五十一話 西へ
「授かった力……?」
「データム?」
出現した黒いトリの群れに慌てていた僕たちをよそに、データムはあの祭祀蛇族が言った言葉が引っかかっていたようだった。
「あの黒ハヤブサを召喚する直前に言っていた。状況から考えるとあのサラリーマンが黒い獣の出所で、魔族の主戦派たちを焚きつけた元凶」
おぉ、あのトリってハヤブサなんだぁ、この距離から見ただけでわかるなんてさすがデータム……。じゃなくて、これは状況が変わってきたってことだ。シャフシオンとは早々に別れてそれぞれに頑張るつもりでいたけど、こうなってくると全ての根っこが同じところにあったということになる。
「そうなると、魔族領に戻るか?」
聞くと、データムは考える素振りをみせる。蛇族たちの方はソルとジオがそれとなくけん制しているから襲ってこないけど、黒ハヤブサは刻一刻と近づいてきている。
じっくりと考える時間はなさそうだけど、あのサラリーマンが僕たちにとって追うべき対象で、それが魔族主戦派の扇動者だというなら、魔族の内戦に首を突っ込んだうえであいつを追い詰めるのも一つの策に思える。
「魔族領、というより蛇族の集落にはいかないと。けど正面からぶつかるのは避けたいから。迂回」
それはそうだ、ちょっと焦って思考が単純になり過ぎていたな。あくまで魔族領内での争いごとそのものはシャフシオンに任せたままで、安易に僕たちが混ざるべきじゃない。
「とにかく一旦あれを倒してからだよね。やっていいかな?」
ソルが手の平を上空に向けるような素振りをしながらデータムに確認をする。確かに、黒雲のような黒ハヤブサの群れは脅威だけど、ソルからするとハヤブサというよりいいカモだ。
「待って、今人族側の注意をあまり引きたくはない」
「あいつら血気盛んだからなぁ」
偶発的な戦争への発展を憂慮するデータムの考えを、血気盛んの体現者ことジオが肯定する。この緩衝地帯にゴルゴンの兵力を呼び込むようなことになってしまうと、シャフシオンのしようとしている平和への努力が無駄になってしまう。
「西へ……、そこで黒ハヤブサとあいつらを迎え撃つ。誘導迎撃」
「なるほど、マリヨン側の緩衝地帯か!」
神聖マリヨン帝国――鍛冶国家ゴルゴンの西方に位置する海洋国家で、海洋神マレ・トゥールを祀る海洋神教会の大司教を兼ねる皇帝が支配する帝政国家だ。魔族領と大部分の国境を接する人族領はゴルゴンだけど、大陸西端ではマリヨンも一部接している。ただし、魔族領の西側が険しい山岳地帯であることと緩衝地帯が広くとられていることで、実質的な人族側最前線はゴルゴンに絞られている。
今重要なのはマリヨン側、つまり西側の緩衝地帯が広いということだ。少々派手に暴れたとしても魔族、人族双方の注意を引かずに済むだろう。
「どうする、走るのか?」
ジオが聞いてくる。ぐずぐずしているとこっちの思惑とは関係なくこの場で戦闘になってしまいそうだ。
「けん制は僕が引き受けるから、走って!」
遠目には見えづらい風魔法で黒ハヤブサの先頭集団に嫌がらせをしながら言うと、ソル、データム、ジオの順で西へ向かって走り出す。
「あいつらは……、まあそれならそれで都合はいい」
追っ手の蛇族たちはここで留まるつもりのようだ。余裕の態度を崩さずに走り出した僕らを見送っている。黒ハヤブサで十分だと考えているのだろうけど、まあ侮ってくれるならそれでいい。
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