7-8 幕引き、そしてそれぞれの再スタート
「鳴海さん・・・朱莉さん・・。今まで本当にすみませんでした。」
突然京極は立ち上がると全員に頭を下げてきた。
「京極さん、それは・・今まで鳴海にしてきた罪を全て認めるって事ですね?」
二階堂が前に進み出て言った。
「ええ・・・そうです。今まで鳴海さんに送り付けたメールも・・二階堂社長宛に送った書類も・・・そして・・安西航さんを朱莉さんの前に呼びつけたのも・・全て私が仕組んだことです。」
京極は言うと、深々と頭を下げてきた。
「な・・何故だっ?!何故・・・俺達をそこまで追い込んだっ?!朱莉さんを・・・怖がらせた?!姫宮さんが負傷したのも・・お前が絡んでいるのかっ?!」
いつの間にか翔は京極の胸倉を掴んでいた。
「翔さん、落ち着いて下さいっ!ここは病院ですよっ?!」
朱莉は驚いて翔を止めた。
「あ、ああ・・・す、すまなかった。つい・・・。」
翔は京極から離れると、真っすぐ京極を見つめた。
「京極さん。何故貴方がここまでの事をしてきたのか・・・我々には知る権利がある。姫宮さんから大筋は聞いていますが・・・・我々は直に貴方の口から真実を聞きたい。話してくれますね?」
二階堂の言葉に京極は頷き・・・何故このような行動に出たのかを淡々と語った。
父親のアトリエが鳴海グループによって潰されたこと・・・そして朱莉の両親の会社が倒産した原因を作ったのが鳴海グループだった事・・それら全てを語った。
それは姫宮が語った事と寸分変わらぬものだった。
二階堂と翔は事前に姫宮から話を聞いていたが朱莉にとっては全てが初耳で、衝撃を受けるものだった。
「京極さん・・・私の事・・・知っていたんですね・・。あの出会いは・・偶然じゃなかったんですね・・?」
朱莉は目を覚ました蓮の背中を撫でながら静かに尋ねた。
「ええ・・そうですよ。朱莉さん。僕は・・・何としても・・貴女を鳴海さんから解放してあげたかったんです。お金の為に・・お母さんを助ける為に契約結婚を選んだ貴女を救いたかった・・・。」
「・・・。」
京極の話を翔は忌々し気に聞いている。
「京極さん・・・。」
「朱莉さん、信じては貰えないかもしれませんが・・・僕は本当に貴女の事が好きでした。僕は・・貴女の傍にいられる鳴海さんに、九条さんに、そして・・・航くんに嫉妬していたんです。」
「!」
朱莉は驚いて顔を上げた。その時、手術中の電気が切れて医者と看護師が手術室から現れた。
「先生っ!静香は・・・妹は無事ですかっ?!」
すると医者が言った。
「ええ・・・。大丈夫です。傷は思ったよりは深かったですが、発見が早かったのが幸いしました。今は麻酔で眠っていますが、明日には目を覚ますでしょう。」
するとそれを聞いた京極の目から涙が落ちた。
「せ・・先生・・ありがとう・・ございます・・っ!」
京極は頭を下げた。
「良かった・・姫宮さん・・・。」
朱莉は安堵のため息をついた。
「姫宮さん・・・無事で良かった・・。」
翔も顔に笑みをうかべた。そして二階堂だけが神妙な顔で手術室を見つめている。
やがてストレッチャーに乗せられた姫宮が手術室から出てきた。
「静香っ!」
京極はストレッチャーに乗せられている姫宮に声を掛けたが、当然返事は無い。
「患者さんを病室に運ばなければなりませんので下がって下さい。」
看護師に指摘され、京極は下がった。そして朱莉たちは姫宮が病室に運ばれていく姿を見守った。
「さて、京極さん。これからどうするんです?姫宮さんに付き添いますか?」
二階堂が尋ねると京極は言った。
「いえ・・・僕にはその資格はありません。僕のせいで静香を傷つけてしまった。兄として失格です。もう・・顔を合わす事なんて出来ません。・・帰ります。」
「京極さん・・ですが・・・。」
朱莉が言いかけると二階堂が言った。
「俺が姫宮さんに付き添いするよ。」
「「え?!」」
朱莉と翔は驚いて二階堂を見た。京極は苦笑すると言った。
「静香を・・・お願いします。僕はこれから警察に行きますよ。飯塚さんを説得しなければなりませんし・・。さようなら、皆さん。」
京極はそれだけ告げると長い廊下を歩き去って行った。その後ろ姿をじっと見届けながら二階堂が言った。
「終わったな。これで全て・・・。」
「ええ、そうですね。」
「もう京極はお前や朱莉さんを脅迫する事は無いだろう。九条もな・・・。航と言う名前は知らないが・・。」
そしてチラリと朱莉を見た。
「あ・・・。」
朱莉は二階堂と翔に見つめられて視線を逸らせた。
「朱莉さん・・・航って誰だい?」
「あ、あの・・・航くんって人は・・・。」
朱莉が言いよどむと二階堂が間に入って来た。
「まあまあ。もう済んだ話だからいいじゃないか。ほら、2人はもう帰れよ。子供連れなんだから。」
「先輩・・・。わ、分かりましたよ。朱莉さん、それじゃ・・・帰ろうか?」
「はい、そうですね。」
そして2人は二階堂に何度も頭を下げると帰って行った。
「・・・。」
1人残された二階堂はナースステーションで姫宮が運ばれた部屋を聞きだし、付き添いをさせて欲しいと願い出た。
「申し訳ございませんが、身内の方以外の面会は出来かねます。」
すると二階堂は言った。
「それなら心配無用です。僕は彼女の婚約者ですから。」
そこでようやく看護師は納得し、二階堂に姫宮が入院した個室を教えた。
二階堂は礼を述べ、すぐに病室へと向かった。
「入るよ。姫宮さん。」
二階堂は姫宮が眠っているのは知っていたが、ノックをするとドアを開けた。
ベッドには寝かされて、点滴を打っている姫宮の姿がある。二階堂は椅子をベッド脇に寄せると、そっと姫宮の右手を握り、静かに語りだした。
「姫宮さん・・・。君が刺されたと連絡を貰った時・・・俺がどれ程驚いたか君には分かるか?本当に・・今でも思い出すと心臓が苦しくなってくる。君は頭が良くて切れ者だし、そして美人だ。・・・どうやら俺は・・君に恋してしまったようだよ。」
そして二階堂は優しい笑みを浮かべると、姫宮の手の甲にキスをした―。
帰りの車の中で翔は朱莉に声を掛けた。
「朱莉さん、引っ越しの件だけど・・・どうする?」
すると朱莉は少し考えると言った。
「そうですね・・今住んでる部屋は・・正直に言うと私にとっては贅沢で・・それに折角姫宮さんが探してくれたんです。引っ越したいと思います。」
「うん。そうだな・・・実は俺も同じ事を考えていたんだ。良かった・・朱莉さんも同じ考えで。」
翔は朱莉を見て笑みを浮かべた。
「そうですね。新しく引っ越して・・私と翔さんの・・再スタートですね。」
「再スタートか・・・うん、いい言葉だね。俺達の再スタートだ。」
すると朱莉は言った。
「多分、再スタートは・・・私と翔さんだけではないと思いますよ?」
「え・・?どういう事だい?」
「多分・・・ですけど、二階堂さんや姫宮さんにも言える事だと思います。姫宮さん・・・きっと幸せになれると思います。」
「え・・?」
朱莉が嬉しそうに話す横顔を翔はチラリと見つめた。
(一体どういう事なのだろう・・・?)
そして翌日・・・姫宮の事件は新聞の片隅でのみ小さく報道され、主犯格は無し、飯塚の身が罪に問われる事になった。
それは他のマスコミ各社が京極を恐れての事だったのだが、責任を感じた京極は会社の社長の座を退き、後日二階堂の会社に吸収される事になるのだった―。
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