4-3 翔の後悔
泣き崩れながら今迄の経緯を話す明日香の話を朱莉は信じられない思いで聞いていた。
(何?その話・・・翔先輩・・幾ら何でも明日香さんに酷すぎるのでは無いですか・・?)
そこで朱莉は明日香に言った。
「明日香さん。お疲れでしたでしょう?お部屋を用意して来ますから今夜はもうお休み下さい。私から翔さんに詳しくお話を聞いてきますから。」
「朱莉さん・・・ごめんなさいね・・・め、迷惑ばかり・・か、かけて・・・。」
明日香はすすり泣きながら言う。
「私の事なら大丈夫です。それよりもまずは明日香さんと翔さんの問題を解決しないと・・・お二人で話は難しいでしょうから私から翔さんに話を聞いてみますね?とりあえず今夜はもう休んで下さい。」
「え、ええ・・・。あの・・・待ってる間・・蓮を見て来てもいい・・?」
明日香は涙を拭いながら朱莉に尋ねた。
「勿論ですよ。何と言っても明日香さんは蓮ちゃんのお母さんですから。」
「お母さん・・・私が・・・。」
明日香はポツリと言うと、隣のリビングへ移動して行った。その後ろ姿は・・・酷く憐れだった。
「明日香さん・・・。」
(翔先輩・・・一体何を考えているのですか・・?長野から東京まで戻って来たばかりの明日香さんに対して、幾ら何でもこんな仕打ち・・。)
朱莉は溜息をつくと、客室の用意をした。
「明日香さん。お布団用意しましたからお休み下さい。」
しかし、明日香は余程疲れていたのか既にリビングのソファの上で眠っていた。そこで起こすのも忍びないと思った朱莉は客室の布団を持って来ると明日香の身体の上に掛けてあげた。
(それにしても、明日香さんに送って来たメッセージ・・・一体誰が送って来たんだろう・・?そんな事をして何になるっていうのかな・・?)
朱莉にはいくら考えても分からなかった。その時・・・。
突然朱莉のスマホに翔からの着信が入ってきたのだ。
(翔先輩っ!)
朱莉は驚き、明日香の様子を伺ったが、既に深い眠りについているようで明日香の起きる気配は無かった。朱莉は明日香の様子を伺いながら電話に出た。
「はい、もしもし・・・」
すると電話越しからは軽やかな翔の声が聞こえて来た。
『やあ、今晩は朱莉さん。夜分にすまないね。今・・・ちょっと電話いいかな?』
「はい、大丈夫です。私も丁度お話したいと思っておりましたので。」
『本当かい?それは光栄だ。』
どことなく浮かれた感じの翔の声色に朱莉は不思議に思った。
(翔先輩・・・明日香さんにあんな酷い態度を取っておきながら、何故そんな風に装えるのですか・・・?)
明日香は気持ちを押し殺しながら翔に言った。
「では、翔さんのお話からどうぞ。」
『ああ、今月は蓮にとっての初のクリスマスだろう?だからクリスマスパーティーを開こうかと思っているんだ。秘書の姫宮さんも呼んで・・どうだろう?』
「・・・私が・・そのパーティーに参加してもよろしいのですか?」
『ああ、勿論。当然だろう?それで・・クリスマスプレゼントの事なんだけど・・。』
「クリスマスプレゼントの件でしたら、もうお返事しましたけど?」
『い、いや・・・。実はあのクリスマスプレゼントは蓮ではなく、朱莉さんに尋ねていたんだよ。』
何処か歯切れが悪そうに話す翔に朱莉は耳を疑った。
「え・・・?私のプレゼントを尋ねていたのですか・・?」
『あ、ああ・・そうなんだ。去年は朱莉さんの意見も何も聞かず、ホテルの利用券を渡してしまったけど・・今年はきちんとリクエストを聞いておきたいと思って・・・。』
朱莉は信じられない思いで翔の話を聞いていた。今迄の朱莉だったら、天にも昇る勢いで喜んでいただろう。だが・・・。
朱莉は泣き疲れて眠ってしまった明日香をチラリと見た。
明日香に対して理不尽な態度を取った翔に今の朱莉は不信感を抱いていた。
(翔先輩・・・何故今頃になって明日香さんに冷たい態度を・・?)
すると朱莉が返事をしない為、翔が再び呼びかけて来た。
『もしもし?朱莉さん?どうしたんだ?俺の話聞こえてるかい?』
「は、はい。聞こえています。」
『それで、プレゼントなんだけど・・・。何が欲しい?』
どこか、甘い響きを持つ翔の言い方に朱莉はますます不信感を募らせてきた。
「翔さん、その前に少しお話したい事があるのですが・・宜しいですか?」
『ああ?何だい?』
「今・・・明日香さんが家に来ているんです。疲れた様子で既にお休みですけど。」
朱莉は冷静に話した。
『!』
電話越しからも翔の息を飲む様子が伝わって来た。
『あ・・・明日香が朱莉さんの所へ・・・?し、信じられないな・・・。』
「いえ、事実です。」
『2人は・・・それ程仲が良かったっけ・・?』
翔は今更ながら妙な質問をしてきた。
「そうですね・・・沖縄以来、以前と比べて関係は良好ですよ?」
『そう・・か・・・。』
「翔さん・・・大体のお話は・・・明日香さんから伺いました。・・・明日香さん、酷く泣いていました。」
『急に・・長野から戻って来たから・・・俺も驚いてどうすればいいか一瞬分からなくなってしまったんだ・・・。』
「明日香さんの話では・・・まるで翔さんは明日香さんに戻ってきて欲しく無かったと言ってる様に聞こえたと話していましたよ?」
『・・・。』
しかし、翔からの返事は無い。
「翔さん・・・まさか本当に明日香さんのおっしゃった通りなのですか・・?」
『い、いや・・そういう訳ではないんだが・・・。』
歯切れが悪そうに答える翔に朱莉は言った。
「今夜・・・一晩明日香さんはお預かりしますが・・きちんとお話された方が良いかと思います。レンちゃんの為にも・・・。」
『あ、ああ・・・分かったよ。それで・・・。』
翔が言いかけた時、蓮がぐずりだした。
「あ、すみません。レンちゃんが目を覚ましたようなので・・・電話、切らせて頂きますね。」
『分かった、それじゃ蓮をよろしく頼む。』
「はい、失礼します。」
朱莉は電話を切ると、急いで蓮の元へ向かった―。
「ふう〜・・・参ったな・・・。まさか明日香が・・・朱莉さんの所へ行ってるとは思わなかった・・。」
翔は溜息をついた。
「くそっ!それにしても・・・誰の仕業なんだ?あんなメールを送るとは・・。あの内容を送り付けたのは俺達の事情を知っている人間の仕業に違いない。ひょっとして・・・姫宮さんが犯人なのか・・・?あまり内部の人間を疑いたくは無いが・・。いや、待てよ?今日彼女は殆ど社にいなかったぞ?ずっと今日は外に出ていたよな・・?社長室の戸締りだって俺が自分でしているし・・・。彼女が犯人のはずは無い・・。どのみち、セキュリティをもっと上げなければ・・・外部にデータが漏れたなら一大事だ・・・っ!」
翔は髪をクシャリと書き上げると再び溜息をついた。
「参ったな・・・これじゃ朱莉さんにクリスマスプレゼントのリクエストどころか・・クリスマスパーティーの話も出来なくなりそうだ・・・。明日香・・やっぱり俺と再びやり直すつもりなのだろうか・・・?」
何故かその事を思うと翔の心が重たくなっていく。そして今更琢磨の言葉が蘇って来る。
< 俺なら明日香ちゃんのようなヒステリックな女はお断りだな。 >
琢磨はよくそう言っていた。しかし、あの時の翔はそれも明日香の魅力の一つだと思っていたのだが、穏やかな朱莉と過ごす時間が増えてきて・・自分の考えが過ちだった事に気付かされた。
「この先・・・どうすればいいんだ・・・。」
俺と明日香・・・やり直す事が出来るのだろうか・・?
翔はいつまでも考え込んでいた—。
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