六十三話 この道の先は

 「……戻ったか」

 「うん」

 

 不意に何もないところから出現したゴーストを見て、思わず息を吐く。用事といって一度消えていたゴーストが戻ったことに“安心”するあたり、僕も不安になっているんだな。

 

 「用は無事に済ましてきたの?」

 

 僕と同じく、というよりは多分僕が不安を見せたせいで、少しだけそわそわしていたソルも声を掛ける。けどゴーストの方は、そんな風に言われることの方が意外だったようだ。

 

 「ん? ああ、何も問題はないよ~。……というか、ちょっと“向こう”に報告してきただけだしね」

 

 “向こう”……、現実世界というか僕からすると未来世界の方での協力者とやり取りして来たのか。

 

 「何かあったのか……?」

 「いやいや、何もないよ。状況は変わらず最悪なまま、レボテックの連中が必死で親父の仕掛けを食い止めてたよ。ジブンの見立てだと残り時間は一日か二日ってところかな? その間にこっちの方で黒い獣のコントロール権限を奪取する必要がある。多分だけど、それは何かのアイテムみたいな形式で親父が持っているはずだよ」

 

 秋吉あきよしはじめを捕まえてゴーストがSFなハッキングバトルを仕掛けるようなのを勝手にイメージしていたけど、なるほど思い違いだったようだ。

 

 黒幕の所に手遅れになる前に辿り着いて、どこかに隠し持っているだろうアイテムを力尽くにでも奪い取る。それで二つの世界の崩壊を食い止められるはずだと……、完全にファンタジーRPG的展開になったな。

 

 まぁ、その方がわかりやすいけど。

 

 「で、こっちでよかったか?」

 

 話を変えて、進行方向が合っていたかをゴーストに確認する。僕らはゴーストが消えている間は再び徒歩で魔族領内を移動していた。向かう先は消える前にゴーストが指示していった方向で、そして僕の記憶が正しいなら統一府――通称“魔王城”――がある方向だった。

 

 「一旦持ち帰って念入りに調べてきたから間違いないよ」

 

 ゴーストは何も持っていない両手をひらひらと見せながらそういった。その手には消える前まで三つの黒いアイテムがあったはずだ。それらをデータとして“向こう”へ持ち帰って、本来のハッカーとしての手管で見立てが正しいかを確認してきたようだ。

 

 もっとも方向を変えるよう言われないということは、黒いアイテムを見た直後にゴーストが看破していた情報で間違いなかったという結果だったようだけど。

 

 「着いたらどう動きますノ? きっと修羅場になっていますワ」

 「マレの言う通りだとデータムも予想する。正面突破は愚策」

 

 そうだなぁ、状況にもよるけどやっぱりできる限りはこの世界の存在同士の争いには介入したくない。小さなものならともかく、大きな勢力としての戦争ならなお更だ。

 

 だから狙いも、とるべき行動も限られる。

 

 「なるべく迅速に秋吉一を見つけて、急襲する。交渉するつもりもないけど……いいか?」

 

 ゴーストはこちらの目をしっかりと見据えて頷く。小さいけど迷いのない動作だ。

 

 「わかってる。あと親父を見つけるのはジブンに任せてくれていいよ、近づけばかなり詳細な位置も特定できるはずだ」

 

 ならばもう今は歩くだけだ。進む先がこの世界の平穏へと繋がると信じて。

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