6-16 姫宮の頼み
翔は朱莉の『期間限定』の言葉に自分でも驚くほどショックを受けてしまった。
(どうする・・?今、朱莉さんに俺の気持ちを告げるか・・?蓮の本当の母親になって欲しいと・・・ずっと家族として、妻として傍にいて欲しいと・・・。)
翔は真剣な瞳で朱莉を見つめた。一方の朱莉は突然翔の顔色が変わった事に驚いて声を掛けてきた。
「ど、どうしたんですか?翔さん。顔が・・・真っ青になっていますよ?!何所か具合でも悪いんですか?」
朱莉が自分を心配そうに見つめている・・・。今なら気持ちを打ち明けてもいいのではないだろうか・・・そう思った翔は口を開いた。
「あ、朱莉さん・・・実は・・。」
するとその時、翔のスマホに着信が入って来た。相手は姫宮からであった。
「え・・・姫宮さん・・?」
翔の呟く声を朱莉は聞き逃さなかった。
(姫宮さんから翔先輩に電話・・・。何か急用でも入ったのかな?会社に戻るのなら・・・ケーキは冷蔵庫にしまった方がいいかな・・?)
「はい、もしもし。」
翔は電話に出た。
「え・・?何だって・・・?・・うん。・・・ああ、分かったよ。それじゃ今夜7時に社長室で。」
そして翔は溜息をつくと電話を切った。その顔色はすぐれなかった。
「あの・・翔さん・・・?」
朱莉はためらいがちに声を掛けた。
「あ、ああ。なんだい?」
「ひょっとすると・・・夜社長室へ行くのですか・・?」
「あ、ああ。そうなんだ・・・。今夜7時に社長室で大事な話がしたいと言われて・・・。」
「大事な話・・・。」
朱莉はそれを聞いて何やら胸騒ぎを感じた。翔も同じ気持ちなのか押し黙っている。
(一体何なんだろう・・・わざわざ社員が帰宅した後の社長室を指定してくるなんて・・・人に聞かれたくない話なんだろうか?やはり京極との関係が・・・?)
すると、今度は二階堂から電話がかかって来た。
「はい、もしもし。・・え?何ですって?・・・先輩も来るんですかっ?!い、いえ・・別に駄目って事では・・・。はあ・・・分かりましたよ。もう好きにして下さい。」
そう言って電話を切ると、先ほどよりも大きなため息をつくと朱莉を見た。
「参ったよ・・・。二階堂先輩までやって来るってさ。」
「え?姫宮さんと二階堂さんがですか?食事会で翔さんが帰った後・・・お2人の間で何かあったのでしょうか?」
「さあ・・・ね・・・。」
(もしかすると京極の件の話かもしれない・・・。と言う事はやはり先輩の睨んだ通り姫宮さんと京極は関係があったのだろうか・・?)
しかし、今の電話の件で翔は朱莉に自分の気持ちを伝えるタイミングを失ってしまった。と言うか何やら嫌な予感がして今はそれどころでは無くなっていた。
(翔さん・・・何か深い悩みでも抱えているのかな・・?)
朱莉は翔の様子が気がかりだった。2人共まだコーヒーは手つかずだったし、ケーキにも手を付けていない。そこで朱莉は声を掛けた。
「翔さん、コーヒー淹れなおすので一緒にケーキを食べませんか?」
朱莉に声を掛けられ、翔は我に返った。
「あ、ああ・・・ありがとう。」
朱莉は笑みを浮かべると、先ほどとは違うドリップコーヒーをセットしてカップにお湯を注ぐと翔に渡した。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
翔は一口飲むと息を吐いた。
「少し・・落ち着きましたか?」
「え?」
朱莉の質問に翔は顔を上げた。
「いえ、何だか焦っておられたようだったので。翔さん、ケーキ頂きます。」
朱莉はフォークで掬い取って口に運ぶと顔をほころばせた。
「とっても美味しいです。お土産ありがとうございます。」
「良かった。口にあったようで。」
「翔さんも是非食べてみてください。」
「ああ、そうだな。」
そして翔もバスクチーズケーキを口に入れた。チーズの酸味が翔のによくあった。
「うん、これは美味いな。癖になりそうな美味しさだ。」
「ですよね~。やっぱり話題になるだけありますよね?」
朱莉はニコニコしながら美味しそうにケーキを食べている。そんな朱莉を見ながら翔は言った。
「朱莉さん・・・今から話す事・・驚かないで聞いてくれるかい?」
ケーキを食べ終えた朱莉に翔は声を掛けた。
「はい、分かりました。」
居ずまいを正すと朱莉は真っすぐ翔を見つめた。
「実は・・・今日二階堂先輩と・・・俺と姫宮さんの食事会・・表向きは仕事の話として開いたんだけど、本当はそうじゃなかったんだ。」
「・・・?」
「二階堂先輩が話していたんだ。京極と・・・姫宮さんはつながりがあるんじゃないかって。」
「!」
朱莉の小さな肩がビクリとした。
「その話・・・本当・・ですか・・・?」
「ああ・・・ごめん。朱莉さんを不安にさせるような話をしてしまっているのは分かっているけど・・。俺は途中で退席させられたんだ。二階堂先輩が姫宮さんと2人きりで話をさせろって言われて。」
「・・・。」
朱莉は黙って話を聞いている。
「その後の2人の話し合いがどうなったのか俺には分からない。けど・・姫宮さんと二階堂先輩の3人で今夜会う事になったと言う事は・・・やはり姫宮さんと京極は何か関係があるのかもしれない・・・。」
「そうですか・・・。」
朱莉は顔色が青ざめている。
「大丈夫かい?朱莉さん。」
「はい。・・・私なら大丈夫です・・・。」
「翔さんは大丈夫ですか?」
「まだ本当に確定しているかどうかは分からないけど・・でも本当に繋がりがあるとしたら・・正直ショックだと思う。何せ彼女は会長の秘書でもあったからね。」
翔は溜息をついた。
「翔さん・・・私、姫宮さんは本当に良い人だと・・・思うんです。もし京極さんと何か関係があるとしたら深い事情があるのではないでしょうか?」
「・・・。」
「だから・・・お願いですから姫宮さんの話・・・冷静に聞いてあげて下さい。それがどんな話であろうとも・・私は姫宮さんに色々お世話になりました。悪い人だとは思えないんです。」
「分かったよ。朱莉さん・・・。」
そして翔は再びコーヒーを飲んだ―。
「それじゃ・・朱莉さん。行ってくるよ。」
背広姿にコートを羽織った翔が再び朱莉の部屋を訪れた。
「はい、お気をつけて行ってらして下さい。」
「ああ、それじゃ・・・。」
そして翔は朱莉に見送られて億ションを出た―。
待ち合わせ時間より早めにオフィスに付いた翔はブラインドを開けて、六本木の夜景を眺めていた。するとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
翔が声を掛けると、驚いたことに姫宮と二階堂が一緒にオフィスにやってきた。
「二階堂先輩・・姫宮さんと一緒だったんですか?」
翔は二階堂と姫宮が一緒に現れたことに驚きを隠せなかった。
「はい・・。一緒に来て頂きました。」
「そうか・・・。それじゃ、とりあえず2人共座って下さい。」
翔がソファを進めると、姫宮と二階堂が隣同士に座った。
「・・?」
翔は2人の関係に何か異変を感じたが、とりあえず向かいのソファに座った。
「それで・・・話と言うのは・・?」
姫宮を見ながら翔は尋ねた。するといきなり姫宮が言った。
「その前に・・・副社長。秘書を・・・この会社を辞めさせて下さい。私にはもうこの会社にいる資格が無いのです。勿論、後任の方が決まるまでは・・責任を持って秘書の仕事を務めさせて頂きます。突然の勝手な申し出で、誠に申し訳ございません。」
「え・・?」
翔は姫宮の突然の申し出に耳を疑った―。
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