七十一話 理外の存在
「……」
扉を開けると謁見室の中は隙間なくびっしりと種々雑多な黒い獣で埋め尽くされていた…………そんなことすら覚悟していた僕らは肩透かしの状況に逆に警戒を強める。
部屋の奥、本来のこの場の主であるシャフシオンのために設えられた大仰な玉座には、あまりにも場違いな
「罠の類や伏兵もない」
「今の時点では……ね」
部屋の中央へと慎重に歩を進めながら『索敵』を試す。けどゴーストが受け応えた通り、あの黒い獣たちは突然現れて襲い掛かってくることもあったし、黒ニンゲンは目の前で召喚された。秋吉一はこの場でいくらでも戦力を呼び出せる、あるいは生み出せると想定しておくべきだろう。
「
矢足……というのは初めて聞く名前だけど、この流れで社長というと、例のレボテックの社長だろう。
「余裕だね、親父。まさかもうレボテックの防壁を破って外に出る準備が整ったなんてことは……」
「残念ながらそれはまだ作業中ですね」
額に冷や汗を浮かべたゴーストからの問いかけに、秋吉一ははぐらかそうともせずにあっさりと答える。これは嘘ではないだろう、まだこの世界『オルタナティブ』が原型を留めていて、何より僕やツールたちが存在していられるのだから。
「その割には余裕だな、もう黒い獣をばらまいて逃げ回らなくていいのか?」
「あぁ……あれはそういう目的ではなく、物差しでしたから」
「は?」
「この世界流のやり方で何とかできそうなら数で圧し潰そうかと思っていたのですが、とても無理そうです。さすがは開発者……特別製という訳ですか?」
「……」
特に感情の感じられない淡々としたニュアンスで投げられた言葉だったけど、おそらくは中庭での僕からの言葉への意趣返しだろう言い方に思わず黙ってしまう。本来デバッグが済めば削除する予定だったこのテスト・デ・バッガというアバターも、不測の事態から実体化したゲーム制作ツールたちも、不自然だということでは目の前の秋吉一と変わらない。
ただ、明確に違うのは……
「だから何だってんだよっ」
「力はその性質や性能よりも目的が何より大事。重要事項」
「神聖マリヨン帝国の民から慕われる海洋神たるこのワタクシに、そして世界の民から信仰されるご主人様に、比する存在にでもなったつもりですノ?」
「アタシたちはこの世界を守る。平気でめちゃくちゃにしようとするあなたとは違う」
僕が言い返すまでもなかったな。とはいえここが正念場、改めてびしっと決めさせてもらおう。
「そもそも、この世界は僕から生じて、そして僕らへと続く。理外の存在はあんただけなんだよ、秋吉一。僕が創造神として、この世界の代表として、あんたを叩き出してやる!」
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