三十八話 思わぬ再会

 放心ぎみの商人代表、定期的に「私の地位が……」と呟く教会代表、そして僕の方をちらちらとみてくる鍛冶代表について行く形で、僕らはゴルゴンの街中を歩いていた。

 

 「武器とか装備を揃えたらすぐに出発するのか? ここにしばらく滞在してくってつもりでもねぇんだろ?」

 

 ざっくばらんな口調で確認するジオに僕が答えようとする前に、急速に目の焦点が定まった商人代表の若く見えるドワーフが反応を示す。

 

 「じ、ジオ・トゥール……、まさかのまさかとは思いますが……、ここを離れるおつもりですか?」

 

 他二人のドワーフも同じことを聞きたいようで、ごくりと生唾を呑む音が響くようだ。

 

 「おう、当然だろ。オレがついて行かなくちゃ始まんねぇかんな」

 

 対してジオの方は実にあっけらかんと告げた。僕としても本能的にというか、何か使命感めいた感情としてここに仲間を置いていくという選択肢は思いつかない。

 

 「そんなぁっ」

 「な、なんか気に障ることをしちまったんでしょうか!?」

 「つまりその間は役職も安泰……?」

 

 ゴルードの最高権力者たちが一斉にジオへと泣きつく。いや、一名は違う気もしなくもないけど。

 

 「だぁっ、鬱陶しい! ここがオレの縄張りだってことは変わんねぇ、それでいいだろうがよ」

 

 ジオの言葉に、三人はしぶしぶと納得した様子をみせる。あ、それでいいんだ……、と思ったけど、ジオはあくまでこの地で神として祀られていただけで統治には全く影響ないだろうしね。ドライな言い方をすれば気持ちの問題だけで実利的には何の問題もない。特にジオ自身がこう宣言しているならなお更だ。

 

 「それで、そ、そそ装備というのは、な、ななな何をお探しでしょう?」

 

 鍛冶代表の、種族的に若い見た目ながらも渋い雰囲気のあるドワーフが、がちがちの態度でそう聞いていきた。なんかさっきまでより緊張してる?

 

 「まずは武器かな、あとは適当に色々な装備をみたい」

 

 確定で買いたいのは僕の使う武器。あとはソルの装備品だけど、武器は僕がファストガで作ったロングソードがあるし、補助防具的なものでいいものがあればって感じだから、とりあえず色々と見てみたい。……あぁ、そういえばジオの装備品はあるのかな。

 

 「そ、それでしたらぁっ、まじゅっ、まずは、こちらにぃっ!」

 「いや、そんな緊張しなくても大丈夫だって」

 

 いつもは親しい相手以外にはわりと敬語で接するのだけど、相手の態度につられて普通に話す。まぁあまりに緊張しているのをほぐそうという意図もある。

 

 というかこの鍛冶代表の人、信仰するジオ相手でももう少しはすっぱというか職人ぽい話し方だったよね?

 

 「きき緊張しますともぅ!? わ、我ら鍛冶師にとって創造神様はモノづくりの頂点でありまするればっ!」

 「モノづくりの頂点って、いや、まぁ意外と的を射てるのか?」

 

 神がどうのは、僕が言うのもなんだけど、よくわからない。けど職人さんからこう扱われるのは、一人のクリエイターとしてこそばゆくもありながら、うれしいものだ。この世界で創造神として尊重されるのは、僕が心血を注いだゲーム『オルタナティブ』を褒められるのに等しい。

 

 そんな風に彼らから恭しく接されつつも歩いていると、かなり周囲の注目は集めているようだった。道行く現地人らしきドワーフや、旅人や商人らしいヒューマンたちがみんな好奇や驚愕などを交えた視線を向けてきている。

 

 気になるけど、気にしても仕方ないな。そもそもジオはここで大地神として周知されていたようだし。

 

 と、気にしないことにして意図的に周りを見ないでいたところ、ソルに後ろから指でつつかれた。

 

 「ねぇ、マスター? あれ……」

 

 振り向くと、もにょもにょと口を動かしながらソルが周囲の一カ所を指差していた。何か自信が無さそうというか、ソル自身も曖昧な記憶と照合しようと今も思案している様子だ。

 

 「何かあるのか……?」

 

 通り過ぎる人や、こちらを見る人。黙って様子を窺う人や、周りと何事か話し合う人。その中できょろきょろと視線をさまよわせる少年をソルは指したようだ。

 

 厚い生地ながら動きやすそうな服装に、腰の後ろには二本のダガー。ショキノ王国での黒オオカミの時に遭遇した盗賊少年だった。

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