五十五話 思わぬ再々会
取り押さえられていた小柄な人物が土を払いながら立ち上がっている。周りの連中が今さらながらに乱暴すぎたと謝罪していることにもだけど、取り押さえられたこと自体にもすぐに食って掛かる様子でもない。
特に怒っていない……? いや、どちらかというとそんな余裕がないといった感じだろうか。何かきょろきょろとしていて、自分の扱いの悪さよりも気になることがあるとでもいった雰囲気だ。
というか、俯いていて顔は見えないけどあの服装……
「
あ、目が合った。こちらを指差すその顔は知っているもの、
「君は……」
とっさになんといえばいいのか言葉が浮かばない。疑問はあるけど何から聞けばいいのかうまく整理もつかない。
「稲君、まさか君が助けてくれるなんてねぇ……! こっちもちょっとなりふり構っていられなくなってきたから、ちょっとお話できるかい?」
「あ、いや、僕の事はテストと呼んでくれ。テスト・デ・バッガ、そう名乗っている」
この世界で、この身体で、稲 慎太と呼ばれるとなんとも違和感がある。いや、本名に違和感を抱くのもおかしい話ではあるけど、感覚的というか本質的な部分で違うと感じてしまうのだからどうしようもない。
「ああ、うん、おっけ~。ならジブンのことはゴーストでいいよ」
ゴースト、か。ハンドルネームなのか別の何かなのか……。それはそうと、この盗賊少年も初対面の時と比べると随分と砕けた態度だ。まああの時は本当に修羅場の直後だったし、警戒していたのもわかるけど。あるいは、同種の存在だと確信したからだろうか。
「ソルだよ」
「オレはジオだ」
「データム」
「ワタクシのことはマレとお呼びなさイ」
ツールたちも次々に名乗っていく。それを聞いたゴーストは面食らった様子……、というか明らかに驚いている。
「ソルさんとジオさんは前の時にもいたけど、それに加えてデータムさんにマレさん、かい。勢ぞろいじゃないか」
「まあな」
ゴーストはこの世界に生きる盗賊少年ではなく、“外の世界”のハッカーだ。だけどどうやらこの世界の常識なんかもある程度は把握しているらしい。僕らの名乗りから、各地で信仰される
まあ前に驚かされた時に、僕も思わず素直に答えてしまったし、むしろ僕よりも“現状”を理解しているのではないだろうか。そうだとすると――
「なあゴースト、ここは……この世界は、何なんだ?」
意を決して質問すると、ゴーストは丸々とした目を少し見開いてから、すぐに細めていく。小さく驚いてから、何かに納得した、そんな表情だった。
「そうだね、それもさっきのお話に含まれるよ。何にしても人目のない方が都合がいい」
鍛冶国家ゴルゴンの首都ガーテンで遭遇した時には、こちらから何か問いかける間もなく消え去られてしまっていた。けど今回はじっくりと話をしてくれるようだ。
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