未来編・九話 疑いの芽
たん、たん、たん……と軽い音が規則的に室内に響く。
対して技術開発部長の
二人は対照的な様子ではあるものの、その内心の憂慮は一致していた。画面の向こうでしばらく前から気配の消えている
もはや当然のように『DEUS』の“中を見に行った”ことには構わず、今は何が起こっていて、そしてこれからどうなるのかが重要だった。終業時間の後から非公式に始まったこの場は、既に深夜となっていた。ちらりと壁に据えられた時計に目をやった出雲が溜め息を吐く。
と、それを合図にしたかのように、画面の向こうに気配が戻る。
「どうだった?」
目を開けて腕組みを解いた柳が、声だけは落ち着いた調子で問いかけた。
「ん~? 入る前にも言っておいたけど、よくわからなかったよ」
外部からの干渉内容に、『DEUS』とその生成物がどうなるのか、そしてその“犯人”は内部を見たところできっとわからないだろう。それはゴーストが再びの侵入を試みる前に言っていたことだった。
予想通りで期待外れの報告に、柳は僅かに眉間の皺を深め、出雲は露骨に息を吐き出す。しかしゴーストの報告はまだ続く。
「でも……あの世界の種については、取っ掛かりを得たかもしれないよ」
「「っ!?」」
出雲と柳は見事に同時に喉を鳴らした。それが面白かったのか、ゴーストは少しだけ笑いを飲み込むかのような間を空けて、続きを話し始める。
「前はなるべくAIとの接触を避けてたけど、今回は情報収集のためにあえて街に入り込んでみたんだよ。で、色々と聞き込みをしてみた」
「AI相手に聞き込み……か」
柳の呟きに含まれた感情に、出雲は内心で共感する。多数のAIが“人”として暮らす電脳空間上の“世界”。それそのものも、そこにするりと馴染むゴーストも、柳や出雲にとってはどうしようもなく違和感のある存在だった。
「……ふん」
如何にも不満そうに鼻を鳴らすのが画面の向こうから聞こえる。話の腰を折ったことに機嫌を損ねたのか、あるいは大手ゲーム会社社員の頭の固さに呆れたのか。
「まあ、いいか。それより、あの世界内の街中で神だって民間人から言われてる連中を見つけた」
「連中? つまり……、宗教団体が発生してるのか?」
「発生したのか、種からそう生成されたのかはしらないけど、宗教団体の崇める対象がいたってことさ」
ゴーストの言葉に、今度は出雲も柳も大きな反応は示さなかった。自然環境やAIを生成してシミュレートする『DEUS』とは、そもそもそういうものだったからだ。しかし当然、それはゴーストが得た情報の前段でしかなかった。
「びっくりするのはここからさ」
秘密基地の存在を親に仄めかす子どものように、ゴーストは声の大きさを抑えながらも音程は浮つかせる。
「そのリーダー格っぽい奴が、ジブンにはど~しても怪しくてね。ま、勘だったんだけど、かまかけてみた」
「かま……?」
今一つ具体性に欠けるゴーストの話に、出雲は疑問符で返した。それを受けてゴーストは一層テンポよく話を続ける。
「そ。現地風じゃなくて、明らかに“外”を感じさせる自己紹介をね、してみたのさ。そしたらそいつ、何て名乗り返してきたと思う?」
「は? その宗教団体のリーダーがか? 知るかそんなの」
調子よく尋ねてくるゴーストに、出雲は反対に機嫌悪そうに答える。しかしゴーストの態度には腹をたてつつも話の続きは気にしている態度に、話し手の機嫌は良くなったようだった。
「街の連中に“創造神”だって言われてたそいつはジブンに名乗ったのさ、……この世界の“開発者”の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます