六十七話 最終局面
密度は薄いながらも魔王城を取り囲むように展開する主戦派魔族に見つからないように気を付けながら、僕らはゴーストの誘導に従って駆けていた。
「たぶんあそこ!」
「あそこって……、崩れた城壁の中で黒い獣と兵士たちが戦ってる真っただ中じゃねぇか」
先頭をきっていたジオの足がやや緩む。正面突破は避けて、
……いや、だろうというか、僕も戸惑っている。
「間違いないか?」
「うん、間違いないね~」
いつもの軽い調子ながら、はっきりとした確信を込めてゴーストが肯定する。
「魔王もいる。最終局面」
構えた弓越しにまだ遠い城内を見ていたデータムの言葉に、僕も改めて『索敵』技能も使いつつ様子をみる。
確かだ。
「それと多分、猫族と犬族の族長もいる。データムの言った通り、魔族の内戦は最終局面みたいだ」
「最悪の形で、だけどね」
普段明るいソルも難しい表情だ。この“世界”というものを壊したくないために魔族の内乱にできる限り関わらないように心掛けていたけど、秋吉一の方はそんなことはお構いなく首を突っ込んだようだ。
もちろん、そういう相手だっていうことは予想というか覚悟していたけど、一方で僕が生み出したこの世界の“ラスボス”たるシャフシオンはそんな簡単にどうこうできるような存在じゃないと高をくくってもいた。
前に見た時は瞬間移動こそしていたけど、強そうな武具も身に着けていなかったし、こっちは勘になるけどステータスも高くはなさそうだった。
どんどんと近づくにつれて少しずつ様子も見えてきた。どうやら相変わらずくたびれたサラリーマン風の出で立ちをしている秋吉一の前でシャフシオンが膝をついている。
「いやな雰囲気の男ですわネ……」
「まったくだ、黒い獣のせいもあるだろうけど」
以前から黒い獣からはすごく嫌な気配というか、生理的嫌悪みたいなものを感じていた。それと同じような、いやもっとそれを濃くした気配が、今の秋吉一からは漂ってきていた。
「そうなのかい? どちらかというと親父はいつも存在感が薄いというか、良くも悪くも何も思われないような人だったけど」
「あぁ、いや、人の親を悪く言うのもなんだけどな……。こう、受け入れがたい感覚があるというか」
「そういう意味で気にしているって訳じゃないよ。ただ不思議に感じてね」
ぐるっと僕らを見回したゴーストが本当に不思議そうにしている。確かにあの秋吉一は客観的にみると、嫌悪も好感もないような薄い雰囲気をしている。これは……
「たぶん、何かヤってやがんな」
ジオの睨んだ通りだと、僕も思う。ゴースト以外はソルもデータムもマレも頷く。
「
「――この世界の神々、というか制作者であるテスト君たちがそんなに嫌がるってことかい」
今の僕らが『DEUS』とやらによって『オルタナティブ』に付属して生まれたAIだというなら、この世界を蝕むウイルスである黒い獣や、それを率いて世界を不正に掌握しようとする秋吉一に対しての危機感、嫌悪感は本能みたいなものなのだろう。
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