2章:出来損ないヒーローの新たな出会いとシスターズ
第1話:新たな妹襲来!
―1―
一体、俺はこれからをどう生きれば良いのだろうか?
浴室に隣接する脱衣所にて全裸のまま、俺は濡れている髪をバスタオルで両手をあてがいながらグシグシと、乱雑に水分を拭い取って思いふけている。
髪の水分を拭き取り、俺はその場で頭にバスタオルを被せたままボーッと、目の前にある洗面台の鏡を見つめ続ける。
「……俺は何を考えているんだよ」
今日の出来事を振り返るとあまりにも多くの出来事があった。
はじめに運営から謎のBAN処分を受けてしまったという事件。この事件にはサードアイと呼ばれる国際ハッカー組織が、GMコーポレーションにサイバー攻撃を仕掛けたことが関係している。
ネットの情報によると、サードアイは日本に活動拠点を置いており、主にリベラル的なテロ犯罪をメインに活動している事で有名のようだ。
まぁ、俺の生活に支障をきたさない所で勝手にしていろと思う。
次に部屋を出ようとした瞬間にふゆづきとひょんな出会いを得て、兄妹関係が発覚した事件だ。
その過程の最中で、俺の左手首には使用用途不明のデバイスが着いてしまった。
今後、この呪われたデバイスの外し方を調べないといけない。得体の知れない物をずっとつけているわけにはいかないからな。外した瞬間に感電死とか笑えねぇわ。
例え、俺はふゆづきに止められてもこれを着けていたいとは思わない。
「ふぅ……」
これ以上は気疲れてしまう。考えるのを止めることにしようと俺は思った。
いまはゆっくりと身体を休めなければ。
「それにしても、まさかあの子が本当に俺の妹だったなんてな……」
さっき俺は年の離れた妹と裸の付き合いをした。
誰かに背中を流してもらうなんていつぶりだろうか。
彼女の過剰なお風呂でのスキンシップに関しては、正直俺の中では度が過ぎている所もあると思っている。
だが、どうしてなのか俺にも解らないが、彼女とふれあう事に対して不快に感じなかった。
「母さん……」
どことなくふゆづきの面影が、俺の母さんに似ていたから不快に感じなかったんだと思う。
彼女は俺を兄だと心の底から信じきっているようだ。
逆に俺は一緒に過ごして間もないし、未だに俺がふゆづきのお兄ちゃんていう話を半分信じ切れていない。
「俺が兄なんていう柄じゃないよ……」
バスタオルを片手に取って洗濯籠へと投げ込んだ。
俺は近くにある白の壁掛け棚から下着と紺のジャージーを手に取る。
着替えを済ませてから、俺はそのまま廊下へと出た。
複雑な思いを抱えてはいるが、とりあえずひとつ大きな深呼吸をついて気持ちを切り替えることにしよう。
「さてと、これからどうすっかな……」
特にやることなんて何もない。ふゆづきと何かをするにしても、彼女は今のところ鼻歌交じりにお風呂遊びに夢中になっているだろう。
いま一瞬だけ彼女のお風呂遊びをしている姿を想像してしまった。
「うん、とりあえずベッドに潜り込んで寝よう」
と、そう思った矢先――
――ピーンポーン。
「ん?」
俺はリビングからインターホンのチャイムが鳴り響いたのを耳にする。
「誰だ? こんな夜遅くに……」
誰かがやってきたようだ。大家のおやっさんだろうか? 家賃の滞納はしてないんだけどなぁと俺は思った。
「なんだよ……せっかく人が気持ちよく風呂から上がったからそのままベッドに寝転がりたかったのに……」
――ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン。
「はいはい。いまいきまーす……たく……めんどくせぇ」
チャイムが引っ切り無しに鳴り続けている。俺は小走りに玄関に向かい、
「誰だよしつこいぞ!!」
玄関の扉を勢いよく開けて怒鳴りつけた。
「こんばんは。夜分遅くに大変申し訳ございません」
「……誰だ?」
扉を開けると、そこに立っていたのは黒髪に黒スーツ姿の眼帯美少女だった。
「私(わたくし)。あきづき型ホムンクルスDD115。あきづきと申します。初めまして。乾沢一お兄様。この度は、お兄様とこうしてお会いできたこと。心からお喜び申し上げます! 会いたかったです。お兄様!」
俺は思わず目と口を大きく開けて驚いてしまう。
「おっ、お兄様ッ!?」
「はい! そうですよお兄様。私の名前は乾沢あきづきです」
「……い、妹がもう1人いただと?」
「お兄様が驚くのも無理はありません。私を含め。ホムンクルスについての情報については厳重に秘匿されてきておりましたので致し方ない事なのです。あっ、ちなみにホムンクルスというのは人造人間の事ですよ。私は人の科学の力によって。つまり。お父様の手で私は人工的に生み出された人造人間です」
物腰の柔らかな柔和な笑みを浮かべ、俺に首を傾げてくるあきづきと名乗る少女。
俺は何も言わずただその姿を見つめ続ける。
端正のとれたスラッとした顔立ち。彼女が左目につけている黒の眼帯には白猫のシルエットが描かれている。
肌は白く透き通るようにして美しく、目は青々としたサファイアブルーの輝きを煌びかせている。瞼は奥二重で眉は少し太い。おでこはふゆづきと似てすこし小さい。唇にはグロスが塗られているようだ。
あきづきと名乗った少女の頭と背中からは耳や尻尾は見当たらない。
その代わりなのか、彼女の両方の耳朶には三毛猫の小さなストラップピアスが着いており、黒のスーツ姿とよくマッチしている。
「ちなみにお兄様。先ほど、妹がもうひとりいたとお聞きしたのですが……どういうことでしょうか?」
「あいやそのっ、つい動揺のあまりおかしな事を言ってしまっただけだ。すまん」
「そうですか。ならそういう事にしておきましょう」
なにやら含みのある言い方をしてきたな。彼女の浮かべている笑みから、俺は何か得たいのしれないモノがにじみ出しているような気がしたなと思った。
まぁ、ただの気のせいだろう。とりあえず。
「その、家にあがるか?」
「よろしいのですか? そのお姿を見る限り。いまからお休みになられようとしていたのではないかと思うのですが…………」
「いや、俺は構わないさ。どうせいつもの服装だからな」
「では、お言葉に甘えて失礼させて頂きますね」
「おう、せまい家で悪いな」
「お気遣い構いません。私と妹が住んでいるアジトより、お兄様のほうが断然広いと思います」
皮肉で言葉を返されたような気がしたがスルーだ。
「とりあえずどうぞ」
「お邪魔します」
彼女がパンプスを脱ぐのを見計らい、俺はそのままリビングルームへ向かうことにした。
ふと目の前の廊下から突如。
「おにぃちゃん! お風呂上がったよぉ! ほぇ? なにしてるの? あたらしい遊び?」
通路の奥からひょっこりとふゆづきが飛び出してきた。それも生まれたままの姿で。
「ちょ、おまっなんでハダカなんだよっ!?」
「ぶーっ、だってお着替えがなかったんだもん」
「あっ、うっかりしてた……」
「お兄ちゃんのドジっ子さん! プンスカ!」
ムスッとした表情のまま腰に両手を当てて、ふゆづきはありとあらゆる箇所を隠すこともなく、平然と仁王立ちに立ち尽くしている。俺は思わず頭をうなだれてしまった。
だが、それもつかの間の出来事で、彼女は俺の背後にいる人にピンと気づいたようだ。
「……あっ」
「ここに居たのねふゆづき。心配していたのよ?」
「うぅ……あきづきお姉ちゃん……どうしてここにいるの?」
「それはもちろんあなたを探していたからよ」
「お兄ちゃん……」
「うん。まず、その恰好で俺に上目遣いでこっちを見てくるな。とりあえず服を着ろ」
「むぅ!」
ふゆづきが頬をぷっくり膨らませて怒った表情を浮かべる。お前の露わな姿に対して、俺が目のやり場に困っているという事に気づいてくれないかと思っている。
「ふゆづき。とりあえずリビングのソファーで座って待っていろ。あと後ろのお姉さんの案内と相手をしておけよ」
「……わかった。お兄ちゃんの言うとおりにする」
俺は彼女の耳と尻尾がシュンと垂れ下がるのを目の当りにする。
「うん、じゃあよろしくな。えと、あきづきさんでいいかな?」
「はい」
「とりあえず。この子がリビングに案内するからついて行ってください」
「はい、分かりましたお兄様。あと、もう敬語じゃなくてもいいんですよ。私たちは兄妹の関係なのですから」
「そっ、そうだな……」
あきづきのニッコリと返してくる笑顔に母さんの面影が見え隠れしている。
彼女は軽い会釈と共にその場を後にしていった。
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