三十五話 落ち込む二人に訪れる騒々しさ
「……残念、だったね」
「ああ……力も、判断力も、足りなかった」
モルモとガーテンを離れて、今僕とソルはさらに北上している。このままゴルゴンの首都を通り過ぎて、北部国境を目指すつもりでいる。
「あの二つの村、どうなるんだろうね、これから」
「…………僕らには、どうしようもないよ」
黒ヘラジカを討伐した僕たちは、英雄的な活躍をした旅人として称賛された。けどそれはどこか見たくないものから目を逸らすような空々しさで、ただただ居た堪れなかった。
どちらの村にも、今回の事件で僕の経験した一部始終は報告している。ガーテン側の村人が多数目撃はしていたはずだけど、モルモ村には僕たちや他の旅人、商人たちから話を伝えた。
当然ガーテンとしてはあのドルフはもちろんとして、けしかけた連中にも何らかの罰を与えるって話だったけど、それをモルモがどう受け止めて、これからあの二つの村がどうしていくかは、彼らの問題なんだろう。……結局のところ、僕は創造主ではあっても支配者ではないのだから。
もしも、ゲーム『オルタナティブ』が実在の異世界化してそこで僕が右往左往するっていうこの状況を作り出した“誰か”が、どこかで見て嗤っているのだとしたら……
「許せないよな」
「ん、何が?」
急に不穏なことを呟いた僕に、ソルは不思議そうな顔をする。けど、何となくだけど、それを具体的に話すのがなぜか憚られて、曖昧に笑ってごまかした。
「ゴルード? だっけ? には寄っていくの?」
話題を変えるためか、殊更に明るくソルが聞いてきた。ゴルードはゴルゴンの首都で優秀な鍛冶師や細工師が多い大規模な職人街といった場所だ。変わってなければ、だけど、ゴルゴンを統治する議会からして、優秀な職人から選ばれた五人で構成される“五指職人会議”となっている。
正に職人による職人のための職人の街だ。……見方によっては、そういう国中央の構造が地方の農村での鬱屈した雰囲気を生んでしまった要因なのかもしれないけど。
それはさておきだ。
「長く滞在する気はないけど、僕の武器を調達していくつもりだよ」
それでもいけるからってだけの理由で素手で戦ってきたけど、今後何があるかわからないしな。いいものを買うか、場合によってはゴルードでも鍛冶場を借りよう。
「そっか」
空気が悪くならないように明るく振舞ってくれるソルだけど、僕と同じでさすがに気が滅入ってはいるようだった。端々の動作に影がある。
こういう時に、僕はだめだな。自分や周りの空気にわりと流されるというか、そういうのを吹き飛ばして明るくするような勢いみたいなものは持っていない。
「――ゥ」
何か聞こえた? いや気のせいか。
「なぁ、ソル」
「ん、何? マスター」
上手い言葉は見つからないけど、とりあえず元気だそう的なことを言おうとしてみる。このまま無言になるよりはましかと思って。
「――スゥッ」
あれ、また?
「何か聞こえないか?」
「なんだろ、獣の遠吠えかな」
気になってみると、段々近づいてくるようにも聞こえる。
「――ォスッ!」
あれ、あそこに土煙が上がってる。
「もしかしてあれか?」
「あ、そうかも」
段々近づいて……、土煙の主は……
「獣じゃないな。髪の長い……女の子か?」
「アタシにもそう見える」
姿が確認できる距離からは、一気に目前までやってきた。やや息を切らしているその子は、長い腰までの茶髪をかき上げて、胸を張った姿勢で茶色い瞳をこちらへ鋭く向ける。一見お嬢様風というか、優し気な造形の顔つきだけど、その表情は不遜で攻撃的な印象だ。
もしかして敵なのか……、と思ったところで、その子が口を開く。
「ボスッ! やっと会えたな! オレが来たからにはもう大丈夫だ!」
「あ、もしかしてジオ?」
ソルが今気づいたという風に口にした呟きは、地形担当のツールの名前だった。
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