第6話:家出と刺客
「あの野郎……帰ってきたら絶対に説教してムッコロす!」
そうあきづきが言っていたセリフをマネして心に誓った自分。その思いを抱きながら自衛隊桟橋前の側道を歩いていた。外は既に夜を迎えつつある。
側道から鉄柵越に見える景色。幾つもの護衛艦が一列に列を成して岸壁に沿うように停泊している光景だ。全ての艦には既に照明灯が付いており、立ち止まればその場で左右にその姿を見渡すことが出来る。
それが俺の見慣れた景色のある地元の風景の一つだ。京都の北に位置する北端の地方都市である舞鶴市。ここが俺の生まれ育った故郷だ。
しばらく歩き続けていると、今度は古い赤煉瓦倉庫の建物が立ち並ぶ光景が見えて移り変わっていく。舞鶴の基地の隣には赤レンガ倉庫の記念館が併設されているのだ。
――ビィユゥッ!
「うぅ、海風がマジで寒すぎるっぅのォッ?!」
唐突に俺を撫でて過ぎ去っていった冷たい海風に対し、俺の身体が反射的にビクリと震えてしまった。
防寒耐性皆無なジャージ姿で外に出たのが不味かった。だからといってジャケットなんて着られない状況でもあったしな。
「さすがにこの身体でも寒さに対しては鈍感という訳にはいかないか……」
そう独り言を呟きつつ、寒さに耐えながら俺はそのまま歩き続けることに。そして赤煉瓦倉庫に隣接する舞都市役所前の交差点で立ち止まり、その場で行く道にある歩行者用の信号が青になるのを待つことにした。
ふと俺は道路を挟んだ向かい側にある建物に目がとまる。
「あぁ、目の前に俺の好きなラーメン屋があるのに……さっ、財布がない……!」
崩落時に全財産を無くしたのでマジで泣きそうだ。しばらくは外でお金を使うことができない。
建物の窓から煌煌と光る店内では多くの来客で賑わっており、全員がラーメンを美味しそうに、そして楽しそうに食べているが遠目でもよく分かる。
あぁ、俺も昔はあの場所で同じように笑顔でいられた。
キャッシュカードの再発行をしようにも時間的にアウトだ。そもそも財布事態がマンションの瓦礫の中に埋もれてしまっており、どうにもならないので完全なる詰みゲーだ。
「この時期にホームレス間近の家出とか。無茶だといまさら気づいたわー……」
かと言ってあきづき達のアパートに戻るなんていう本末転倒なことはやりたくない。
意地でも俺はあいつらと一緒に住みたくはないな。
俺には独り暮らしが似合っている。
「とりあえず寒さしのぎにコンビニにでもよろうかな……」
ラーメン屋の隣には『七一一コンビニエンストア』がある。あそこは数少ないコンビニのなかでもよく使っている店だ。地方都市なのでどうしようもない。
信号機が青になった。俺は考えごとをしていたのでそれに気づかなかったが、周囲の自動車の動き始めた音でそのことに気づき、俺はそのまま横断歩道渡り歩きはじめる。
それからまた同じ流れで横断歩道を渡り歩きコンビニへとたどり着く。
「店で立ち読みでもしようかな……ほとぼり冷めるまで……」
あれこれ考えたのだが、結局戻ることが得策なのかもしれない。
そうぼやきながら目の前の自動ドアをくぐり抜けて店に入る。
店員の挨拶を聞き流し、俺は雑誌コーナーに直行する。
辺りを見回してさりげなく様子を伺う。この時間帯は会社から帰宅途中のサラリーマンがそれなりに多いようだ。その人達が手提げ袋を片手に行き交う姿を見て、俺もあと数年もすればあんな風になれるのだろうかと疑問に思った。
今の俺はそれを言う以前に普通の人のような暮らしができていない立場だ。
「しっかしなぁ……家が無くなるとこんなにもひもじい思いをしてしまうのか……やばいぜ……」
独り言を呟きつつ、俺は適当なコミック雑誌を手に取ってページーを開いて目を通す。
たまたま俺が手したコミック雑誌の名前は――『月刊ヒーローコミックス』。手に取った理由はシンプルに表紙のイラストに興味を持ったからだ。
「今更あいつらの所に戻ったとしても、おそらくあきづきにどやされるだろうな……」
そしてふゆづきの過激かつ、破廉恥な甘々スキンシップを前にして、ハラハラとする思いをしながら夜は眠れぬロリコォォォン!!――な展開に……。
それからまた、あきづきにどやされてしまうオチで結末を迎える日々が繰り返されることになるだろう。だから俺は独り暮らしがいい。
「あぁ……何だかむしゃくしゃしてきた……」
心の 中に渦巻くモヤモヤとした不快な感触。俺はコミック雑誌のページをさらに捲り読み進める。今は嫌な事を忘れて目の前の事を楽しもう。
いま目にしている作品の内容はこうだ。
時は近未来。現代日本の影で密かに暗躍する悪の地球外生命体で構成された秘密組織『プルート』。
あまたの星々の影で暗躍し、戦禍を巻き起こしてきたプルートに対して、正義に心を燃やし、仮面を被りて戦う変身ヒーローこと『ジャスティス』。そのジャスティスの正体は主人公である『板東正義(ばんどうまさよし)』と呼ばれる青年だ。
彼は日々忍び寄るプルートの魔の手から日本、そして地球を守る為に日々戦いに明け暮れている。
第一印象はまぁ、よくあるような王道展開のヒーロー物マンガのようだ。何処か昭和臭いな。
作中で登場するサブキャラクター達と主人公の友情ストーリーや、ヒロインと主人公による、つかず離れずのじれっとした甘酸っぱい恋模様。そしてサブキャラクター達による群像劇など、いま時の男達がまさにキュンキュンとしてしまうような展開が盛り込まれている。
この作者はなかなかの手練れだ。その道のプロだから当然か。
それにしても話の続きが気になって心と身体が無性にウズウズとしてしまう。
全体を通して作画は中々に濃い。だが、それがいい。好み以前に新鮮さを感じるのだ。
ヒロインは主人公に恋心を抱いている。こんな熱い奴の何処がいいのだろうか?
そして板東正義のプルートに対する深い憎しみや悲しみ、そして強い憤りに対してとても共感が持てた。彼は幼い頃にプルートによって、目の前で大切な家族を殺されているのだ。そして彼は拉致された挙げ句に人体実験の被検体になってしまい。彼は異形の姿の改造人間となってしまったのだ。
「可哀相になぁ……」
そして十年後。改造人間こと板東正義は成長し、プルートのやり方に反感を持っていた協力者である科学者と結託し、対峙する怪人との激闘を得て、板東正義は科学者から授けられた力で変身。悲しき運命の戦士『ジャスティス』と名乗り、復讐と正義の狭間を葛藤しながら戦い続けることになる。
その他にも主人公に対峙する敵戦闘員達との戦闘描写には非常に爽快感がある。
これは間違いなく神作だ。普通に面白いと思えてしまう。純粋に格好いいじゃないか。
俺も主人公のようになれたら良いのになぁ……。
だが、現実はそう思うようにはいかないと冷静になり、俺は頭を冷やして客観的に思考する。
マンガやアニメのような力なんて、この世には存在しない。
例えば仮に、俺があきづき達のような不思議な力があったとしても、それは誰かの手で作られたまがい物に過ぎない。それは生れ持ってして手にした才能じゃないんだ。
彼女たちはホムンクルスで人間じゃない。その違いははっきりとしている。
それに俺は普通の人間だ。すこし身体が特殊体質なだけで、実際に彼女たちのような力なんて持っていない。
とりあえず無駄な長考をしてしまったな。とりあえず平静を装って再び読みふけよう。
店員に怪しまれたら追い出されるかもしれないし、警察のお世話になるわけにはいかないからな。
「俺も……俺もあいつらみたいに力があればいいのになぁ……」
悲しいが俺はただの人間で何も出来やしない。このマンガに登場するジャスティスのような力があれば良いんだけどな……。
ふと、
「ねぇ、そこのお兄さん」
「あぁ? …………だれ?」
唐突に声をかけられて顔を右に振り向くと、二人組の女子高生が目の前で横に並んで立っていた。それも美少女が目の前で横に並んでいるときた。だが腰元のエクスカリチンが大きくなりそうでならなかった。
俺は読んでいるページが良いところだったのに、途中で話しかけられたのでムッとしている。
こんな時間にコンビニに立ち寄る女子高生なんて大半は不良と相場が決まっている。
警戒心を露わにしつつ、俺は手にしていたコミック雑誌をラックに戻して前を向く。
彼女達はどこか楽しそうにクスクスと笑いながら俺のことを見ている。
俺は左側に立つ金髪セミロングの巨乳ギャル風の恰好をした女子高校生に目をやる。
腰まで降りた髪は全体的にゆるふわなパーマがかけられており、前髪は黒のヘアピンでかき分けられている。身長は約168センチくらい。端正の整った顔立ちには化粧が施されている。シュッとした形のつり目には黒水晶の瞳が輝いている。アクセサリー類は金色の十字架のピアスとネックレスだけのようだ。それだけでも俺にとってインパクトがあった。
そして彼女の右の顎には古い縦状の切創痕があり、それを見て俺は完全にこいつは喧嘩慣れしたヤバい女に違いないと判断した。
とりあえずこいつは不良少女と呼ぶことにしよう。
もう片方の女子高生は俺好みの美少女だ。隣にいる奴とはまったくの正反対だな。清楚かつお金持ちのお嬢様のような風格があり、思わず俺は見とれてしまいそうになった。
髪は黒くミディアムショートヘアー。顔立ちは端正がとれており、流麗な細眉とシュッとした形のつり目には茶褐色(ドラバイト)の瞳が輝いている。目元にはアイシャドーが塗られており、鼻は形が整って高く、キュッと引き締まった口角の唇には桜色の口紅とリップが塗られており、彼女の魅惑的な出で立ちを更に美しく演出している。
「なっ、なんだ? ほほっ本でもととり取りたかったのか?」
彼女達に笑われていると何故か怒りが収まってしまい、逆に不安な気持ちと共に緊張感が増してくる。
コミュ障全開の俺はその場でまごついてしまう。
「ちょぉっと違うんだよねぇ」
「じゃっ、じゃあ。いいっ、一体……なんだっ?! おっ、俺に用があるとでも言いたいのか……?」
「ええそうね。じゃぁ……いっしょに楽しいことが出来る場所に遊びに行きましょうねぇ」
「え?」
「さぁ、怖がらないで。大丈夫。いまあなたの目の前にはナニも怖い物はないのよ?」
「う……うん。わかった……」
あれ、今俺の身に何が起きているんだ……?
時間と共に意識が虚ろになりつつあるぞ……?
それは耳元で囁かれた直後に起きた事だった。俺の意思とは無関係に言葉と共に身体が勝手に動いている。
そしていつの間にか俺は花畑の中を歩いおり、遠くには白いワンピース姿の女の人ががこちらを見てニコニコと立っていた。その姿にとても愛くるしくて懐かしい感情がこみ上げてくる。
どうして……? あれ、母さんなの……?
「か……あ……さん?」
「ふふっ、こっちよ……ほら……私に抱きついてきて……さぁ」
母さんが優しげな声で微笑みながら俺を抱きしめたいと望んでいる。
その言葉に抗うことなく俺は甘えたいという衝動が沸き起こり、そのままゆっくりと母さんの元へと歩み寄って胸元に顔を埋める。
そうすると母さんが俺の頭に腕を回してギュッ抱きしめてきてくれた。
「さぁ、そのまま眠ってね……うふふっ」
「うっ……うん……」
なんだろう……もうどうでも良い気がする。このまま俺は眠りにつくことにしよう。
そして俺は意識がストンと落ちて眠りに付いてしまった。
俺は久しぶりに安息感を覚えたような気がする。
――2時間後。
「…………んっ」
俺はどれくらいの時間を眠っていたのだろうか……?
俺はいったい何をしていたんだ……?
たしか……マンガの立ち読みをしていた最中に横から美少女に声をかけられて……。
そして目が覚めて気がつくと、何故か俺は見知らぬ場所の冷たい土の上で横になっている……。どういうことだよ!? 俺は心の中で戸惑いを隠せない。
「えっ、なんで……? こっ、ここは……どこだ?」
何が何だか全く思い出せない……! どうやって俺はコンビニからここまで来たのかがよく分からないし。俺の身に一体何が起きたんだよ……?
目を通して映し出されている景色は暗く、コンビニエンスストアの煌煌とした店内ではないのは確かだ。
俺の目は少し特殊で、完全な暗がりでもある程度は鮮明に周りを見ることができる。
殺風景かつ、一面が雑草で覆い茂る地面と水の流れる音が聞こえる。台形を逆さまにした地形で思い当たる限り、ここは河川敷だ。それも近所とかじゃない場所にある河川敷。遠くに見えるのは田園ばかりだ。もしかすると福知山の可能性が高い……!
さらに俺はありとあらゆる考えを脳裏に巡らせながら思案する。ふと、
「おっ、気がついたみたいだな」
「うわっ!?」
考えごとをしている最中に突然背後から声を掛けられて驚き、俺はその場で反射的に飛び跳ねてしまった。そしてバランスを崩してしまい足首をくじいてしまう。
「イデェッ!?」
膝から崩れ落ちる形で尻餅をつく。今度は打身と共に痛みが迸る。
そして足首の痛みとお尻の打身の痛みがあっと言う間に引いてしまった。
俺の身体は少し特殊な所がある為、軽い怪我程度なら直ぐに治ってしまうのだ。
とりあえず上半身を起こしてゆっくりと起こして立ち上がり、足首の痛みのある素振りをする。
ひとまずここは痛そうに演じないと怪しまれてしまい面倒な事になりかねない。
「ははっ、わりぃな」
「ぜはぁ……ぜはぁ……いってぇな……! だっ、誰だよ!?」
「つれねぇなぁ……さっきあんたが私たちと楽しいことをしたいって言ったからさ。ほらわざわざ人気の無いところにまで連れてきてやったんだぜ? なんだよ。なにか気に入らないことでもあったのか? はっ、まさか!? 公衆の面前でエッチなことするのが大好きな変態さんだったのかっ!? わっ、私はさすがに無理だからねっ!?」
「ちっ、違うっ!? おおっ、俺にそんな趣味は無い! てか、なんでそう言う話しになるんだよっ!? てかここは何処なんだよっ!?」
俺の背後に居たのはコンビニで出会った不良少女だった。思わず俺は彼女のぶっ飛んだ発言に突っ込みを入れてしまった。
――ガサゴソ。
「あら、ゆうだちどうしたの?」
不良少女の背後の草むらからゆらりと、黒い人影と共に聞き覚えのある女の声が聞こえてくる。
不良少女の隣に現れたのはついさっき会ったばかりのお嬢様だった。
「姉さん聞いてくれよ! こいつさ。こんな人気の寄りつかないところでやるよりも公衆の面前でやるほうが好みなんだってさ。どうする?」
「だっ、だから違う!」
また同じ事を! と思い、俺は会話に割り込む形で突っ込みを入れた。すると次の瞬間。
「うっせぇなっ!」
――バゴンッ!!
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ?!」
頬から全身にかけて伝わる体感のしたことのない激痛に対し、俺は甲高い悲鳴を上げなが力無く崩れ落ちてしまった。
頬の骨が砕けるほどの力で彼女は力強いパンチをしてきたのだ。
俺は必死に地面で転び周りながら痛みを堪える。だが、砕けた感触があった事もあり、ジンジンと痛みが引っ切り無しに続いてきている。
「あらあら痛そうねふふっ」
妖艶かつ嗜虐的な嘲笑の声でお嬢様が楽しげに俺をあざ笑ってきている。
「うっせぇな! ぎゃぁぎゃぁ騒ぐんじゃねぇよモヤシ。お前が余計な口を挟まなければ痛い思いせずにすんだんだよあぁ?」
苛立ちマックスに不良少女がドスの利いた声で俺を怒鳴りつけてくる。
彼女の声音に恐怖で俺の身体の震えが収まりそうにない。
ふと突然。
「あっ……がはっ!?」
身体が原型を戻そうと高速で再生治癒を始めたようだ。このままでは危険だと感じたのだろう。
普段のかすり傷程度ではこんな事にはならない。相手のパンチは相当な物なのは明白だ。致命傷レベルの物なのは間違いない。普通の人間なら即死だったにちがいないだろう……。そして治癒が始まった直後に俺は。
「うぅぉおぇえっ!?」
「あらら、お兄さん吐いちゃったの? 大丈夫? しかも血の塊が出てきたみたいね。ゆうだち。すこしは手加減をしてあげないと、これからもっと気持ちいい事をしてあげる事になるのに。このままじゃ彼。直ぐにバテてしまうわよ?」
俺は大量の血液を地面に吐いてしまった。
「うっせ。そんなんで潰れて壊れるくらいならどうでもいい。これまで何度もヤッてきた奴らとなんら代わりはないだけに過ぎないさ」
お嬢様の名前はあさぎりっていうのか……。不良少女の名前はゆうだちと言うらしい。
とりあえず俺を含めて他にも被害者はいるようだ。男を殴り殺す趣味とはいいものじゃない。
「あら、あなたの強烈な回し蹴りを受けたのに立ち上がれるみたいね」
「へぇ、見た目がひょろい割にはけっこう根性あるじゃん」
「パンチじゃなくて回し蹴りだったのか。そんな風な感じの痛みじゃなかったぜ……?」
今俺は最高に頭にキている。怒りによって不思議な事にコミュ障が抑えられ、俺は饒舌に話すことが出来ている。
「お前の頭を砕くつもりで回し蹴りを入れたんだけどなぁ……なんでピンピンしてるわけ? それにパンチとかふざけた事言うんじゃねぇよもやしが」
「ふん、人よりしぶとい。ただそれだけだ」
「やせ我慢ね」
「あぁ、間違いない」
どうやら彼女達は俺の特異体質には気づいていないようだ。なら話は合わせやすい。
「それにしても……普通の女子高校生が出すような蹴りじゃなかったぞ……」
少し演技を入れてみる。小さくハァハァと息をしながら、俺は相手が何者なのか探りを入れてみることに。そのついでに俺はここから逃げ出す準備を整える。
理由は簡単だ。純粋に逃げたいからだ。
俺は相手に気付かれないように右足を動かす。すると、
「ふふっ、駄目よお兄さん。あなた。いま逃げようとか考えて足を露骨に広げるだなんて。イケナイ子だこと」
「なっ、なんで解るんだよ!?」
俺が次に取ろうとした行動が直ぐにバレてしまった。何故だっ!?
「ふふっ、図星のようね。とても可愛いわぁ……そういう男達の絶望した表情(かお)を見る度に何度も私濡れてしまうのよ……はぁ……」
あさぎりは頬を上気させて甘い吐息を吐く。見間違いなのか彼女の身に纏っている制服が水で濡れた感じに透けて下着が見えているような気がする……。
「おいおい姉さん勘弁してくれよぉ。そんな事で果ててしまったら勿体ないぞ」
呆れたと言わんばかりに、ゆうだちが両手を肩まで上げて首を振っている。
彼女達のやりとりを見て俺は思わず。
「ヤバい、こいつらからガチで危険な臭いがプンプンするぞ……っ!?」
本能的直感で危険を感じていた。
「なっなぁ。俺の姿がみっ、見えているのか?」
「はっ? あったりめぇだろ。さっきからお前とやりとりしているんだからそれくらい解る話だろ? 俺様達はえと、改造人間だっけ? よく分からないけど、なかなかダンディーなおじ様が俺様達に凄いことしてくれたんだよ。要するにお前の事を綺麗に見ているぜ。まっお前の顔はぶっさいくだけどな。相手してやるだけありがたく思えよ?」
「えっ」
不細工と呼ばれて俺の頭が真っ白になる。
「ふふっ、そうよ。見た目は普通の人間だけど。こう見えて中身は改造手術が施されたとてもこわーい改造人間なのよ。うふふっ」
「かっ、改造人間って、まるでジャスティスに出てくる悪の組織みたいだなっ!?」
「なんかこいつ意味分かんねぇこと言ってるぜ?」
「ふふっ、ひどく混乱して思考が追いついていないのよきっと。すぐに気持ちの良い事をしてあげれば昇天して何も言わなくなるわよ。うふふっ」
昇天という言葉にいろんな意味がありすぎて色々とやばみが深い(ダークネス)。
「へへっ、そうだな。じゃあ、さっそくやるとしますか。お仕事♪ お仕事♪」
「ええ、そうね。楽しみだわぁ……。ねぇ、あなたはどんな顔を見せてくれるのかしら?」
「いや知るかよっ!?」
そんなのエッッッッッッな展開なんてあるわけ無い事くらい俺にも解るわ!
俺は焦りを抱きながらも、彼女たちが歩き始めるのと同時に後ずさりをする。
左にはあさぎりが立ち、右にはゆうだちが共に並んで共にゆったりと歩いている。
「まっ、一生に一度限りの素敵な思い出になるからお前には特別に教えてやるよ」
そう言ってゆうだちは右手の拳と左手のひらを使い、胸の前で打ち鳴らす仕草をして。
「お前。いまから俺様達に殺されるんだよ」
彼女の目はもう死んでいた。
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