未来編・十一話 電脳亡霊

 「AIとして甦った過去の亡霊が、全ての元凶だったというのか……」

 

 呆然と呟いたやなぎを、ゴーストはからからと笑い飛ばした。

 

 「何をいってんのさ。『DEUS』が世界生成したことの元凶は別。その結果生まれたのがAIいね 慎太しんた君だから順番が逆だよ」

 「む、うぅ」

 

 指摘されて反射的に言い返そうとした柳は、しかしゴーストの言う通りであり自分がいかに混乱していたかを自覚して、言葉を不満ごと呑んで押し黙る。

 

 そして黙った柳に代わるようにして、今度は出雲いずもが口を開く。

 

 「し、しかし柳部長が混乱するのもわかる、私もなんていったらいいか……。とにかく、一旦状況を整理しよう」

 

 一度精神的に立て直そうとした出雲の言葉に、ゴーストは素早く反応を返す。

 

 「稲 慎太君はまぁ他のゲーム内NPCと結局は同じだよ。『DEUS』によって生成されたAIという名の電子生命体で、そちらにとって扱いに困る存在には違いないけど、今回の“事件”には結局のところ関係がない」

 

 あまりのインパクトに思考が引き込まれていたことに気付いた出雲と柳は、揃って我に返った。実際にゴーストの言う通りで、稲 慎太の存在は状況に対してプラスでもマイナスでもなかった。強いていうなら世間にこの失態が露呈した際の話題の種が一つ増えたというくらいだった。

 

 「気にするべき問題は外部との通信とやらだな」

 

 冷静さを部分的にでも取り戻したらしい柳が、そもそも再びゴーストが生成された世界『オルタナティブ』内へと赴いていた理由へと立ち返る。世界的に名の知れたクラッカーであるゴーストですら尻尾すらつかめないこの“ちょっかい”については謎のままとなっていた。

 

 「そうだねぇ」

 

 気の無い返事を口にしたゴーストが画面の向こうで何かを操作する。それは今回の会合前にも確認していたその通信を、改めてモニターしようとしてのことだった。

 

 「ん~? あれ? えぇっ……と」

 「どうした?」

 

 明らかに何かがあったというゴーストの雰囲気に、出雲も思わず不安に小さく声を震わせる。これ以上の状況の悪化、あるいは不明点の追加はごめんだ、というのが出雲にとって偽りのない本音だった。

 

 「この間発見して、ついさっきまで続いてたはずの外部からの通信だけど……なくなってるねぇ」

 「捕捉できなくなったのか?」

 「それはない。あると気付いているものをジブンが見逃すことはありえない」

 

 出雲の質問をゴーストはぴしゃりと否定する。そこには確信と自信がこもっていて、出雲も柳もそこを疑おうとは思わなかった。

 

 そしてそうであれば、わずかな希望に縋るような気持ちも湧き上がっていた。

 

 「厄介な干渉の可能性は無くなった、ということなのか?」

 

 出雲の楽観的な確認に、数瞬の間が空く。それはゴーストが悩んだのではなく、呆れたことによるものだった。

 

 「そんな訳ないじゃんか」

 

 はっきりとした否定。そして出雲にとっては悲観的で、ゴーストにとってはただの可能性でしかない推測が並べられる。

 

 「まず考えられるのは誰かが仕掛けていた何かが完了した……だけど、現時点で生成された世界に大きな変化は見られないから、この可能性は低いかな。他には別の手段での干渉に切り替わったとかかな」

 「別の種類……?」

 「腹立たしいけど捕捉できていたのは通信だけ。例えばだけど、それで送り終えたウィルスが既に内部で自律的に活動を開始している、とかだったらありえるよ」

 

 結局のところとして、何かを仕掛けられていたのは確かであったのに、その何かが何であるかがわからない内に消えてしまったというのは、悪材料でしかなかった。

 

 「しかし、それでは……」

 

 動揺する出雲が言語としては特に意味をなさない言葉を吐き出す。しかしゴーストの頭の中では既に次の算段が走り始めていた。

 

 「とにかく中を探るしかないね。それを仕掛けている誰かにはジブンらの動きなんてとっくに知られているって前提で、ちょっと派手になっても本格的に調査してみるよ」

 

 リスクをとったといえば聞こえはいいものの、出雲や柳には分の悪い勝負を仕掛けるという風にしか聞こえなかった。にも拘らず、ゴーストの声音にはどこか楽しそうな、浮かれた音程が混ざっていた。

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