6-17 姫宮の告白

「ちょ、ちょっと待ってくれないか・・・?何故急に会社を辞めるって言い出すんだい?理由を教えてくれ。ひょっとして・・・本当に姫宮さん・・・京極とつながりがあったのか?君は今までずっと・・この会社を・・そして会長や俺・・・朱莉さんの事迄騙していたのか・・?」


翔は信じられない気持ちで姫宮を見た。


「それは・・・。」


姫宮が言いかけた時、二階堂が口を挟んできた。


「まあ、落ち着けよ。翔。そんなに矢継ぎ早に質問をしても姫宮さんが話しにくくなるだけだ。」


それを聞いた翔はカチンとなり、相手が二階堂にも関わらず言い返した。


「先輩は口を挟まないで下さいっ!これは・・俺と会社と・・姫宮さんの話なんですから部外者は静かにして頂けませんか?!」


「まあ・・・確かに俺には関係無い話かもしれないけどな・・。」


二階堂は肩をすくめた。そんな2人のやり取を見ていた姫宮は翔を見ると言った。


「副社長・・・こうなったからには私はもう隠し事は致しません。何もかも・・全てお話し致します。まず・・私と京極との関係ですが、私は京極正人とは双子の兄妹になります。苗字が違うのは私が5歳の時に姫宮家に養女に出されたからです。」


「え・・・?な・・何だって・・?」


翔はあまりの話に目がくらみそうになった。だが・・・言われてみれば確かに雰囲気が似ている。だが、まさか血の繋がった双子の兄妹だったとは思いもしなかった。


「ま、まさか・・君がこの会社に就職したのも・・・初めから京極とグルになっていたからだったのか・・・?」


翔は声を震わせながら尋ねた。


「・・・はい。そうです。」


少しの間を開け、姫宮は返事をした。


「何が狙いだったんだ?君は・・君と京極は産業スパイだったのか?」


翔は左手で頭を押さえながら言った。


「産業スパイではありません。」


「だったら、何なんだよっ!」


「鳴海、落ち着け。」


二階堂は語気を強めた翔を宥めるように言った。


「落ちつけ・・・?これが落ち着いていられますか?今迄あった不可解な出来事・・・君と京極の仕業だろう?」


翔は姫宮を指さした。


「・・・そうです。謝罪して済む事とは思っておりませんが・・・本当に申し訳ございませんでした。」


姫宮は頭を下げた。


「産業スパイで無ければ・・・一体目的は何だったんだ?」


ため息をついた翔に姫宮は静かに言った。


「はい。それを今から・・・全て語ります。」


そして姫宮は今迄の事を全て話した。

5歳の時に画家だった父が亡くなり、弟子たちによって名義が書き換えられてしまっていた父の残した画廊を鳴海グループの息がかかったゼネコン業者が土地開発事業をする為に買い取ってしまい、画廊が潰されてしまった事。

京極が高校時代にお世話になった朱莉の両親の経営していた外食産業チェーン店が鳴海グループの傘下の企業が朱莉の父が病に倒れたと同時に実質経営権を奪ってしまった事。

さらに経営が右肩下がりになってしまった時に全ての負債を朱莉の父に押し付け、須藤家の経営していた企業は社長が亡くなったと同時に倒産し、朱莉と朱莉の母は路頭に迷う事になってしまった事・・。

それら全てを余すことなく姫宮は語った。


姫宮の語った話は翔にとってあまりにも衝撃的な話だった。まして朱莉までもが絡んでいる話だとは想像もつかなかった。だが鳴海グループ総合者は世界に名だたる大企業である。そんな末端の出来事迄全てをコントロールする事も把握する事も不可能だ。だから翔は言った。


「た、確かに・・・・姫宮さんと京極・・それに朱莉さんの話は全て鳴海グループに関係ある話だとは思うけど・・・君達は逆恨みだとは思わないのか?俺達トップにいる人間達が・・そんな末端部分の事迄把握できるはず無いだろう?そこまで来るともはや言いがかりとしか思えないレベルだ。」


「ええ・・・・確かにおっしる通りだとは思いますが・・・。」


「だったら、何故こんな事をしたんだっ?!」


再び翔が声を荒げると二階堂が再び口を挟んできた。


「恐らく・・京極は誰かを恨まなければ生きてこれなかったんだろう?そして朱莉さんに執着したのも自分と同様、鳴海グループの被害者の1人だと思って・・親近感が湧いて異様なほど執着してしまったんじゃないか?本人はその執着心を恋愛感情と勘違いしているかもしれないけどな?」


「そうかもしれません。私は・・自分1人が裕福な姫宮家に引き取られてしまった負い目があります。そして姫宮家の会社が聞きに追い散った時にピンチを救ってくれた京極の・・言いなりにならざるを得ませんでした。それに・・この世でたった1人きりの兄ですから・・。」


姫宮は俯くと言った。


「だが・・・君は俺達の情報を京極に流していたのは紛れもない事実だ。共犯者だろう?よくも平気で今迄俺達を騙して来れたな?どうせ・・・新しいマンション探しを自分から申し出て来たのも・・・京極に行き先を告げる為だろう?」


吐き捨てるように言うと、姫宮は強く否定した。


「いいえ!信じて貰えないかもしれませんが・・・それは違いますっ!私は・・朱莉さんを京極の手から守りたかったから・・・・自分から不動産物件探しを希望したのですっ!」


「え・・?それは一体どういう事なんだ・・・?」


「正人は・・・私の預かり知らぬところで・・・あの億ションに隠しカメラを取り付けてありました。」


「何っ?!そ、それは・・・本当の話か?!」


「はい、それを見つけてくれたのが・・・二階堂社長です。」


「え・・?」


翔は二階堂を見た。すると二階堂はポケットから押収した小型カメラを取り出した。


「ほら、これだよ。安心しろ、もう電源は切ってあるさ。」


「え・・?い、一体何処にこれが・・。」


翔は背筋をゾッとさせながら言った。


「これは億ションのエントランスに置いてある観葉植物に取り付けてあったのさ。しかもその観葉植物を買って、コンシェルジュに頼んだ人物がいた。是非、飾って欲しいと。それが京極だったのさ。鉢植えにはバーコードが付いていて調べて貰ったら買った人物が割り出された。その人物は京極だったよ。まあ調べるまでも無く分かっていたけどな。だが、これは立派な証拠になる。京極は多分内心焦っている事だと思うぞ?何せ俺がこの監視カメラを持っている事はあいつは承知しているはずだからな。」


「先輩・・・。」


翔は二階堂の手腕に唯々驚かされていた。学生の頃から二階堂はとても優秀な男で学生達から一目置かれていた。


(やはり先輩には敵わないな・・・。)


翔は苦笑した。


「私は監視カメラの事を二階堂社長から聞かされ、本当に驚きました。もともと私が不動産物件を探すのを名乗り出たのも、京極に情報が洩れる事を防ぐ為でした。私は京極の行動をある程度は把握しております。なので京極の目を盗んで引っ越しをして頂くには私が間に入った方が良いと考えたからです。監視カメラが1台見つかりましたが・・京極の事です。何処にまだ隠してあるか分かりません。なのでお二方が引っ越しをする際は、何か適当に話を作ってその日は京極にあの部屋を不在にしておいてもあろうかと考えておりました。」


姫宮の話に翔は尋ねた。


「しかし・・・いいのか?そんな・・京極を裏切るような真似をして・・・。」


「知られればただではすまないかもしれませんが・・・ただ最近の京極は段々行動がエスカレートしてきて目に余るようになってきました。あれ程大切に思っていた朱莉さんからも怖がられるようになって・・。もうこれ以上付いて行けないと思いました。そろそろ潮時だろうと考えていた頃に二階堂社長が現れて・・・京極との関係を見抜かれてしまい、全て告白しようと思ったのです。」


姫宮の目は真剣で・・・とても嘘をついている様にはみえなかった―。







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