四十話 装備万端
「い、今のはお知り合いだったのですか? やはり神々の眷属か何かで……?」
童顔の商人代表が恐る恐ると聞いてくる。突然少年が近寄ってきて何事か話して、僕たちが驚愕し、そして目の前で霧のようにその少年が消え失せたのだから、驚いたというよりはもう怖かっただろう。
「ん? ええっと……、あれが誰かは正直僕らもわからない。けど、神に類する何かっていうのは……、推測だけどそうかもしれないな」
言葉を選びながら説明すると、三人の代表ドワーフたちは動揺したようだった。特に教会代表である華美なローブ姿の女ドワーフは足元まで覚束ない様子だ。
「まあ、ボスもわからねぇって言ってんだ。もういこうぜ」
煮え切らない議論に焦れたのか、あるいは僕が動揺する話題を切り上げてくれたのか、とにかくジオの一言で移動を再開し、自然と話も謎の盗賊少年から旅の準備へと戻っていく。
その後は特に問題らしい問題も起こらず、スムーズに準備は整った。
「それで大丈夫そうか?」
「ん……、うん。問題ないよ」
ジオの確認を受けて、背負っていた槍を一度引き抜いて構える。買う前に確認した時と同じ、手にしっくりと馴染む。
「っ!? そ、そうですかい」
今ほっと息をついた鍛冶代表が作ったというこの槍は、何といえばいいのか……とにかく取り回しがしやすい。スペックの話というか、ゲーム的にいうところのアイテムステータス値的なことでいえば、ゴルゴン最高の鍛冶職人が作ったこの槍に近い性能のものなら僕でも作れる。僕ことテスト・デ・バッガの持つスキル『デバッガー』はプレイヤーが習得可能な技能であればあらゆる技能を世界トップクラスのレベルでこなせる。
世界でも鍛冶で名高いゴルゴンの、しかも鍛冶代表の作と同じものはさすがに作れないけど、それでも近づくことはできる。あえて自分でやらずに頼んだのはそのわずかに追い付けないスペックの差を見込んで……ではない。
この世界で目覚めてから散々味わってきたゲーム『オルタナティブ』との違いが、ここにもあるのではないかと思ったからだった。
そしてその成果は、期待をはるかに上回るものだと実感している。数字では表せない使用感みたいなものが圧倒的に違う。
「うん馴染む。手の延長みたいだ」
「そうですかい、そうですかい」
軽く穂先を揺らしながら満足していると、鍛冶代表の目尻もどんどんと下がっていく。渋めの造りをしたその顔は、今や絵に描いたような恵比須顔だ。
「ソルは、大丈夫そう?」
一通り満足して、槍を背負いなおしながらソルにも確認する。
「うんっ!」
元気のいい即答だ。
ソルの方は武器はあったから、買ったのは部分装甲と呼ばれる鎧の一種。鎧とはいっても着るようなものではなくて、服の上から装着するプロテクターのような感じのものだ。
防御能力よりもとにかく動きを阻害しないことを重視したそれは、元気よく動き回るソルにとって満足のいくものだったらしい。
「オレも、もちろん問題ねぇよ」
視線を向けるとジオからも頼りになる言葉が返ってきた。
ジオは元から大地神への献上品という形で一式装備が揃っていたようだった。出会った時から来ていたブレザータイプの制服のような可愛らしくもどこかフォーマルな装いの上から、ソルのものとよく似た部分装甲を着けている。
一カ所違うのは腕周り。小柄なジオからすればごつすぎるくらいの重厚な手甲が、そこだけは部分装甲というには厳重過ぎる主張をしていた。それは防具にして攻撃手段でもある攻防一体の格闘手甲だった。
「どうだ?」
「かっこいいよ」
「へへっ」
その手甲に覆われた腕でシャドウボクシングのような動きを披露したジオを素直に褒めると、嬉しそうな誇らしそうな、なんとも無邪気な表情で笑っている。
ちなみに元からジオが持っていた装備以外はちゃんと“買った”。商人代表から「お代はいらない」とか、教会代表からは「献上させてください」とか、鍛冶代表まで「使ってもらえるのが報酬」と言っていたけど、さすがに最高級品をただでもらうのは気が引けすぎる。
というか、僕とソルの装備で七十万シントほど支払ったけど、これでも多分相当な値引きがされている。まぁ鍛冶代表がどこか奥から取り出してきたこの槍なんかは元から値をつけてはいなかったようではあったけども。
とにかく、さらに仲間とも合流出来て、装備もようやく整った。これで不測の事態への備えもできたし、あとは魔族領へと踏み込むだけだ。
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