五十三話 逆転の一手
「あの蛇族の追っ手連中にはみえたかな、今の?」
「どうだろう、距離はあるから見えなかったんじゃないか」
ソルが気にしているのは、さらなる追撃がかかるかどうかということだろう。連中が黒い獣を、仮に制限なく召喚できるのだとしても、負ける気はしない。けど周囲への被害となると別の話で、そこを気にすると追われている限りは町に近づけなくなってしまう。
「……」
必要な確認だったから、まずはソルと話していると、すぐ横から質量を感じるほどの強い視線が向けられていた。男としても長身の今の僕にも近い身長であるマレからの視線は、文字通りにまっすぐと向かってくる。
「あ、マレ……! 合流出来てうれしいなぁ……なんて、その……」
「……」
段々とマレの青い瞳が潤みを帯びてくる。さっきも言っていたけど、ツールたちの中で合流が最後になったことを気にしているらしい。
「べ、別に、ほら、避けていたとかじゃ決してなくて――」
「……」
もにょもにょと動いていたマレの唇がぎゅっと引き結ばれる。余計に機嫌が悪くなってきてないか?
すると、醜態を見かねたのかしばらくは周囲を警戒してくれていたジオが大股で近づいてきて、僕の肩を軽く叩く。
「そうじゃねぇだろ、ボス。オレらに対して言い訳なんていらねぇんだけどよ、だからといって何も気にせず盲信できるワケでもないぜ」
あ……、そうか。僕は何をごちゃごちゃと言い募っていたんだろう。まずはちゃんと気持ちを言葉にしないと。
「その、マレ……? 僕にとって君は大切な存在だ。ないがしろになんて絶対にしていないよ」
しっかりとマレの目を見据えて、一言一句を区切りながら伝えた。
「……はい、わかっておりますワ、ご主人様。ワタクシの方こそ、わがままに振舞ってしまってごめんなさイ」
両眼は潤んだままで、けど口元は緩やかに笑んだマレから肩の力が抜ける。まあ、信じていても不安に感じることってあるよな。
それからしばらくツール同士でも合流を喜び合って少しの時間が経過した。そして場が一段落したところで、改めてデータムが全員の顔を見回す。
「みんな揃って、これで憂いなく反撃にでられる」
データムの言う通り、魔族領からここまでは混乱のうちに逃げてきたって感じだったからなぁ。
「確認だけど、オレらの敵は黒い獣と……あのスーツ野郎ってことでいいんだよな?」
「それと蛇族との争いも避けられない」
ジオの確認をデータムがすぐさま補足する。ソルは神妙に頷き、さきほど挨拶がてらに状況を伝えておいたマレも理解を示している。
「魔族内での争いはシャフシオンに任せた以上引っ掻き回したくはなかったけど、もう一度忍び込んで魔族領内を突っ切るしかないか。たしか蛇族の集落って北端だよな?」
「そう」
データムも頷いたし、記憶にある通りだったようだ。魔族領のだいたい中心部に統一府があって、蛇族の拠点はそれを挟んで人族領との国境から反対側、つまりは大陸北端に位置する。
さっきまでいた国境付近の町から魔族主戦派が統一府へ攻め上がっているのであれば、ちょうど争いの中心を縫っていくか、あるいは時間がかかるのを承知で大きく迂回するしかない。どっちもデメリットが大きくてちょっと決断に迷う。
「魔族領北端まで一気に入り込みたいのですわネ?」
唐突に確認してきたマレに、僕とデータムは戸惑いながらも首肯する。
「だったら、ワタクシの座する帝国にお任せください、ですワ!」
任せる……? マレの座する帝国……? マレを海洋神として祀るのは、今いる位置からすぐ南西にある神聖マリヨン帝国。あそこは――
「そうか、船か!」
おもわず手を打つ。多少の困難はあるけど、それならうまくすれば争いを避けて、かつ短期間で蛇族の集落まで到達できるかもしれない。
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