三十七話 ここにきて神待遇
「ここがゴルード、かぁ」
ジオに状況を説明した後で、僕たちは鍛冶国家ゴルゴンの首都であるゴルードへと連れられてきていた。元から寄るつもりではあったけど、武器も調達したいと言ったら張り切って引っ張ってこられたという訳だ。
「なんだろう、まるで街そのものが窯の中みたいっていうか……」
「そうだろう?」
元は切り立った崖だった場所を抉り抜いて三方を囲まれた都市としたこのゴルードのデザインコンセプトはまさに窯だった。ゲーム『オルタナティブ』での鍛冶には窯どころか火は使わないし、実際の鍛冶でつかう炉もこんな上部が開放的な訳が無いから、あくまでちょっとしたイメージなんだけど、それでもニュアンスが伝わると嬉しくなってしまう。
つい、口元を緩めながらの返事となってしまった。
「で、オレの根城っつうか縄張りでもあるってワケだ!」
勢いよく言ったジオが、効果音でも聞こえてきそうなびしっとした動きで両腕を左右に広げる。
「ん?」
胸を張るジオの向こうから、三人のドワーフが駆けてきている。ぱっと見で少年少女に見えるけど、細かいところまでよく見るとそれなりの年齢のようだ。
「ジオ・トゥールよ! 一体どこへ行っておられたのか!」
「我らをお見捨てになるので!?」
「そ、その方たちはもしや新しい最高司祭だなどというのではない……ですよね?」
口々に叫んだり、嘆いたり、不安そうにしたりしている。三人は順に、豪華な服を着た完全に子どもにしか見えないドワーフにしても童顔な男、薄く髭を生やした職人風の男、華美で装飾過多ないかにも最高司祭っぽいローブを着た女、という外見だ。
そしてそれに返事をするでもなく、悠然とこちらだけを見ているジオが僕とソルに順に目をやってから三人のドワーフを示すように手を軽く振った。
「これがオレの舎弟だ」
「あえ? しゃてい?」
「へ、へぇ……」
まるで不良集団のトップが手下を紹介するような物言いに、思わず変な声がでた。ソルの方も戸惑っている。ファストガの天空神教会は中々に厳粛な雰囲気だったものなぁ。
しかし紹介された三人はというと、揃ってわなわなと手を、そして全身を震わせている。ほら……、そんな言い方をするから怒っているんじゃないか?
「お、お、畏れ多いことを口にされないでください!」
え……、そっち?
「へ、へへ……、舎弟ってか。いやジオ・トゥールがそれでいいなら別にってよ、へへ……」
嬉しそうだな!?
「あ、いえ私は最高司祭ですので」
そこはドライか!? っていうかこの女の人、さっきも自分の地位を心配していたのか……。
「ちなみに、こいつらは五指会議のメンバーで、こっちから商人、鍛冶、教会、の代表な。細工と付与の奴らは多分仕事してんだろ」
五指会議というのは正式には五指職人会議という名前で、この鍛冶国家ゴルゴンにおける最高権力だ。名前の通り五人のメンバーで構成されていて、この国を支える職人や商人の代表者が就いている。メンバー中五分の二は職人じゃないけど、正式名称に“職人”とつくのが、この国の気質と成り立ちを表している。
しかしソルの実在はファストガでは秘匿されていたし、ソル自身も神としての振る舞いはしていなかった。僕にしても「自分が創造神シンティーネ(のモデル)です!」なんていったことないし。
それに比べると、この大っぴらに大地神としてふるまうジオの姿には僕もソルも面食らってしまった。まぁ神としてっていうか、地元の大親分とか一大組織のヘッドって感じだけども。
紹介はもう済んだということなのか、ジオは続けてここへ来た用件に取り掛かろうとしているようだ。
「そんで、オレのボスが使う超強ぇ武器と、ソルにも良さそうなモンを探してんだけど……」
僕のことを“オレの”ボスと殊更に強調して呼ぶジオの表情は嬉々としている。口に出してそう言えるのが嬉しくて仕方ないといった様子だ。ソルに対しても親しさに満ちた言い方で、何か役に立ちたいようだった。
そんな口調と態度のわりに可愛らしいジオに僕とソルはにやにやとする。が、五指会議のドワーフたちにとっては驚愕だったらしい。
「ぼ、ぼぼ、ボスぅ!? ジオ・トゥールの上に位置する存在など、それは……っ」
「はっはは……、すげぇお方なんじゃねぇか」
「そ、そちらの赤髪のお嬢さん、いえお方は……、て、てて天空神さまなので?」
三者三様に驚き、慌てていた。
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