四十七話 込めた理想と託される希望
「それで……」
データムとの再会を喜ぶ前にどうしても気になっていたことに触れる。僕だけでなくソルとジオも視線は同じ方向へ向けている。データムに同行しているフードの大男だ。フードの影からは口元しか見えないけど、流麗ながら厳めしさも感じさせるその造形は男のもので間違いないだろう。外套の上からでもわかる体型も見事なくらいに逆三角形だ。
「ん」
喉を鳴らす程度の声を出しながらデータムが一瞬視線を背後に立つ大男へと向けた。それを待っていたのか、即座にその男はその場に膝をつき、頭を垂れながらフードを降ろした。
その動作はどこか舞台役者染みていたというか、ありていに言えば様になっている。いきなり跪いたのは向こうなのに、こちらの背筋が伸びてしまうくらいだ。そして露わになった頭部には立派な巻き角が存在感を放っている。この青年は羊族、それもおそらくは――
「名乗りが遅れた無礼をお許しいただきたい、尊き神々よ。我が名はシャフシオン、羊族の長にして今代の統一魔族連邦族長代表を務めている」
言葉尻こそ威厳と尊大さを感じさせる口調だけど、その所作や声音からは最大限の敬意が伝わってくる。しかし魔族は知識神であるデータム・トゥールのみを信仰しているはず……。
「君……は、“神々”って言ったのか?」
魔王を相手に何て呼称すればいいのかを悩んだせいで詰まりながらも、疑問をぶつける。
それを合図に顔を上げたシャフシオンは、その精悍な眼差しに明らかな確信を宿していた。
「データム・トゥールの言葉から辿り着いていた推論は、今この瞬間に我の中で確たる事実となった。あなた方は……紛れもない上位存在。それに名をつけるとすれば“神々”以外には称しようがない」
「お、おう」
人族側の多神信仰にも寛容なんだー、くらいのノリで聞いたけどえらく真面目な語りが返ってきた。
「とにかく、この状況の中でデータムを無事に連れてきてくれたんだな。ありがとう」
「もったいない言葉だ。我はただこの世界に住まうものとしての務めに従ったまで」
保護者的感情から改めてお礼を言うと、さらに堅苦しい返事が返ってくる。そう設定した張本人が思うのも何だけど、本当に真面目で堅苦しい性格してるな。
と、その横に立つデータムは、元から感情の薄い表情の中で、その目をほんの少し細めたようだった。
「連れてきたのはデータムの方。魔王があるじに用事があるからって」
「そっか、何にせよこうして会えて嬉しいよ」
艶やかな黒髪を撫でると、少し不機嫌になりかけたデータムはさっきとは違う目の細め方をして小さく喉を鳴らしている。なんか子ネコを可愛がっているような気分になってくるな……。
「用事って?」
データムを愛でる方に気が逸れた僕に代わって、ソルがシャフシオンとの会話を引き継ぐ。
「用ならもう果たされた。常人には頼めぬこと故に、この目で確かめておく必要があった」
「確かめる?」
確かめる内容はさっき言っていた僕らが神々だと確信とかのことだろう。けどわからないのは何のために? ソルだけじゃなく、僕もジオも揃って首を傾げる。
「黒い獣はデータムたちが対処するべき」
「そのつもりだ」
撫でていた手をどけると、データムが強い口調で断言する。決意というか使命感を帯びたその言葉に、僕もはっきりと肯定する。そしてすべきことを抱えているのはシャフシオンも同じだった。
「そして魔族の平穏は我が取り戻してみせる。……例え、それが創造神の意に背くことであっても」
少し躊躇う素振りをみせてから、そんなことを言ってくる。そんなところまでシャフシオンの考えは及んでいるのか。けどゲーム『オルタナティブ』を作った時の意図がどうこう以前に、僕はこの世界を“管理”する気なんてない。
「君が、君たちが為すべきと思うことに全力を尽くしてくれ」
どういえばいいか悩んだけど、そう告げるとシャフシオンはどこか憂いを振り払えたような清々しさを感じさせる笑みを浮かべて頷いた。
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