七十二話 平行線戦闘

 「ライトニングブレイズ!」

 

 僕の宣言が終わるかどうかというタイミングで、ソルの声と天を裂く轟音が響く。それはちょうど採光窓の位置関係から、秋吉あきよしはじめにだけ強烈な光を浴びせる完璧な不意打ちだ。

 

 「ぐぅっ」

 

 苦しそうに片手で目を覆った秋吉一は玉座の手すりにもたれ掛かる。魔王を含む魔族の最精鋭を相手に圧倒していたんだ、詳しい経緯は見ていないけど何もさせずに一気に攻めるのがまずは最善のはず。

 

 「おらぁっ」

 

 重厚な手甲に覆われた拳を振りかぶって、既にジオが飛び掛かっている。

 

 「閃刺」

 

 そして爆発的な加速のジオを、さらに追い越す勢いで僕も突進を開始する。抜き放った槍の穂先は、迷うことなく秋吉一の胸元に向けている。

 

 駆け出し際にちらと見たゴーストは、厳しい顔で彼の父親を睨みつけていた。

 

 「ふんっ、ですワ!」

 

 すぐ後ろからは追いかけてくるマレの声がして、そのさらに後ろではデータムとソルが状況の変化にも対応できるよう身構えている気配を感じる。

 

 「「「っ!?」」」

 

 そしてジオと僕がほぼ同時、ほんの少し遅れてマレが玉座まで到達して三方から仕掛けたところで驚愕とともに手を止めることとなった。

 

 いや、“止められる”こととなった、だ。なるほど……こういう感じか。

 

 「マスターっ! ジオとマレも下がって!」

 「わかってる」

 

 僕らの動揺を心配したのかソルの少し焦った声が掛かった。けど仕掛けた三人ともある程度は予想済みの状況に、既に落ち着いて入り口近くまで下がっていた。

 

 「ああ、目が眩みました……」

 

 ゆったりと首を左右する秋吉一は、見た目には何かをした素振りはなかった。けど直接に受けたことではっきりとわかった。

 

 「システムの処理に割り込み?」

 「された」

 「攻撃の威力とか方法の問題じゃないよ、親父のチートを防ぐか上書きしなきゃだ」

 

 データムからの確認に答えると、ゴーストからすかさず補足が入った。

 

 「ただ実際くらって確信した。あれくらい近づかないと向こうのチートは効かない」

 

 いきなりの速攻は、やみくもに突っ込んだわけではなかった。一発で致命的なところまでやられない自信はあったし、直接に受ければ色々なことがわかるという確信もあった。

 

 秋吉一のチートは僕らにも効果を及ぼす。即死させるようなことはできない。距離は手が届く一歩手前くらいから。そして……

 

 「今のでわかったでしょう、いね君が那由他なゆたと手を組んだところで私を凌駕できない。技術者としての実力は歴然と違うのですから」

 

 そう、チートは僕らに効果を及ぼした。このゲーム『オルタナティブ』をベースとして生じた電脳世界で、秋吉一はゲームとして用意されたシステムを限定的にでも改ざんできてしまう。

 

 「ふん、ワタクシたちの踏み込みを目で追うこともできない癖に、よくも偉そうに言えますワ」

 「絶対に殴ってやらぁ!」

 

 さっきは僕と一緒に仕掛けたマレとジオが威勢よく言い返すも、対する秋吉一は薄く笑う。

 

 「速さ? 攻撃力? そんなもの意味はないですよ。私と君たちはゲームの対戦PvPをしているのではない」

 「親父にしては強い口調じゃないか、焦っているのかな~」

 

 露骨に煽るゴーストに対して秋吉一は口を閉じ、一瞬の沈黙が場に流れる。実際、“外”の状況も、彼にとってそれほど楽観的ではないのだろう。

 

 とはいえ、それに一縷の希望を託すつもりはない。ここで、僕らが、なんとかするべきだ。

 

 「チート使って得意になるなよ自称“技術者”め。そっちがゲームの力をバカにして侮ってるならこっちの勝ちだな」

 

 相手への挑発でこちらへの鼓舞である言葉を吐き出しながら、本気の攻撃を仕掛けるべく僕は両足を踏ん張って全身に力を込めた。

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