、それそれ。良い面構えしてるじゃん。そうやって勇気を振り絞ってくれてさ。俺様達に立ち向かおうとしてくれているその顔。俺様的には溜まらないぜぇ……」
そう話をしながら、ゆうだちがニヤニヤと嬉々とした表情を浮かべる。
彼女の言葉で俺の闘志に火がつく。
「くっ、来るなら来いっ! おっ、俺だって男だ! 柔な身体じゃ無いんだからな!?」
「またやせ我慢ね」「あぁ、そうだな姉さん」
完全に舐められてました。
「うぅ! 絶対に後悔させてやる!!」
羞恥と怒りが入り乱れる思考の中で、俺は彼女達にそう言い返してやった。
だが彼女たちは拍子抜けたと言わんばかりの表情を浮かべる。互いに顔を見合わせた後に、彼女達はこみ上げてくる笑いの衝動に堪えきれずゲラゲラと笑い始めた。
「なっ、なにがおかしいんだよっ!?」
笑う彼女たちに向かって俺は怒りをぶつける。
すると、こみ上げてくる笑いを抑えつつ、ゆうだちは目尻からにじみ出ている涙を手の甲でゴシゴシと拭い取り、
「おっ、おまえ。突然なに俺様達を笑かしてくれんだよ! なんの冗談のつもりかは知らねぇけどよぉ……あまり調子にのるなよ?」
殺意にあふれた怒りの表情を浮かばせて俺に襲いかかってきた。
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