六十九話 圧倒的な追撃者たち

 「ギィヤッァアアアアアァァアア!」

 

 その巨躯を完全に現して、さっきよりも威勢よく黒ニンゲンが叫びをあげる。知性は一切感じられないけど、得体の知れない悍ましさがある。

 

 状況からしてどうみてもこいつは時間稼ぎだろう。だからとにかく急いで仕留めて秋吉あきよしはじめを追いかけないといけない。……てこずった場合は手段を選んでいられないか?

 

 「――?」

 

 近くで黒ニンゲンを警戒したり威嚇したりするソル、ジオ、データム、マレを見回して考えていると、一人だけ気付いたソルが不思議そうな表情をする。今はそんなことを考えている場合でもないな。最悪の場合は最悪の場合に考えよう。

 

 「一気にいくぞっ! すぐに秋吉一を追いかけないと」

 

 いうと同時に背負った槍を引き抜いて構え、間を空けずに突進を開始する。細かい作戦会議も指示もしない、ここは一気呵成だ。

 

 「炎閃刺」

 

 炎魔法技能で着火した穂先をアジリティ敏捷性系槍術スキル『閃刺』を発動させて高速で突き込んでいく。

 

 「ギイィ」

 

 ちょうど胸の中央に炎の槍をめり込ませた黒ニンゲンが苦鳴のような音をだす。

 

 「やあっ!」

 「おらぁ!」

 

 そこに左右からソルの刃とジオの拳が追撃として叩き込まれる。

 

 「討伐完了」

 「……ギィウィアァァ」

 

 報告してくれるデータムの声を合図にしたように黒ニンゲンは膝から体勢を崩していき、そのまま地に伏すより前に消滅する。

 

 「なんと!?」

 「この圧倒的な力……、代表殿は“神々”と……、人族では、いや人間ではないということか」

 

 フンツテーネは素直に驚愕し、カッツノーレンは必死に思考を巡らせている様子だ。ここからどういうリアクションをするか見ていたい気もちょっとするけど、残念ながらそんな余裕はない。

 

 「これはもはや魔族の内乱ではない。あんな存在は止めなければ人類、いやこの世界そのものが危険だ……武運を祈る」

 

 果たして何に対しての祈りなのか、そんなシャフシオンが呟く声を背で聞きながら、僕らは統一府城内へと駆け込んでいくのだった。

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