四十三話 魔族の領地
「この先が……」
「そう、魔族領だ。まあ正確にはもう少し行った先になるけどな」
ゴルゴンの北国境を抜けたところで呟くと、ジオがそう補足をしてくれた。黒モグラの群れを討伐した後は、特に問題も無く進んできた僕たちは、ついに魔族領まで目と鼻の先というところまで来ていた。
友好的な関係ではないゴルゴン――というか人族領――と魔族領の境界は、ゴルゴン―ファストガ間のような国境とは違っている。ゴルゴン側の国境門と、魔族領側の国境門が別々にあり、そしてその間は誰の領土でもない緩衝地帯となっていた。今立っているのは正にその緩衝地帯の端という訳だ。
「ゲームで設定した環境がそのままなら、魔族領に入ればただの獣でも相当な強さのはずだ。二人共気を引き締めろよ」
「うん」
「おう」
しっかりと、気持ちのこもった返事だ。気負い過ぎず、しっかりと緊張感は持てている。
「なあボス。別に魔族、ていうか魔王にケンカ売りに行くワケじゃないんよな?」
そこでジオが若干言い辛そうに確認をしてきた。
「ああ、とにもかくにもデータムと合流……、というより、所在を確認するのが目的だ。正直にいって魔族と人族の争いに関してはどっちかに加担する気はないよ」
「そっか、わかった」
僕の返事を聞いて、ジオはどこか安心したようだった。今ジオの脳裏に掠めているのであろうことは、モルモとガーテンで起こった出来事だと思う。合流してからゴルゴンまでの道のりで話だけはしておいたから。
「そうだよね、アタシも……それに関してはまだよくわかんないよ」
ソルも色々と悩みとして抱えているようだった。基本的に目の前で助けを求められれば手を差し伸べてきたけれど……、種族間の争い、さらには戦争にまでなった場合はなるべく関わらないようにしたいと今は思っている。本当はそれを止めるように積極的に関わっていくべきなのかもしれないけど、その中で僕やソル、ジオの持つこの世界では突出した力を戦力として利用されることになったら目も当てられない。
……気になっているといえば、今後の世界における出来事、だ。僕がゲーム『オルタナティブ』のイベントとして設定したこと。これまでの経験で言えば、基本的にはこの世界はそれにそのまま沿う訳ではないようだった。知らないもの、または知っているのとは違う展開をいくつも見て経験してきた。
きっと、魔族領からの宣戦布告イベントも、それらのように違った――願わくばより平和的な――ものに自然と変化する、して欲しい、と今は楽観的に考えている。
「ん、そっちに逸れるの?」
「魔族領側の国境門はあっちだぜ」
考え事をしながらもずんずんと歩いていると、ソルとジオから引き留められる。ああ、そういえばちゃんと説明してなかった。
「こっちであってるよ。正面から入るのは面倒そうだからこっそりいこうと思ってる」
「面倒……はわかるけどよ。その方が余計面倒じゃねぇ?」
「ふふ、まあみてろって」
訝しむジオに得意げな顔で答える。こういう状況ではスキル『デバッガー』さまさまだ。
首を傾げるジオと、意外と肝が据わっているのか何も考えていないのか黙ってついてきたソルを連れて、さらにしばらく歩いてきたところで足を止めた。
「そこだな」
少し先の地面を右から左へ線をなぞるように指差して告げる。
「警戒装置か? 確かにその辺のはずだけどよぉ」
ジオはゴルゴンに強い影響力を持つ大地神教会の神だけあって、地形でちゃんと国境線を把握しているようだ。けど僕はちがう、“見えている”ものをなぞっただけだ。
「それで、どうするの?」
ソルが端的に次の行動を聞いてきた。けどここまで来たらやることなんて決まってる。
「通るんだよ。……見てろ、ここを……こうして……それから……こう……で、こうだ!」
体をくねくねとさせながら慎重かつ大胆に歩を進めていき、さっき指差したラインを通り過ぎたところで振り返った。
「わ、マスターすっごい」
「え、な、あれ?」
ソルは純粋に驚いていて、ジオは戸惑っているようだ。しかしジオがいくら魔族領側の国境門があるはずの方向を二度見、三度見したところで、一向に警報は聞こえてこない。
「何やったんだ?」
「簡単だ、警戒装置のだしてる探知魔法のラインを避けて進んだんだよ」
「はぁ!?」
ジオはさっきからいちいちリアクションしてくれるからちょっと気持ち良くなってきて、指を一本立てて説明を始める。
「つまりな、魔法系技能の上位にある魔力視スキルと盗賊系の危機感知スキルを組み合わせて――」
何らかの技能を高いレベルで修めることで覚えられるスキル。それをさらに複数組み合わせることで可能となる妙技について語っていると、途中で降参だという風に小さく手を挙げたジオに遮られる。
「わぁかったよ、ボス! とにかく、オレらはどうすりゃいいのかだけ教えてくれ」
ソルもその隣でうんうんと頷いている。あぁ、つい説明したい欲に流されてしまっていた。
「あー、えっと、まずそこに一歩踏み出すだろ。それから体を左に捻って――違う、違う、そっちから見て左だって! それから腕を――」
やや気恥ずかしいのを飲み込んで、説明を始める。情報の伝達に苦労はしたものの、しばらくして無事に三人とも魔族領への侵入を果たしたのだった。
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