6-18 3人の話合い

 姫宮の話を聞いて、少しの間その場に沈黙が流れた。そして翔は言った。


「それで・・姫宮さんは本当にこの会社を辞めるつもりなのかい?」


「はい、ここまでの事をしてきてしまったんです・・それに副社長にも全てを話した今、これ以上会社に居続けるような真似は出来ません。」


「やめた後は・・・どうするんだ?」


二階堂が尋ねた。


「そうですね・・。幸い蓄えはありますし、焦らず仕事を探そうかと思っています。」


それを聞いた翔は言った。


「仕事の事もだが・・・京極の事はどうするんだ?大丈夫なのか?」


すると曖昧な笑みを浮かべながら姫宮は言った。


「さあ・・・どうでしょうか・・。でも私は何とか京極を止めたいと考えています。こんな事は間違えていますから。」


「ああ、確かにな。京極の今まで鳴海にしてきた事は犯罪スレスレだ。朱莉さんの事についても怖がらせているし、これはもうストーカーとして訴えてもいいレベルだ。これ以上行動がエスカレートしない内に何とか止めないとな。」

二階堂の言葉に姫宮は驚いて顔を上げた。


「先輩・・・姫宮さんを前にいくら何でも言い過ぎなのでは・・・。」


翔はあまりにもあけすけな二階堂の言い方を止めようとした。


「何言ってるんだ?俺は事実を述べているだけだ。しかし、今一番心配なのは姫宮さんだな。何せ今までの事を全て俺達に話し、尚且つ鳴海の秘書をやめ、さらに会社までやめるとなると、京極に取っては痛手だ。ああいうタイプは逆上したら何をしでかすか分からないからな。」


「・・・。」


姫宮は俯いてしまった。


「先輩、いい加減にして下さいっ!」


「何言ってるんだ、翔。俺は本当に姫宮さんの身を心配してるんだ。だから、まずは今後どうすればいいか俺なりに考えてみたんだ。聞いてくれるか?」


「そうですね。何か妙案があるのでしたら教えて頂けますか?」


姫宮は二階堂を見た。


「では先輩の考えをお聞かせ下さい。」


「ああ、まずは・・・お前と朱莉さんが無事に引っ越しを終えるまでは姫宮さんには何喰わぬ顔で出社してもらう。京極に怪しまれないようにふるまう必要があるからな。ところで姫宮さん。引っ越しの日は京極にあの億ションにはいないようにさせると言っていたが・・・具体的にはどうするつもりだったんだ?」


二階堂は姫宮に尋ねた。


「ええ・・実は来月は父の命日にあたるんです。なので一緒にお墓参りに行かないか誘ってみるつもりです。」


「そうか・・・もうすぐ命日だったのか・・・。」


翔はポツリと言った。


「お墓は何処にあるんだい?」


二階堂は質問した。


「山梨県です。父は山梨県の出身だったのです。」


「山梨県なら・・・確かに時間稼ぎにはなるな・・・。」


翔は少し考えるように言った。


「成程・・流石は芸術家だっただけの事はあるな・・・。」


二階堂の納得したかのような言葉に翔は訳が分からずに質問した。


「先輩、何故芸術家と山梨県が関係あるのですか?」


「何だ鳴海。お前・・・知らなかったのか?山梨県と言えば日本で1番美術館が多い県なんだぞ?ちなみに2番目に多い県は長野県だ。」


「長野・・・。」


「長野県・・・。」


すると二階堂の言葉に鳴海と姫宮が反応した。


「何だ?2人供・・・長野県がどうかしたのか?」


「いえ・・・実は今明日香は長野県で・・・男と一緒に暮らしているんです。恐らく相手の男は長野県にあるホテル・ハイネスト総支配人です・・・。」


翔は神妙な面持ちで言う。一方の姫宮は顔を青くさせながら言った。


「申し訳ございません!実はまだお話ししていなかった事を思い出しました。それは明日香さんの事についてです!」


「え・・・?明日香の事について・・?」


「はい。私は以前副社長が明日香さんに会いに行く話を京極に伝えました。そして2人で一緒に長野へ行ったのです。その後京極はホテル・ハイネストで明日香さんを見張っていました。私は長野へ一緒に行ったものの、京極にホテルでゆっくり休んでいるように言われたので、ずっと滞在先のホテルにいました。そして京極は明日香さんと白鳥誠也の監視をしていて・・・。」


そこで姫宮は言葉を切った。


「どうしたんだ?姫宮さん。続きを聞かせてくれ。」


翔が切羽詰まったように言う。


「わ・・分かりました・・驚かれるかもしれませんが・・私のスマホに京極からメッセージが届いたんです。面白い映像が撮れたと言って画像と一緒に・・・。それは明日香さんとホテル・ハイネストの総支配人である白鳥誠也が・・・抱き合ってキスをしている画像でした・・・。」


「な・・なんだってっ?!」


翔は思わず大声をあげてしまった。


「へえ・・・。」


一方の二階堂は腕組みをして不敵な笑みを浮かべると言った。


「つまり・・京極はその画像を今も持っているって事なのか・・。京極は当然翔と明日香が恋仲だった事は知っていたんだろう?」


「ええ。そうです。」


「明日香・・・お前・・・何て軽率な・・・。」


翔は小さく呟いたが、思い直した。


(いや・・俺も人の事は言えないか・・・。明日香の事しか目に無かったのに・・明日香がいなくなってからは朱莉さんに気持ちが向いて・・あれ程朱莉さんには散々酷い態度ばかり取って来たのに・・。)


「姫宮さんに裏切られた京極が逆上して何をしでかすか分からないからな。京極には色々弱みを握られているし・・・。今の所俺達が持っている京極の弱みは隠しカメラの件だけだが、それでも無いよりはましだろう・・・姫宮さん。何か他に京極を大人しくさせる弱みは握っていないかい?」


二階堂は姫宮を見た。


「弱み・・・ですか・・。」


姫宮は暫く感が混んでいたがため息をつきながら言った。


「京極は今迄に何度か翔さんにメールを送っています。その証拠を掴むことが出来ればいいのですが、調べるのは無理だと思います。京極はPCや電気回路等について人並み以上の知識を持っています。自宅には何台ものPCが置かれ、常に稼働しています。なのでメールの送信について証拠を掴む事は恐らく不可能でしょう。」


「そうか。やはりあれらのメールは全て京極の仕業だったんだな?あのバレンタインの時の画像も・・・。」


翔は悔しそうに歯ぎしりしながら言う。


「・・・・。」


姫宮は俯いたまま静かにしている。


「まあ、過ぎてしまった事は仕方が無い。幸いあのメールはお前にしか届いていないようだし・・京極も大袈裟に動き過ぎるのは危険だと考えているかもしれないじゃないか。その気になればスキャンダルをぶちまける為にマスコミにばらまく事だって可能なのに一度もそんな真似をした事が無いからな。だが・・まだ油断はできない。兎に角今はお前と朱莉さんを京極の側から引き離さなくちゃならない。その為には絶対に京極に引っ越す事がバレないようにしないとな。まだこのカメラ以外の何処かに盗聴器やら監視カメラを仕掛けているか分からないから、最新の注意を払って生活を続けていかないと・・・。」


二階堂の言葉に翔は顔色を変えた。


「そう言えば・・京極は・・朱莉さんの部屋番号を知っている・・・。まさか朱莉さんの部屋に盗聴器や監視カメラを仕掛けたりはしていないだろうか・・・?しかも同じ階の部屋に入って行ったのを見た事がある。」


その話に姫宮は驚いた。


「え・・・?!そんな・・京極の住んでいる部屋は最上階の40階ですよ?朱莉さんの住んでいる階ではありません。まさか・・そこにも部屋を借りているって事ですか・・・?」


二階堂と翔は顔を見合わせた。


「どうやら・・・京極は姫宮さんには秘密にしている事がまだまだ沢山ありそうだな・・・。」


二階堂はポツリと言った―。




















































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