五十九話 奮う心
色々な情報を受け止めようと黙り込んで考えている内に、僕とツールたち、そしてゴーストは魔族領北端の海岸へと降り立っていた。
ちなみに船からここまでは小さなボートで渡ってきた。マレが海を割って歩けるようにすると言い出したけど、それは止めておいた。隙あらばアピールしようとする気持ちはわからないではないけど、さすがにあまりに目立つことはちょっと……。
「なぁゴースト」
「ん、なに?」
ふと疑問が浮かんで話しかけたけど、軽率に踏み入っていい質問かな? いやまぁ答えたくないなら答えないだろうし、気を使い過ぎかな。
「お前の父親……
「……」
ゴーストは一瞬口をつぐむ。言いあぐねているというよりは、自分の中にある答えを改めてなぞっているという様子だ。
「目的は純粋にこの『オルタナティブ』を維持することだと思う」
「はぁっ!? ならどうして黒い獣なんて使って荒らすんだ」
思わず声を大きくしてしまった。維持するためなら壊すことを厭わないなんて矛盾もいいところだ。
「あの人が守りたいのはあくまで『DEUS』が生成した世界だからね。色々とあって、仮想世界生成システムとしてその機能をフルに発揮できたのは今回のこの『オルタナティブ』が初だったんだよ」
秋吉一が大事なのはあくまでも『DEUS』であって、そしてその生成物だから犠牲をだしても守ろうとしているってことか。
「つまりゲーム『オルタナティブ』の世界観こみで守ろうとしているこちら側とは相容れないって訳だ」
「そうだろうね~。あいつはきっとテスト君が許容できないようなことでも平気でやるよ。……例えば、黒い獣を率いた魔族に人族が根絶やしにされる、とかね」
対現実世界の武器として黒い獣の蔓延が必要なら、それくらいしかねないのか。というかそんなことになったらいずれは制御を失った黒い獣のせいで魔族も含めて全人類が滅びかねないと思うけど……、それも厭わないってことなんだろうな。
「まぁ、受け入れがたい」
「そんな軽……く」
こちらを向いたゴーストが言葉を詰まらせる。冷静さを保とうと意識して軽々しい言葉遣いをしたけど、僕としてもそんな予測を聞いて心穏やかではいられない。内陸の方を睨む目線にはどうしても力が入ってしまう。
「当然、マスターと皆と作ったこの世界を壊させはしないよ!」
元気なソルの言葉には前向きな希望がある。
「口で言ってもわからないなら、オレがこいつでわからせてやるから任せろ!」
拳を握るジオの力強さには勇気づけられる。
「相手はしょせんはよそ者……、この世界のことでデータムたちが負ける道理はない。絶対」
データムの知識は頼りにしているし、その冷静さはこの状況だからこそ必要だ。
「わ、ワタクシもおりますかラ! ご主人様の前にある障害は全て押し流して差し上げまス」
そもそもマレがいなかったらこんなにスムーズにこの場所までこられていないし、この献身的な性分がここからも皆をそれこそ海のように包み込んで守ってくれるだろう。
「なるほど……、親父は戦略を誤っていたようだね。敵にまわしちゃいけない人たちがここにいるみたいだ」
ゴーストは正直未だに怪しんでいる部分もあるけど、少なくとも僕らの知らないことを知っている。
「いくぞ、『オルタナティブ』の開発者として……いやこの世界の創造神として負けられない戦いだ」
皆の威勢のいい返答を受けながら、僕は一歩を踏み出した。
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