五十七話 黒幕
ばんっ、と乾いた破裂音が室内に響き、絡まりかけていた思考が強制的に解かれる。
音の出所へ目線をやると、両手の平を机の天板に押し付けたソルだった。その髪と目の赤さと同様の激情が燃え上がる直前で何とか抑えている、といった様子だ。
「マスターを追い込んで何が目的?」
普段とは全く印象の違う、うなるような低い声でソルが問う。視線を巡らせると、ジオは腰を少しだけ浮かせた臨戦態勢のままだし、マレは氷点下まで温度の下がった目を細め、普段あまり感情をださないデータムも露骨な不機嫌が眉間の皺となって表出していた。
ツールたちが僕のためにこうまで怒ってくれているのをみて、落ち着きと冷静さが戻ってくる。そしてそれによって、とんでもない爆弾発言をしてくれたゴーストは、妙な表情で僕の顔をじっと見ていることに気付く。
「……」
沈黙を保つゴーストは、実験中の観察対象を見る科学者のような目というか、論理の中に一かけらの祈りが混ざったような雰囲気というか……、そんな目をしている。
「ふぅぅ、良かった。いや、謝るのが先だね、配慮のない情報の開示をして申し訳なかったよ」
机に額が触れそうなほどに深々と頭を下げるゴーストからは真摯さが伝わってくる。いやこれは必死さか……?
左右に座るソル、ジオ、マレ、データムに目線で落ち着くように伝え、改めて顔を上げたゴーストに向き合う。
「混乱させるために適当な嘘を言った……、という風には見えない。真実なんだな?」
「うん」
頷くゴーストは相変わらず軽いというかフランクで、そのある種率直な雰囲気が真実味を感じさせた。
「そうか…………、どうして急にそれを?」
いつからそれを把握して、どの段階で僕を“僕”と認識して接触してきていたのかはわからない。けど、今の情報のぶつけ方は妙に雑だったというか、何というかこいつらしくない。ほとんど関わった時間は無いけど、何故かそんな確信があった。
「テスト君はこの世界を維持したい……だよね?」
「ああ」
唐突な質問に頷いて即答する。
「であるからこそ、ジブンと君らの利害は一致させられる。そして失礼は承知で、最大の懸念を先に潰させてもらった」
「懸念というのは、さっきの……あるじについてのこと?」
少し言葉を選びながらデータムが質問を挟む。
「そう、この世界と、そしてジブンらにとっての世界。その両方の敵は
さっきのゴーストからの情報を全部信じるとするなら、僕にとっての未来人であるゴーストやその敵は、みんな僕に起こったことを知っているはずだ。過去のニュース記事を読み上げるだけで相手を動揺させられるなら、それを使わないはずは確かにないだろう。
そこまでは筋も通っているし納得した。けどまたここで重大な情報が増えたな。
「両方の敵って言ったか? それはゴーストが今僕らの追っている相手を知っていて、しかもそれは五百年後の未来世界にとっても危険人物ってことか?」
僕の質問を聞いて、ゴーストは小さく苦笑を浮かべて「未来世界か~」と呟いている。向こうにとっては間違っているその言い回しが少しおかしく聞こえたようだ。
そして程なくゴーストは表情と姿勢を整える。
「そうだね、
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